日暦の皇子
アマテラスさまはおっしゃった。
「こんな汚れた世界はまっぴら。天のお国に戻ります。」
ツクヨミさまはたしなめた。
「しかしそれではこの世は闇。あなたの使命は地を照らすこと。」
「それでは私の代わりを作って、彼らに日の屋(太陽)を任せましょう。」

アマテラスさまは首から下げた見事な飾りを優しく外された。
そして、そこに下げられていた勾玉を、一つずつ手に取られると、空に向かってゆっくりと投げられた。

「水晶の玉は日の屋の王に!」
少しの曇もないその透明の玉は、天に投げられると輝きを増し、1人の若者の姿になった。
「睦月。」
アマテラスさまはこの若者におっしゃった。
「今から私はあなたの弟を11柱産み落とします。しっかり面倒を見るのですよ。」
「母さま、我々は何をいたせばいいのでしょう?」
「あの天に輝く、雄々しい日の屋を決して炎絶やすことなく、燃え上がらせるのですよ。」
「分かりました。」

アマテラスさまは、続けて翡翠の勾玉、めのうの勾玉、べっ甲の勾玉、黒曜石の勾玉…合わせて11個の勾玉を天に投げられた。

2番目の若者は如月、3番目は弥生、4番目は卯月。そして皐月、水無月、文月、葉月、長月、神無月、霜月、師走と次々に立派な若者になって行った。

最後の師走が周りをきょろきょろ見回して、アマテラス様に申し上げた。
「かあさま、御安心を。僕達があの日の屋をきちんと燃えさせますから。」
「任せましたよ、日暦の皇子たち。私は天に帰ります。」

こう言い残すと、アマテラス様は明るい光を放たれて、さっさと天に帰って行かれた。
「全く、あの方の我がままもいつになっても変わらぬな。困ったことがあれば、いつでも来るがいい。私はいつも静の屋(月)にいる。」
こう言い残すと、ツクヨミさまも静の屋に戻って行かれた。

後には12名の皇子達が残された。万葉の時代のことである。
連載もの(完結していません) 一話完結もの
天の尾羽張 睦月
登場人物紹介
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