自作バイバート・ボックス(発眼卵ハッチェリー・ボックス)作成法 FlyHighFisher2型
虫カゴ改造タイプ
放流時の動画 |
ボックス回収時の動画 |
1型の作成時に実験的に作ってみた虫カゴ改造型でしたが、開封しなくても透明窓から中の様子を確認できること、水の透過性の良さ、砂の溜まりにくさから、現在管理人が使用しているメインのボックスとなりました。
数度にわたる改造と微調整の結果、個人的にはかなり完成度の高いボックスになったと思っています。また、他の方法でボックスを作成する際に流用できそうな、アマゴ発眼卵放流のためのデータ、写真もいくつか集まりましたので、まとめてご紹介しましょう。
「市販のWVB(ウィットロック・バイバートボックス Whitlock Vibert
Box )を買えばいいじゃないか」、という疑問を持たれる方もいるでしょうが、有志による漁協の許可を得て個人で放流する場合、または漁協が実験的に放流してみる場合、学校の課外授業の一環として行う場合などは、なるべく出費を抑えたいのが本音かと思います。
しかも、現在は某フライフィッシング系団体経由で、漁協や県知事の放流許可証(?)を添付しないと買えない(700円前後?)との事。
養魚場でアマゴの発眼卵を購入する場合は、1万粒単位での注文(最低でも5000粒単位でしか売ってくれない模様。多分、ヤマメやイワナも同じだと思う)になりますので、必要となるボックスはおよそ20〜40箱※。卵で2〜3万円の費用が掛かり、さらにボックスで12000円〜25000円程度の出費となってしまいます。
(※WVBは最大500粒程度入るようですが、それは卵を重ねて入れた状態で、適量は250粒程度との事。今回ご紹介する虫カゴ型は、最低640粒、計算上では最大1280粒、上段2段構造(実験中)では2000粒程度まで1箱で放流可能です。ただし、いずれのボックスも少な目に入れて、放流ポイントを分散させるのが望ましい)
一方、虫カゴ改造型ボックスを5個作成するのに必要な道具は下記のとおりです。全てダイソーなどの100円均一ショップで入手可能です。
1 虫カゴ | 5個 | ¥500 |
2 園芸用鉢底ネット3枚入り | 2個 | ¥200 |
3 ハンドドリルまたはピンバイス(直径4mm刃) | 1本 | ¥100 |
4 ナイロンバンド200本入り | 1袋 | ¥100 |
5 ターボジェットライター | 1個 | ¥100 |
6 丸棒やすり | 1本 | ¥100 |
7 カッターナイフ | 1個 | ¥100 |
8 ハサミ | 1個 | ¥100 |
9 ペンチ | 1個 | ¥100 |
1500円以下の予算で、5000粒の放流準備が整います。6〜9は少し日曜大工をするご家庭なら既にあるでしょうから、実質1000円程度の出費で済むはずです。
3は、電動ドリルがあれば楽ですが、ハンドドリル(ドライバーぐらいの小さいドリル、ピンバイス)でも十分可能です。
さて、いよいよ作成の過程ですが、1型でもご説明したバイバートボックス(「ウィットロック」「バイバート」は共に開発者2名の名前なので、本当は市販品のWVBを指す言葉です。自作ボックスは「ハッチェリー・ボックス」または「インキュベーター・ボックス」と呼ぶのが正しいかも。しかし、一般にWVBの名称が浸透してますので、この呼び方を使ってます)に求められる性能をおさらいしておきましょう。
@ 堅牢性・・・約2ヶ月間、自然の川に沈めるのだから、カゴで保護したり周囲を石などで囲むとしても、ある程度頑丈でなければならない。 |
A 稚魚の保護・・・孵化した稚魚が速やかに下段の部屋へ落ちていく構造(死卵が発生すると、その卵がかびてしまい、病気発生の原因にもなる。従って、稚魚が孵化したらなるべく早く別室に移動できる構造が望ましい)と、ある程度成長した稚魚がボックスから脱出できる構造(遊泳力が付く前に外に出てしまうと、簡単に外敵に襲われる。長く留まりすぎると、砂の進入や増水などでボックスごと全滅の恐れあり)。 |
その他、重要な情報としては下記のとおり。
・市販品のスリット幅は約3mm |
・卵の大きさは約5mm |
・孵化した稚魚は、縦に長いスリットなら、幅2.5mmでも通り抜けられる |
・孵化した稚魚は、下に潜る習性がある |
・孵化した稚魚は、四隅に固まる習性がある |
・孵化した稚魚は、隙間に頭を突っ込む習性がある |
・孵化したばかりでも、走流性(流れに逆らって泳ぐ)がある |
・卵・魚問わず死骸からはカビが発生し、伝染する |
・直射日光(紫外線)は厳禁 |
この点を忘れずに、まずは材料からご紹介します。
一口に「100均の虫カゴ」と言っても、様々なタイプが発売されています。この中で一番望ましい形状は一番左のタイプ。真ん中のタイプは持つ部分がトンネル状に繋がっていて、卵や稚魚が入り込んでしまう可能性があります。
心配であればホットグルーや発泡スチロールを切って詰めれば良いですが、それ程気にしなくても良さそう。
右の青いタイプは、底面が丸くなっており、下で説明する園芸ネット貼り付けが面倒なのでなるべく避けたいボックスです。角ばった形の物がベストである事だけ覚えて買いに行きましょう。
ちなみに、左2つの(緑色の虫カゴ)網のスリット幅は3mmで少し広め。何もしなければ、孵化したばかりの稚魚がボロボロ逃げ出してしまいますので、これを改造する訳です。
まずは園芸用鉢底ネットをカットします。ネットは卵や稚魚が直接触れる部分なので、バリやささくれに注意が必要。
虫カゴを開け、ピッタリとフタができる大きさに切り出します。
画像をよく見ると、長方形に切れ込みが入っているのが分かると思います。
拡大するとこんな感じ。
園芸ネットは2.5mm四方の網目なので、そのままでは卵も稚魚も通り抜けられません。そこで、上下段を仕切るこのネットには、卵から孵った稚魚が速やかに下段に移動出来るようにするため、凸の形をした切れ込み多数開けるわけです。
稚魚は想像以上にプニプニと柔らかく、3マスを繋げた凸字形の網目・・・つまり、L字型で2.5mm×5mmの大きさであれば、簡単に下段に落ちていきます。
なぜこのような作業をするかというと、死卵から発生するカビから隔離するためなのです。
恐ろしいことに、死卵から発生するカビは生きている健康な卵どころか、生きている稚魚にも感染し、取り込んでしまうことがあります。
先人の知恵である、孵化スペースと成長スペースを分けるこの方法は、発眼卵放流の孵化率を飛躍的に向上させたと言われています。
この作業が一番時間を使いますが、
@カッターナイフで5〜6マスを一気に切って細長い穴をあける
Aはさみで凸の部分を増やす
B稚魚が怪我しそうなささくれやバリを、ターボライターで溶かす
この方法が一番楽だと思います。Bの作業は稚魚への愛情と言うか思いやり。怪我しそうなバリを全て溶かしてるとキリがない。自然界では小石に埋まって生活してるので、稚魚でもそれ程弱くはないはず・・・と信じて、適当なところで終わらましょう。
次に、下段部分(透明窓が付いていない方)の側面、底面を全て園芸用鉢底ネットで囲んでしまいます。底面が丸い構造の場合は、側面の広い部分、底面を一枚のネットを曲げて無理矢理固定し、その後曲がっている部分をターボライターで軽くあぶってクセを付けておきます。
固定はナイロンバンドが簡単で丈夫。締めるときはペンチでグッと行うとずれる事が少なくなり、丈夫に仕上がります。
ただし、虫カゴや園芸ネットの歪みや、固定する穴の位置によってはピッタリと固定できず、隙間が出来てしまいますので、稚魚が入り込みそうであれば適宜ナイロンバンドの本数を増やすと良いでしょう。
なお、ナイロンバンドで固定する作業自体は簡単ですが、少なくて1面につき3〜4箇所×5回で12〜20本程度のナイロンバンドを締める作業となります。
時間がない方、大量に作る場合は、ホットグルー(100均ショップなら500円ほどで売ってます。スティック状の固形接着剤を熱で溶かして使う。)で固定する方法もあります。
片面から溶かしたホットグルーを滴下し、反対側に垂れて固まったグルーを再度溶かす。見た目以上に頑丈で、強度的には問題がありません。作業のしやすさから考えると、ホットグルーを使う場合は、ネットは外側に貼り付ける方が良いかと思います。
さて、仕切りネットの加工、下段をネットで囲む作業が終了すれば、殆ど完成したも同然です。
残す作業は、孵化した稚魚が下段に落ち、成長し、最終的にボックスの外に出るための「脱出穴」4〜8個を開けるのみです。
たかが穴の数個ですが、この脱出穴を最適な位置・大きさで配置すれば、稚魚の生存率が飛躍的に上昇すると考えています。
まずは、発眼卵から孵化した稚魚の成長過程と習性を、2007年の画像を使って簡単にご説明しましょう。水温は細かく計測していませんが、概ね6℃〜2℃で推移していった模様です。推測ですが、ヤマメも同じような成長速度だと思います(岩魚やニジマスは多分異なると思う)。
コレが発眼卵です。「黒ゴマが入ったイクラ」という表現以外に適当な言葉は無い。
11/26 発眼卵の状態。 卵の状態にもよりますが、放流後2〜3週間ほどで孵化します。受精卵から発眼、孵化までに要する時間は全て積算温度(毎日の水温×日数)が関係しますので、水温が高めで推移したら孵化は早まります。 |
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12/2 孵化はまだ見られない。卵の表面には既にシルトが堆積・・・(汗) ギッチリ詰めるとこのシルトが原因で酸欠になります。 数匹でも孵化すると、その稚魚が動き回ってシルトが取れるので、卵は意外とすぐに綺麗になります。 |
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12/16 発眼卵放流から20日目。 孵化した稚魚が多数確認できますが、この時点で稚魚はあまり動けません。しかし、モソモソと下に潜ろうとする動きはします。 体全体がかなり柔らかいようで、孵化してすぐに下段へスルーしていきます。 |
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12/22 放流から約4週間弱が経過。殆どの卵が孵り、今回紹介する虫カゴ型ボックスなら、9割9分以上の稚魚が下段にスルーしているはず・・・・ですが、人間の世界と同様、他と同じ道を好まないアウトローが数匹、上段に残っている事があります。 |
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12/24 虫カゴ改造型ボックスの場合、底面に園芸鉢底用ネットを張らないと、この時点で稚魚がボックスの外へ出てしまいます(2.5mmスリットでも出てしまいます)。 見てのとおり、泳ぐイクラ状態。旅立ちはまだまだ早すぎです。 |
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12/28 放流から約1ヶ月。体色が濃くなり、ひたすら4隅に固まって、中には逆立ち状態で下へ潜ろうとする魚が見られます。脱出穴が底面の4隅に開いていると、そこに頭を突っ込んで死亡→死骸からカビ発生→周囲の稚魚に伝染して大量死・・・という最悪な状況となります。参考 |
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1/6 放流から約40日。この時点でかなり遊泳力が強くなっており、外に出てしまっても自分で泳いで石の下に潜り込めそう。 しかし、まだまだお腹もポッコリしていて、外敵には格好のご馳走として狙われそうです。 |
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1/13 ヨークサック(お腹の栄養分)が少しずつ小さくなってきました。このボックスはホットグルーを使って簡単に作成するタイプと同様、園芸ネットを外側に貼ったタイプです。内側に貼ったタイプと成長差は特に認められません。 |
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1/19 ほとんどメダカのような風貌です。 泳ぐ力もかなり強く、流れに逆らってかなりの速さで泳ぎ去る稚魚もいます。 今まで稚魚は底にビッシリ張り付いていましたが、成長の早い固体は浮上し、脱出用の穴から外へ出ているため、少し数が減っています。 |
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1/26 ボックス回収 放流から2ヶ月の状態です。まだお腹のヨークサックが少し膨らんでいますが、そろそろ自力で餌を捕れるかもしれません。 これ以上ボックスにいると、今度は餓死の心配が出てきますので、これぐらいで川へ解き放ちます。 その後の検証で、ボックス回収は2月下旬位まで待った方が良さそう。餓死とかしません。 |
成長過程を観察した限り、2ヶ月経過した稚魚でも、まだまだ外敵からうまく逃げるのは難しそうです。
しかし、大水でボックスが流されたり、渇水で稚魚のいるスペース以下まで水が減ったり、土砂でボックスが埋もれてしまう等の事態が発生すると「全滅」という最悪のケースとなってしまいます。
発眼卵放流後に大雨が降り、川が泥濁りになった年のバイバートボックス。
下段スペースは殆ど土砂で埋まり、上段では100粒以上が死卵と化した。
また、下段にスルーしていた稚魚も埋まってしまい、予測生存率は30%以下だった最悪のケース。
稚魚がボックスの外へ出るタイミングは、
@稚魚がある程度動けるようになった時点で、すぐに脱出できるようにする・・・全滅のリスク低減の考え方
A稚魚が自力で餌を獲れるようになり、外敵から逃げられるまでボックス内に留める・・・脱出後の生存率重視の考え方
この二つがあります。
どちらも間違っていませんが、どこでバランスを取るかは放流する河川のタイプによって変わると考えます。
少なくとも安濃川の場合、稚魚が隠れるスペースが少ない事、外敵(カワムツや大型ストーンフライ)が意外と多いことから、Aがベストであると考えます。
@は稚魚の隠れるスペースが沢山ある川なら良いでしょうが、仮にボックス内の稚魚が全滅するような大水や土砂流出が発生した場合、既に外に出た稚魚も無事では済まないはずです。
野生魚の産卵が見られる、外敵がいない、稚魚の隠れ場所が多い等、かなり条件の良い川でないなら(放流を必要とする時点で、それはあり得ないが)、適期までボックス内に稚魚が残るように作った方が無難かと思います。
稚魚が脱出する最も良いタイミングは、今まで下へ下へ潜ろうとしていた習性(身を隠す行動)から、浮上する時でしょう。
天然の状態では、アマゴの稚魚は砂礫(産卵床)に埋まっていますので、当然、泳げるようになり、お腹の栄養分を全て吸収して餌を食べる必要が出てくれば、必然的に産卵床から抜け出す(浮上する)必要があります。
この時期は水温や水流で異なると思われますが、水通りの良いバイバートボックスなら発眼卵の状態から2ヶ月〜2ヶ月半ぐらいではないかと思われます。
この習性を利用すると、下段に落ちている稚魚は上に向けて泳ぎ始め、一度通り抜けた仕切りのネット(天井)にぶつかるはずです。
この際、上に掲載した画像からも分かるように、稚魚は壁に沿って泳ぐ性質があるようですので、4隅に穴を開けるのが当然効果的です。
そう思って開けた穴です。初期型では全てこの位置に穴を開けていましたが、これは大失敗。左の写真は確か4mmの穴ですが、孵化したばかりの稚魚は直径4mmの穴は通り抜けてしまいます。
そして右は直径3.5mmの穴を複数開けたパターン。これは惨劇を招きました。
直径3.5mmの丸い穴は、稚魚の頭は入るけど、プニプニのお腹は中々入らない大きさのようです。結果、頭を突っ込んで無理矢理出ようとした稚魚が引っ掛かってしまい(参考)、そのまま斃死→カビが発生→周囲に感染→団子状に死魚発生という、魔の連鎖反応に陥ります。
解決策は、極めて単純なものでした。さすがに何度も稚魚の動きを観察していますので、発眼卵放流2回目で気付きましたが、確かめるのは1年後の放流ですので結果を確認するのには少々時間が掛かりました。
脱出用の穴は、底面より少し上の隅に、4mm程度で開ければよい。重要なのはこれだけです。
稚魚が数匹重なった場合、1cm程度の高さにはなりますので、孵化して割と早い時期から少しずつ脱出していくのが左2つのパターンです。
複数の穴を開ける事により、さらにそのペースは速まりますので、全滅をどうしても避けたいなら真ん中のタイプが良いでしょう。
一方、仕切りネットギリギリの位置に1個だけ大き目(4.5〜5mm。4mm穴を丸やすりで削れば、ドリルの刃は1本で済む)の穴を開ける右の画像のパターン。これは、浮上が始まればすぐに魚がスルーしていきますが、それまでは殆どの稚魚が残った状態になります。個人的には、この構造が最も好ましいと考えます。
4.5〜5mmの穴は、孵化直後の稚魚でも簡単に通れますので、ボックスが土砂で埋まっていく緊急事態が発生してもある程度は逃げられるのではないか・・・そんな期待もありますが、作業効率が良いのもメリットと言えます。
なお、脱出用に開けた穴は必ずターボライターで軽くあぶって、ささくれを溶かし、滑らかにしておきましょう。
特に4mm穴の場合、稚魚が脱出する際はスポッ!と音が聞こえそうな感じで出ていますので、多少穴が大きくなってもいいので、怪我しそうなささくれが無くなるまでライターで溶かした良いと思います。
放流する際は、ナイロンバンド2本で封印します。首から下げるヒモを通す穴が最初からあれば良いですが、無ければ取っ手部分にナイロンバンドを通しましょう。
後は発眼卵を入れて放流すれば、3ヵ月後には元気な稚魚の姿を確認出来るはずです。
具体的な放流方法、注意点などは発眼卵放流のトップページをご覧下さい。
漁協がある川なら、必ず漁協の許可を得て、ゲリラ放流にならないよう気を付けましょう。ヤマメ・岩魚・アマゴの釣れる川は、どんなに小さくても、まず漁協があると思って間違いありません。
なお、虫カゴ改造ボックスの耐久性については、2005年〜2009年の計4回使用したボックスでも、何の問題もなく使えます。
ベランダに10ヶ月放置したりと、適当な管理下でも破損なし。想定外にに耐久性が高いので、コストパフォーマンスはかなり良いかと思います。
※その後の検証で、6年ぐらいは使える事が判明。屋外で保管だけど。
丁寧に使えば10年いける?
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