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用語について

学習義務   支援教育   準備教育   朝夕保育  
学習者   昂進   同一性   両国語話者  
継続教育   サーメ語,ロマ語   人生観学   手工科  
国家教育委員会   教育施行者   落第   190日  
学習義務の修了   教育集団   授業料の無償   通学  
規律の維持

学習義務
 学習義務とは一般的に「義務教育 compulsory education 」として言われているものである。日本でいう義務教育とは「親が子に対して学校に行かせる義務」であって,義務は親に課せられていて,子にはない。しかしフィンランドでは本法第25条で「通常フィンランドに居住する子どもは学習義務を負う」いうとおり,子に義務が課せられている。この違いはとても重要で,その違いを表現するために本法の中では「学習義務」とした。
 しかもフィンランドに居住する子ども,といっているので国籍は問わない。厳密に言えば商用など,観光でない入国者の子どもは例え数ヶ月でも基礎教育(後述する準備教育を受けた後,基礎教育に進む)を受けなければならない。では,親は全く義務が課せられないかというとそうではない。第26条第2項で「学習義務にある子を持つ保護者は,学習義務が満了するまで出席させるものとする」といい,これを怠ると,本法第45条でいうとおり「学習者の保護者が学習義務の監視を怠った場合,学習義務監視の怠慢で保護者に罰を科す」と言っている。
 学習義務は,本法第25条でいうように「基礎教育で学習すべき課程を修了すること」が前提であって充分に学習レベルが到達していないと判断された場合には当然落第もあり得る。

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支援教育
 学習するのが義務である子は,理解の早い子や遅い子など,様々である。理解の遅い子はそのまま置いてきぼりの日本とは異なり,遅れている子を早く発見して対応し,遅れを取り返して次に進む,ということをする。第16条にいうとおり,遅れた子を発見して居残りをさせて,すぐに手当てする,これが支援教育である。
 その根拠は,本法第30条で「授業に出席する者には教育計画に沿った教育と学習者福利とを受ける権利がある」というように子ども達は教育権を持つと同時に,規定の教育課程を修了することが課せられているため,これに遅れた子どもには支援教育を提供しなければならないのである。
 2003年OECDが行ったPISA学習到達度調査でフィンランドは高得点を獲得したと同時に,出来る子と出来ない子との差が小さかったことは良く言われることであるが,これは毎日の地道な教師の目がくまなく注がれた支援教育あってのことであろう。
 中教審の審議(教育条件整備に関する作業部会(第11回)議事録<平成16年2月23日>)の中で

 フィンランドの授業時間数は少ないが、何故学力が高いのかという質問に対しては、教員の質が高いという回答だった。

と,事務局側が視察報告しているが,修士課程修了を基礎資格にする教員の質の高さもさることながら,日々の支援教育の努力の結果である,と私は思う。

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準備教育
 国外からの移住者のために実施される基礎教育を受けるための教育をいう。第9条にいうとおり,準備教育の年限は半年間である。

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朝夕保育
 なじみのない言葉であるが,aamu- ja iltapäivätoiminta で直訳すると「朝と午後の業務」といい,内容は保育である。婦人が職業を持つことは極当たり前のことであるフィンランドでは,7〜8歳児を一人家庭に残して仕事につくことは大きな心配であり,潜在的に保育機関設立の要望がある。日本では学童保育というものがあるが,その機能をフィンランドでは全国の基礎教育学校で授業が始まる前の朝と放課後,保育を行っている。就学前教育から大学教育まで無償のフィンランドの教育において,朝夕保育だけは有料である。しかし,高額な日本のそれと異なり,月額60ユーロと低額なのは,教育や福祉にお金を惜しまないフィンランドならではの政策である。  詳細は,第8a章を参照していただきたい。

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学習者
 日本では小学生を児童,中・高生を生徒と呼ぶが,フィンランドでは小学生から大学生まですべて oppilas(オッピラス,学習者)である。本法では所々に lapsi(ラプシ)とでてくるが,文脈から「幼児」と訳したり,「子ども」と訳したりしている。

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昂進
 昂進と訳したが原語では kehittää(ケヒッター)で,開発する,発展・発達させる,磨き上げる,現像する,などの意味である。「学ぶことを学ぶ」のが基礎教育段階の使命であり,問題解決能力を身に付けさせ,いくつになっても自分自身を高める資質を養い,世に送り出すのが基礎教育学校の勤めである。基礎教育法は人の生涯学習の入り口と捉え,法文化した進んだ視点を持った法律といえる。

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同一性
 かつて僻地の学校と都市部の学校とでは教育環境,教育条件など全ての面で歴然とした格差,不平等があった。これを解消するための法的保障を本条項で与えたものである。しかし,地方自治体や各学校の自主的な教育活動,教育政策を優先するという立場から画一的なそれを言っているのではない。

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両国語話者
 フィンランドの公用語は,フィンランド語とスウェーデン語である。公共の施設ではほとんどすべて両国語で併記され,放送される。これには歴史的背景がある。
 かつてフィンランドはスウェーデン王国の1州として統治され,スウェーデン語は社会の統治言語であり,支配層の言語であった。スウェーデン語ができることが社会を統治し,富を得る基本的な条件であった。その逆にフィンランド語話者は富を搾り取られる被支配層であり,これから抜け出る道は,教育を受け,スウェーデン語を学ぶことであった。その後,フィンランド語をスウェーデン語と対等に,国の統治言語にしようという運動が高まり,フィンランド語とフィンランド人のアイデンティティーの向上が図られた。その詳細は,こちらを参照願いたい。
 現在,フィンランド語話者は,フィンランド人520万人のうち93%,スウェーデン語話者は6%である。

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継続教育
 基礎教育期間は9年間である。この9年間で規定のすべての教育内容を修得すれば卒業ということになるが,中には修得不完全な者も出てくる。そこでそういう者に完全に修得するまでなお1年卒業を先延ばしして教育を受けさせる。その教育を継続教育と呼んでいる。第9条参照。

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サーメ語,ロマ語
 サーメ語は,ラップランド地方に古くから住む原住民,サーメの言葉である。ロマ語は古くからフィンランドに移り住んだジプシーの言語で,フィンランド人と同化せず,頑なにその文化を守り続けている。  サーメ語話者はラップランド地方を中心に約4,500人,ロマ語話者は約6,000人である。

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人生観学
 言語は,elämänkatsomustieto(elämän=人生を,katsomus=観る,tieto=知識)である。フィンランドの国教はフィンランド福音ルーテル教会(人口の85%)とフィンランド正教会(同1%)で,その他の宗派は合計して5万人ほど,宗派に属さない人は12%である。人生観学はクラス編成が出来ない少数派宗派の学習者やどの宗派にも属さない者,無宗教の人たちに対する,日本でいえば道徳教育に相当する内容の教育である。ただ,道徳教育と訳すと儒教または教育勅語のような雰囲気を想像するのでそのままの直訳とした。

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手工科
 職業教育としてではなく,普通教育として全世界に先駆けて初等教育学校の正式教科に導入したのはフィンランド人,ウノ・シュグネウス( Uno Cygnaeus )である。スウェーデン人オットー・サロモンであるという見解は誤り。手工科は専科教員ではなく,普通科のクラス担任が行うもので,その詳細はこちらを参照願いたい。また,導入当時は縫い物,編物,織物,木工などであった手工科が現在では金工,樹脂工,電気技術なども取り入れた「技術手工科」(tekninen käsityö )となっている。その詳細はこちらを参照願いたい。

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国家教育委員会
 国家教育委員会は教育省下の機関で,主として就学前教育,基礎教育,朝夕保育,継続教育,海外からの移住者の基礎教育を受けるための準備教育,高等学校や職業高等学校教育に対応する。これに加えて成人教育,障害者教育と訓練,海外からの移住者の職業訓練教育,芸術教育なども担当する。また,大学教育,高等職業専門学校の学術サービス業務も行う。

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教育施行者
 原語はopetus järjestäjä(オペトゥス ヤルイェスタヤ=教育を準備する者,教育を行う者)とあり,日本の学校教育法の中でいう「学校の設置者」に相当する用語である。原語に近い訳に留めた。

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落第
 落第は保護者の申告によって成立する。この申告がなかった場合,本法第22条でいうように学校・地方教育行政体は聴聞することになるが,落第に至るまでの長い過程で何度も保護者は学校に呼び出され,遅れている点を指摘されている訳であるから納得づくで落第を受け容れるであろう。

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190日
 1年間の授業日数が190日は,先進工業国中最も少ない。

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学習義務の修了
 「修了する」の原語は suorittaa であるが,これは「成し遂げる」,「遂行する」,「成就する」「満了する」「修了する」という意味である。きちんと学習課程を身につけさせて後期中等教育(普通高等学校教育や職業教育など)や実社会に送るのが教員・学校の勤めである。基礎教育学校で規定された教育内容を規定の教育課程に従って教育を受け,全て身につけることが修了の前提であって,身についていないことが分かれば放課後の居残り支援教育を受けなければならない。勿論学習者を居残りさせるためには保護者の了解を取っておく必要がある。また,落第か否かボーダーライン上にある学習者の保護者は,その選択の事前相談をするであろう。  このように学校と家庭との密接な連携によって,日々子どもの成長,学習効果のチェックをしながら教育を進め,全ての課程を修了したところで卒業となる。しかし,最終学年で未修と判断されれば,落第を申し出て最終学年をもう1年やることになる。2年目も未修であれば年齢制限によって基礎教育学校からは出されることになる。

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教育集団
 1つのクラスまたは複数のクラスをいくつかのグループに分割して教育するもので,学習者の興味を損なわずに教育効果をあげるとか,学習者の不足している部分を補うためのサブルーチンワークなど,クラスに固定させずに教育効果を高めるもの。  私が見たラッぺーンランタ市基礎教育学校の手工科のクラスでは,男の子のグループが木工,女の子のグループは手芸をやっていた。その詳細はこちらを参照願いたい。

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授業料の無償
 フィンランドでは就学前教育から大学教育まで授業は全て無償である。これは人口が少なく,自然環境の厳しいフィンランドでは優秀な人材が国の最大の資源であり,そのため人材育成に先行投資するという国策が基本にある。基礎教育学校では授業料のほかに教科書(これは貸与で数年に亘って使い続ける)や副読本・プリント,鉛筆ノートの類の教育用具,工作・裁縫などの材料や家庭科の食材そして給食費(給食費の無償化は世界に先駆けてフィンランドが最初),通学交通費や寮費など,すべて無償としている。  この背景には国が学習者に教育を受ける義務を課し,長時間学習者を拘束しているのであるから拘束する側が費用負担すべき,という考えが根底にある。

 平成16年2月23日に開催した中教審初等中等教育分科会・教育条件整備に関する作業部会(第11回)議事録「資料1」の中で,

(7)学校で使用する教科書の無償配布の有無、また、学校の運営経費の中で保護者の負担としている部分について

→ 小学校から大学(小中高は公立、大学は国立)まで、授業料は無償である。また、小・中学校の場合、教科書などの主たる教材は、学校に備え付けのものを使用している。それ以外の教材については、一部、親が負担している場合はある。

としているが一部誤りがある。「小・中学校の場合、教科書などの主たる教材は、学校に備え付けのものを使用している。それ以外の教材については、一部、親が負担している場合はある」は嘘である。ノート・鉛筆は支給されるし,給食費も無償,通学バス代や地方によっては通学タクシーまで無料である。「一部、親が負担している場合」があるというのは,親がプレゼントにポケモンの筆箱や支給品にはないカラフルな鉛筆を買ってやることがあるということをいっているのであって法的には第31条に言うとおりである。

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通学
 通学路が片道5Kmで往復2時間30分を越えると無償の交通機関を利用できる。電車やバスが利用できる地域はこれらを,できない僻地ではスクールバスならぬ,スクールタクシーを使う地域もある。

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規律の維持
 校内暴力やいじめに対する姿勢である。第36条が本法の制定された1998年時に,それを追う形で第36a,36b,36c条が2003年に追加されている。
 これら全体を読むとフィンランドでは暴力や脅しなど,積極的に表出する形の犯罪であるのに対して日本のいじめは陰湿で表面に出にくく,発見が遅れる危険性があるのではないだろうか。

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