ビーチコーミングとは、海岸に打ち寄せられた、自分の趣味、眼鏡にかなうありとあらゆるものを拾って歩く娯楽です。娯楽ではありますが、様々なその宝物たちから想像できる世界は広く、好奇心はつきません。
ここ西表は日本のほぼ最南端であり、かつ最西端でもあります。つまりそれは南から海流に乗って運ばれる様々な漂着物の最初に寄せられる場所なのです。
多くの人は、それら漂着物をゴミとしてしか認識しません。確かにサンダルや発泡スチロール、そういった「ゴミ」が目立つことは事実ですが、それらを掻き分け、お目当ての、或いは珍しい一品を発見した時の感動は何物にも代えがたいのです。
お金もかからず、たっぷり時間が潰せる。そんなビーチコーミングの世界をここではゆっくりとご紹介いたしましょう。
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前日の昼夜がこんな感じの曇天、強風だと次の日あたり大量の漂着物が打ち上げられてビーチコーミングの狙い目となる。
アダンの種子。南方から漂着するものもあるのだろうが、西表島では至る所に自生しているので非常に多く見かける。また、漂着ではなく、実際に海岸のアダンの木の下にも落ちている。
ハナビラダカラ。小型の宝貝。新しいうちは美しい紫の紋を背中に広げるが、古くなると、一番上の個体のように黄色い斑紋に変わる。これがハナビラのようなのでこの名が付いた。海岸近くのごく浅い岩礁に普通に見かける。
とりあえず、初めての方の必須収集アイテムです。
まずは揃えてみましょう。
モモタマナの種子。爪が立つぐらい柔らかなコルク質に包まれるが、最後の最後は固い殻で覆われている。その中には小さな核があり、これを割り出して食べるとピーナッツのようで美味。西表では庭木、街路樹に用いられている。
ミフクラギ(左)とオオミフクラギ(右)。ミフクラギ(別名オキナワキョウチクトウ)は自生しているが右のは見ない。南方産か。最近、園芸品店で、観葉植物としてこの仲間から芽を出させたものを売っている。因みに内地のキョウチクトウの実を私はまだ見ていない。
ハスノハギリの種子。黒い皮膜に覆われており、縦1センチほどで小型。下部にヘソ状の突起。木から落下したところの実は瑞々しい黄緑色で半透明の袋に入っている。この袋の下部には小さな丸い穴が開いており、そこからこの黒い実が顔を出しているが、穴の径よりは種子の方が大きくそのままでは出てこない。この実を食べたヤシガニを食べるとあたると伝えられている。
テリハボクの種子。海岸近くに生え、結構な巨木になる。方言ではヤラブー。貴重な建築材であったらしいです。完全球形のこの種子は長い間波に洗われているうちに外皮が剥け、真っ白になってしまう。非常に軽く、光沢はないが、可愛らしい。島の土産物屋さんで、この種子にヒレや唇をつけ、とても愛苦しいハリセンボンの人形にして売っていたが、あれは素晴らしいアイデア。パチリたい。
サガリ花の種子。西表の川沿いの湿地帯などに生えるサガリ花だが、房状に連なって咲く花は7月上旬が見頃。しかし、その後、結実するものは房の中でもごく一部。そんな結実した実の中で運のいいものが海に出て、また何処かの川に入って、次世代を担う。詳しくはサガリ花観賞を参考に。
シャコガイの貝殻。貝殻が分厚く固いシャコガイは死んでもなかなか貝殻は砕けず、打ち上げられたその存在感は大きい。地上の琉球石灰岩の中からもこの仲間の化石を容易に見つけることが出来る。因みにこれは「シャゴウ」と呼ばれる仲間。珊瑚などに埋もれず、砂の積もった海底で生活している。拾って帰れば、立派な灰皿になる。
ココヤシの種子。西表には自生しないので、恐らくは南方からの漂着と思われる。かなりの量が漂着し、また目立つ。ヤシの実はその繊維質に包まれた硬い殻の中に大量のジュースを含んでおり、腐る事がないから、漂着したものは飲めると聞いていた。で、いざ割ってみると、ジュースは何処へやら。殻の内側にはまさにチーズ状の黄色いものが分厚くこびりつき、臭いの臭くないの。あれは嘘です。なんでも、ジュースがあるうちは発芽しないらしく、これがこのチーズのようなものに化けてから発芽が起こるらしいですね。つまりある一定期間、漂流などして時間を稼がないといけない。漂流はすでに彼らの遺伝子の中に組み込まれた生活の一部なのですね。
サキシマスオウの種子。西表でも川沿いの湿地帯に多く見られる板根で有名なあの木の種です。綺麗なものでは油で磨いたように素晴らしい光沢がありますが、もとはやはりドングリ同様の黄緑色。それがゆっくりと茶色く渋めに変化していきます。面白いのは板根の発達したこの木は種子にも、板状の突起があることです。この突起には何か意味があるのでしょうか。大きさは大中小、様々で、形も楕円から球形、変化に富んでいます。非常に硬く錐でも容易に穴が開きませんが、虫の入った穴がよく開いています。虫の顎の力ってのはすごいものですね。
プラスチック製のブイ。色も大きさも仕様も様々。多くは何処かにロープを掛けるような穴がある。ペンキで中国語と思しき漢字をでかでか書いてあったりする。恐らくは台湾製であろう。鳩間島の港すぐそばの民家の石垣には、これらのブイに顔を描かれて置いてある。考えはするが、本当にやっているのを見ると、逆にユニークでインパクトが大きい。
発泡スチロール製のブイ。こうやって幾つも連ねて使うのが本当のようであるが、多くは単独で漂着する。恐らくは南方の漁民の道具であろうが、一体どうやって使うものなのか、謎が多い。大きな発泡スチロールの周囲に網を張り巡らせたものもよくある。
発泡スチロールの破片に付着した沢山のエボシガイ。彼らはもとはどんな姿で海にいるのか。このままの形で漂っていて、大きな漂流物を見つけるとそれにとり付いて流れるのか。はたまた小さなプランクトンの状態で、漂流物にしがみ付き、その上でこんな風に成長していくのか。またその時、繁殖はどうやって行われるのか。興味は尽きない。
ビーチグラス。割れたガラス瓶などの破片が細かい浜砂で磨耗し、角が取れ、擦りガラスのように半透明に濁ったもの。より角が丸く、半透明なものほど良いとされている。西表では赤、濃い青があまり見られないが、こんなものにも地域性はあるのだろうか。アクセサリーや工作の材として面白い。
ゴバンノアシの種子。サガリバナ科の植物で、サガリバナの花を大きくしたような花を同じく夜咲かせる。西表での自生はごく少ない。多くは南方からの漂着。比較的新しいものでは、茶色い光沢のある皮膜に覆われているが、これが剥がれると、中は繊維質の塊。名前はこの種子の形が碁盤の足に似るところから。
キクメイシ。珊瑚です。石灰質の骨格だけが残り、そこに珊瑚虫が入っていた穴が菊の花を並べたように開いている。手頃な大きさのものを拾い、浜を歩く間中、手の中でコロコロと転がしていると何故か落ち着きます。
コウイカのフネ。西表近海ではコブシメというコウイカの仲間がよく捕れますが、これはその内骨格。大小様々ですが、大きいものでは50センチにもなります。よく水にも浮かびますので、子供達がお風呂に持ち込んでお舟代わりに遊んだとか。無理に沈めようとすると、浮力で縦にズバンと急浮上し、その尖った先端で顎を怪我します。
ハマユウの種子。とは言え、他の漂着種子のように硬い殻を持ち、その内側に空気の層を持っている訳ではない。美しい花が散った後、そこにたわわに実るこの種子は、そのままユリネのようで、柔らかい。内地でも自生し、かなり北の海岸まで漂着しているようだ。
ハテルマギリの種子。扁平なジャガイモ頭にお河童のザンバラ髪。まるで沖縄の妖怪、キジムナーのようなこの種子は、海岸性の植物の実。木に着いている状態では外に薄い果肉を被っているが、それが潮に現れ、小さな小さなヤシの実みたいに変わる。木自体は一見クバディサー(モモタマナ)に似た大きな葉をつける。
クサトベラの果実と種子。こちらも海岸性植物。海草などの漂着物をどけてみると、非常に小さなこの粒を見つけられる。逆に見落としがちなぐらい。白い果実も漂着するが、柔らかく、ポケットに入れておくと壊れてしまう。
ヤエヤマヒルギの胎生種子。西表のマングローブを構成する植物の実生です。長くスマートで表面にはキュウリ状のイボがあります。浦内川の河口などでシュノーケリングをしていると、これらが無数に立った状態で浮かんでいるのを目にし、感動します。
オヒルギの胎生種子。左に同じくマングローブの構成種。こちらはちょっとふっくらとした感じで、イボがなくつるっとしています。代わりに縦に幾筋か入っており、オクラの実を思わせます。赤いガク裂片を被ったまま漂着するものもあります。
ソテツの種子。奄美や沖縄の海岸林に自生、もしくは救荒植物として植栽されているソテツ。その種子です。
雌雄ある木の雌の木のてっぺんに100以上もこの種子が入っていますが、最初は鮮やかな朱色の果肉に包まれています。それが、落果し、波に洗われ、このような剥き出しの種子になるようです。
ただ、漂着するものはいずれもヒビが入っていたりして中味が失われており、非常に軽いです。
漂着するものは発芽しないでしょう。