Manner 牌品

     (19)闘牌フォーム 1


麻雀の殿堂で紹介した空閑緑の論考。
※麻雀専門誌「麻雀春秋(昭和5年12月号、日本麻雀連盟刊)」掲載。

 内容は、ゲーム進行のための基本動作の解説。自動卓の使用が当たり前になっている現在、進行に関係なくなってしまった記述もある。しかし現在でも参考になる記述はあるし、当時はそのように進行していたことを知るのも有益と思う次第。

 1,930AP(昭5)の論考なので、原文は旧漢字や旧仮名使いであるが、新漢字・新仮名使いに直した。また不明瞭な箇所や読句点などを修正した。


 いかなるスポーツにおいてもフォームの美しさがその重要な部分を占めることは否定されないのと同じように、日本の麻雀がスポーツである以上、フォームの優美と云うことが問題となるのであります。ことに雀品ということをやかましく云う日本においては、一層、その感を深くするのであります。

 じっさい戦ってみて、その打牌 摸牌のフォームのフォームの整然たるとき、そこに私は1種のミュージカルな旋律さへ感じるのであります。いかに技は鋭くともギゴチない動作は悪達者だという感じしか与えず、まったく敬服する気にはなれないものです。また徒(いたずら)にわざとらしい技巧を用いる人を見ると、いはゆるスタンドプレーヤーとしか受け入れられず、却って反感を買うものです。

 いかに高級な洋服 高価な和服を着ても 、下着からして整頓したものでなければ外面に値打ちがないと同様、雀品なるものも その基底において整っていなければ、いわゆる付け焼き刃となるのであります。少し初心者くさいと思われても じっと本文を味わっていただけば、雀士の心に必ず何ものかを植えつけずには置かぬと考えます。

第一 座席の決め方

 麻雀の競技を行うには、四角な机なりテーブルなりを囲んで四人ともかくも随所に着座する。この随所に着座したままで競技を始めるとすれば、一面から見るときわめて簡単であるが、運と技と感の三つが交錯した雀技においては、特に定められた正規の方法により、改めて座席を決めなければならぬ事になっている。この正規の方法、すなわち座席の決め方は、

(イ)四人のうち、誰かがまずサイコロを振る。
 これを誰と決めておかないところに、麻雀道の得意なところがある。珍客でも良い、高段者でも良い、年長者でも良い、前回に勝った人でも良い。誰でも理由の立つ人に振ってもらうのが慣習上の儀礼である。

 さればとて「どうぞ どうぞ」の連発で、あまり譲り合って時間を浪費するのは感心しない。誰か機転を利かして「それでは御免、私が振ります」というくらいな挨拶でさっさと進行させるのも、スピード時代に処する寛容なことの一つであろう。

(ロ)サイコロはいつでも必ず二個共に振るのが原則である。
 しかしてこの劈頭に振った2個のサイコロの目の数だけ 振った人から右に数え、当たった人の席を仮東(かりトン)とする。

(ハ)仮東を表示する方法
 荘子(チョワンツ)東南西北の丸札を裏向きにして よくかき混ぜて仮東に当たった人の前に置く。丸札は四段に重ねてもよし、横1文字にしてもよし。また丸札の代用として東南西北の風牌を各1枚づつ裏向きにしてよくかき混ぜ、横1文字にならべてもよし。

 仮東に当たった人は、二度目の振り手となってサイコロを振る。この二度目のサイコロの目に当たった人から、丸札なり風牌なりを取り始める。

(ニ)四段に重ねた丸札なら疑問はないが、横1文字に並べた丸札風牌の場合は、そのどちらの側から取り始めるか決めておく必要がある。そこで横1列の場合は、どちらの側かに奇数の牌を1枚おいておく(もちろんこれは偶数の牌でもよろしい)。そして仮東の振り出しの目が奇数であれば奇数の側からとりはじめ、偶数だった場合は反対側から取り始める。

(ホ)四人が1枚づつの丸札なり風牌をとって、東を引き当てた人が仮東の席に着き、南はその右、西は対面、北は西の右に座を占める。これで座席が完全に決定したのである。

 この座席の決め方が 昭和五年度の日本麻雀連盟競技規定では最初のサイコロの振り手と二度目の振り手が同一人であったが、昭和六年から改正されて以上のように合理化されている。

第二 洗牌と砌牌

 座席が決まったら、次は牌のあしらいである。牌は花牌を混ぜないで一三六個、卓上に全部裏向きにしておくかき混ぜる。これを洗牌(シーパイ)という。せっかく裏向きにした牌も、かき混ぜるにつれ仰向きになる。それはまた裏向きにしてよくかき混ぜる。完全に牌がかき混ざった潮時を見て、四人が一斉に、2個の牌を一幢として十七幢を組む。これを砌牌(チーパイ)という。この砌牌の仕方については、諸家の間にいろいろなやり方がある。

・川崎備寛流 ナインエイト システム(九八式)
 すなわちまず九幢を作り、次に八幢を作る。後で作った八幢を二分して手前の九幢の両側につけて一列にする方法。

・天忠定流 セブンダブルファイブ システム(七五五式)
 すなわちまず七幢を作る。次に五幢五幢と2回作り、七幢の両側に加える。

・空閑緑流 ダブルシックス ファイブ システム(六六五式)
 すなわち六幢と六幢と五幢を三列作って、一番手前の六幢に中段の六幢を二分して加え、次に最後に作った五幢をその両側に分割して一列とする。

・テンセブン システム(十七式)
 すなわち まず十幢を作り、次に七幢を作る。後で作った七幢を分割して、十幢の両側に加え、一列とする方法。

 これらの諸流のうち、どれが正しいとか良いとは言えない。たとえば指が長いか短いか、手が大きいか小さいかなど個人差があるからである。そこでまず自己の習慣を第一とし、自らにふさわしい式をとりことが肝要である。

 でたらめに砌牌して、長すぎたり短すぎたり、足りなかったり余ったりするのは他の迷惑になり、時間もかかる。これは相当の雀士としては恥ずべきことであるから、できるだけ早く的確に砌牌できるように、もっとも適する流儀を目と指先の習慣で出来るようにならねばならない。しかしあまりにも砌牌を急ぐために、充分洗牌せないようなことがあっては、良い雀士とはいえない。

A注:現在は自動卓が普及し、自分で壁牌を作ることはまずない。壁牌を作る場合でも17枚列を2列つくり、最初に作った17枚列を後から作った17枚列に一度に乗せる方法が一般的。しかし揺籃期においては最初から上下2枚組みの列を作り、後から作った2枚組みの列を最初に作った列の両側につけていた。このような面倒なやり方をしていたのは積み込みのイカサマを防止するためと思われる。

 さて各自 砌牌が終わると、これを自分の前方、約五寸くらい押し出すから、そこに桝形ができる。これを井圏(チンチョワン)という。従来この井圏は正方形に作ることを唱道した書物が多かった。しかし最近、競技の経験上 各自が少し右上がりに押し出すことが一番妥当と思われるに至った。これは競技中、もし推牌(トイパイ)を怠る人がいてもさほど不便を感じないことになり、推牌も片手でできるので便利である。

第三 親の決め方

 座席が決まって井圏ができただけでは、いまだ競技は始められない。すなわち親を決めねばならぬ。そこで親を決める方法は、

(イ)座席の仮東にある人がサイコロを振り、出た目を右に数え当たった人が仮親となる。

(ロ)つぎに仮親がサイコロを振り、出た目を仮親から右に数えて当たった人が本当の親、いわゆる荘家(チャンチャ)となる。

(ハ)競技の進行につれ、誰でも順に親になるのであるが、この荘家は最初の始めなので起荘(チーチャン)または起家(チーチャ)という。しかして親はいつでも東の位である。先に座席を決めるときの仮東も、本当の親が定まれば自分の仮東は消滅してしまう。偶然、本当の親と合致する場合もあるけれど、その基本観念に置いて別物である。

 親が上がれば同じ親が続いて親となる。いわゆる連荘であるが、親が落ちれば東から順に南西北と親が廻る。そして親になったものはいつでも東である。そこで包囲を覚えておくことは、競技上、きわめて重要である。

 なお荘家のことを東家、以下 順に南家 西家 北家といい、あるいは荘家 下家 対家(対面) 上家といい、荘家以外の三人を散家(サンチャ)、すなわち子という。

第四 サイコロの振り方と開門

 いよいよプレーマージャンだ。親が二個のサイを取って振り出す。この振り出し方は、自分の前の壁牌の上に軽く打ちつけて、河中に転々と転がるように振る。サイコロが卓の外にこぼれた場合は振り直すことはもちろんとして、井圏外に出たときでもふり直す方がよい。いわんや、最初から井圏外で振るなどは考えものだ。この場合、他家は、各自の手をあながち膝の上におろしておく必要はない。

 開門を決めるのは、親がまず振り、その出た目に当たった人が第二の振り手となり、出た目の合計を第二の振り手の前の壁牌右端から数える。これが開門の場所となる。開門の場所が決まると、従来 (ウェイ)を作ると称して王牌の上に嶺上牌というものを二個載せることを唱道した書物も多かった。しかしこれは必ずしも必須条件ではなくなった。

 親は開門によって開けられた箇所から二幢 すなわち4個の牌をとり、以下 順に南家 西家 北家が各二幢づつとる。三度とって各自六幢十二個となったら、四度目に親は次の幢の上の1牌と そこから1幢飛んだ次の幢の上の1牌を いわゆるチョンチョンと挟んで都合2個の牌をとる。

 次は親の残した牌を順次1個づつ取る。こうして親は十四個、子は十三個の手持ちとなるが、親の十四個はすでに競技開始の第一ツモ牌を便宜上 先に取ってきたものと解釈されている。またチョンチョンの取り方については、1個づつココに取る人と 指先に任せて一挙に所定の二個を取る人がある。

 麻雀競技で特に記憶しておくことは、牌は右から左へ、人は左から右へ廻ることである。すなわち前者は時計の針の廻ると同じで、後者はそれの反対と覚えれば簡単である。

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