Laboratory 研究室 

     (24)“
フー”の話


 中国公式麻将、通称“中麻(チュンマ)”でアガリは“フー”と表明する。この“フー”はもちろん“和了(フーリャオ)”“和(フー)

 中国の麻雀古文献として有名なのが、「麻雀門径」。そこには「方易求和(アガリ易い工夫をこらす)」とか「折刻求和(暗刻を崩してアガリを求める)」とある。明らかに“フー”はアガリの意味である。

 日本語による麻雀入門書でもっとも古いのは、大正6年12/1に上海で刊行された肖閑生「麻雀詳解」。次に古いのが井上紅梅による「支那風俗(T8/8上海日本堂)

 「麻雀詳解」と支那風俗はいずれも上海の出版社によるものであるが、日本国内で刊行されたもっとも古い本は、林茂光支那骨牌麻雀(T13.7.20華昌号)。いずれも歴史的書物として、超有名な本。そのいずれも、アガリは“和”という文字で記してある。

支那風俗p41
麻雀はポン和とも申しまして、その目的は全く和を作るのにあります。

支那骨牌麻雀p26
栄とは上がる意味で、これは他の者が棄てたその牌で上がる時にそれを取る事で〜栄すれば決勝(之を和了と云ふ)したのですから云々。

 それ以降、日本ではアガリはすべて“和了(フーリャオ)で表記されており、誰も疑問を持つことはなかった。もちろんσ(-_-)も、その1人だ。ところが後年、台湾へ行くようになり、現地の麻雀本をみるようになっておかしなことに気がついた。

 なんと台湾では“フー”がすべて“胡(hu-)”と表記してあった。たまには“(hu-)”とも表記してある。しかしえびす(中国の北方民族)を表す字で、アガリとは関係ない。と同じ発音だが、(のり)アガリがどういう関係があるのか分からない。

 最初は、単に“和”の当て字かと思ったが、“和(he-)”と“胡(hu-)”では発音が違う。そして台湾で“和”“無勝負”とか“流れ”の意味で使用されている。すなわち“和局”といえば、日本で云う“流局”の意味であるし、“和牌満貫”といえば“流し満貫”の翻訳である。

 あの聖徳太子様だって、「以和為貴(和を以って貴しと為す)」と述べている。そこで“和”和平の和=争いが無いという意味であることはナンの問題もない。そこで“和”が““無勝負”とか“流れ”の意味と云われればなるほどと思う。

 しかし古書でアガリの意味で使用されていた“和”が、どうしてここで“無勝負”の意味に転換するのか。また“和”“無勝負”の意味で使用されるので、アガリの意味に別の字を持ってくるとしても、どうしてそれが“胡(hu-)”や“糊(hu-)”なのか、ずっと疑問だった。

 先般、台湾で張子房(ちょうしぼう)さんと云う人にお会いした。ココで紹介したように、さんは麻雀博物館の台湾版を建設しようとしている人。それと同時に、麻雀の研究家でもある。そのさんと話しているとき、この話が出た。するとさんいわく。

“和”は和平(peace)の和であるから、もちろん“無勝負”の意味。そしてアガリの意味のフーは、もともと“符(hu-)”であった。このは、竹製の割り符(1枚の札を左右に割ったもの)のことである

古代中国では、前線にいる将軍にあらかじめ割り符の片方を持たせていた。後日、皇帝が使者を送るとき、その使者に残りの割り符を持たせた。将軍はその割り符を合わせて使者の真偽を確認した。そして両者が一致することを“符合”といった。そこで手牌とアガリ牌が一致することを“符(hu-)”と表現した#「」は、“竹冠”に“付く”で、もともと「」そのものに割り符の意味があった。

それが、なにかの拍子に“和(he-)”と間違えられた。しかし“和(he-)”はあくまで“無勝負”の意味。そこで台湾では、アガリは“符(hu-)”と同じ発音の“胡(hu-)”が用いられている
という話だった。

 な〜るほど。たしかには、現在、音符とか小符のように記号とか点数の意味で使用される事が多いが、切符とか護符(守り札)など、(ふだ)の意味でも使用されている。さんの話は現時点では仮説ではあるが、非常に興味深い話であった。

以前へ  以降へ  目次へ