ノータイムで打つことさえできれば雀力があるのかといえば、それは別問題。ノータイムというその瞬秒で、いかに場況や手牌を的確に把握して打ち回すことができるか、それが雀力である。
今回は、その雀力の鍛錬について書くつもりであったが、ちと予定を変えて、プロlの雀力について書くことにした。それは雀力の鍛錬と云っても、それを行う事によって、どんな雀力を身につけることを目標とするのかということをハッキリさせておいた方が話が分かりやすいと思ったからである。
プロlの雀力については雀話No.10「プロの雀力」でも書いた。内容は多少重複するので、こちらでは簡単にする。
まず単純に成績だけで云えば、ノータイムで500ゲーム打って、「勝率 32.25%以上 グレード2100未満 プラス率63.25%超」がプロlの最低の実力ラインというところ。参考:研究室No.8「麻雀ランキング」
最低の実力ラインとしたのは、囲碁・将棋にも初段から9段まであるように、麻雀プロlにだってレベルの差はあると思うからだ。しかし麻雀は囲碁・将棋のように実力差が明確に出るゲームではない。そこでプロと云っても、囲碁将棋のように10段階もの分ける必要はない。おおざっぱに云って普通のプロlとA級プロlの2段階程度に分ければ十分かも知れない。
しかし成績だけでは充分ではない。たとえプラス率7割のプレーヤーがいたとしても、3割はマイナスする。たまたまマイナスの波にぶつかれば、10ゲームレベルではいいところ無しなんてことは充分ある。
「いや、それが麻雀だよ」と云ってしまえばその通りだが、言い訳レベルと捉えられても仕方がない。やはりプロlともなれば、アマチュアが「さすがはプロ!」というところが必要だ。
やくざの家に生まれた子供が長じて作家になった。その作家の思いで話を読んだことがある。子供の時、花札で遊んでいると、家付きの中盆が「坊ちゃん、一緒に遊びましょうか」と近づいてきた。そしてそこに散らばっている花札をさっと集めて手のひらに載せたとたん、「坊ちゃん、1枚足りませんよ」といったそうな。
数年前にみたゴルフ番組の話。一番長いクラブであるドライバーの重さは300gくらい。そのドライバー、同じモノを5本用意し(4本だったかも)、そのうちの1本だけ、ソール(クラブの底)に1円玉を張り付ける。そして芹沢信夫プロに、その1本を当てさせるという内容だった。興味津々で見ていたら、5本を一通り持ち上げたあと、見事に当てた。これには、「さすがはプロ」とほとほと感心した。
そこで麻雀でアマとプロの差として、雀力の違いが一番はっきりと分かるのがメンチンの把握。かなりの上級者でも、メンチンとなると瞬時に待ちを把握するのは難しい。そこをノータイムで把握できれば、「さすがはプロ」ということになる。
また麻雀は得点の把握が絶対に必要なゲームである。最近は得点表示卓も普及しており、むかしのように点数を記憶しておかなくてもゲームはできる。しかしそのつどにおける得点を記憶しているくらいのアマはいくらでもいる。
ゲームが終わった後、東の1局から北の4局まで、各自のアガリ手とともに得失点の移動を振り返ることができるかどうか。プロlならできて当たり前。
しかしA級プロlともなれば、この程度ではまだ不足。バラメンチン(理牌されていないメンチン手)でもノータイムで打てる。アガリ手や得失点移動だけでなく、各自の捨て牌まで東の1局からオーラスまで振り返ることができるなど、もう一段の雀力を具えているくらいでないとA級とは云いずらい。
囲碁・将棋と麻雀では、ゲームの内容が異なる。囲碁・将棋ではプレーヤーの手順には基本的に意味がある。そのうえ相手は1人なので手順も記憶しやすい。しかし麻雀では、相手3人が前巡とは関係ない牌をランダムに打ち出してくる。ランダムな状況というものは記憶しにくい。しかし1年前、1カ月前のゲームではなく、いま終わったゲームのこと。プロlともなれば、いま終わったゲームくらい完璧に記憶していて当然だ。
ではノータイムで打っていれば、そういうプロ並の雀力が身につくであろうか。残念ながら、それはない。ノータイムで打って身につくのは、基本要素としての雀力くらい。そこで次回は、プロレベルの雀力を身につけるのにどのような鍛錬が有効か、そんな問題について考えて見る。
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