アマゴ発眼卵放流 ボックス回収
2010年1月23日 三重県 安濃川
動画で先行してお伝えしましたとおり、今回の発眼卵放流も無事成功してホッと一安心。
フライロッダーズ誌で、当サイトの虫カゴ改造型バイバートボックスが結構詳しく紹介されましたが、今後、各地の漁協の渓魚増殖活動が、解禁直前の成魚放流中心の考え方から変わってくれるきっかけになれば嬉しいですね。
なお、不確定要素が多すぎて正確な数字をなかなかお伝えできずにいますが、発眼卵放流から10cm(尾叉長)以上まで生き残れる確率は、ALC標識調査によると、現時点で3.4%から20数%という段階まで分かってきています。
ボックスの完成度が低い時からの集計データを含みますが、つまり、1万粒を2万円で放流したとして、340匹から2000匹程度の費用対効果は見込める模様。
さて、我々遊漁者は、漁協に1日券で1人いくら支払っているでしょう??(笑)
貧乏臭い突っ込みは置いといて、今回の放流と観察結果からは、成魚放流に金をかけるより、もしかすると河畔林(渓畔林・水辺林)の造成や川辺の荒廃した杉林を保全した方が、渓魚の増殖にはよっぽど効果が期待できるのではないか、と感じています。
いくつかの漁協では既に始めていますが、木を植え、山の環境保全に金を回す漁協はかなり本気かもしれません。放流が少ないとか文句言わないように!(笑)
例年、雪に祟れる安濃川の発眼卵放流ボックス回収。今年は穏やかな天候に恵まれました。
下流部は流れ込んでいる支流での工事の影響か、かなり砂が出ていましたが、放流ポイント付近はなんとか無事。
学生チームと手分けし、5箇所に設置したボックスを回収していきます。
流失防止&保護用のカゴに、2つのバイバートボックスを設置していますが、いくつかのポイントでは「片方のボックスには稚魚がウジャウジャ。もう片方は空っぽ」という現象が見られました。
これは、脱出用の穴の大きさや水流が当たる角度に起因する事が考えられましたが、見た限り、ボックスの仕上がりが大きく影響してそうな感じ。
とりあえず、稚魚が出れそうな隙間は、しっかり塞ぐことが重要。次回使うには問題がありそうなボックスを、私の方で引き取り手直しする事にした。
穏やかな日差しの中、順調に回収作業が進みます。
左上は、稚魚の早期脱出防止ネットを、カゴの外側に貼り付けたボックス。稚魚が虫カゴのスリット部分に丁度収まるので、開封直後は稚魚が整列してるように見える。
さて、今回注目したいのは、卵を川底に埋める、いわゆる”直まき”での発眼卵からの生存率。
卵を通水性のある袋に入れて埋めるので(流失防止にロープで縛ってあります)、生存率が確認できます。
通常、鮭・鱒族の産卵は、川底が礫(小石)質が好ましいとされています。そうでないと、産み落とされた卵が酸欠で死んでしまう、産卵床内に、秒速●m/sの通水性がないとダメとか、研究も色々されており、私もそう考えていました。
「泥・砂底の川は、アマゴの産卵に適さない。産卵したとしても、卵が酸欠で死ぬ」と。
ところが、安濃川に関しては、ほぼ全域で、いわゆる「産卵に適した」場所がありません。
しかし、ALC標識調査の統計結果から、それなりの野生魚の産卵が行われているのも確か。では、この子達はどこで生まれてる?
そんな疑問から始まったのが、バイバートボックスを使った放流とは別の「自然産卵に適さない川に、あえて発眼卵を埋めてみる実験」です。
・2年前は、虫カゴに周囲の砂と小石と発眼卵を詰め込み、そのまま埋設 → 砂と小石に混じったのか、死卵も稚魚も死んだ稚魚も殆ど見られず。しかし、5〜6匹の稚魚が確認されたことから、「もっとうまくやれば、直播きで生き残れるのでは」との問題提起となる。
・昨年の実験は、台所の三角コーナー用のネットに発眼卵を入れて、そのまま埋めてみた。この時から、「ドーナッツ型」と勝手に呼んでる、底上げ式の直播きも同時並行で実施。 → かなり多数の稚魚を確認し、砂底の川でも発眼卵・稚魚は酸欠で死なない事を確信。ただし、ネットの網目に頭を突っ込んで死ぬ稚魚が多数いた事から、さらなる改善を検討。
・今回は、発眼卵を不織布(ふしょくふ・・最近、マスクとかによく使われてる)に入れて埋設
普通に埋めたのが上の写真のもので、放流時から3〜5cmの土砂の堆積が確認されました。一見して、アマゴや岩魚の産卵に適しているとは言い難い状況です。
一方で、ドーナツ型と勝手に呼んでいる直播きがこれ。
左上が放流日の写真。右が今回の回収時。減水と砂の堆積により、もう少しで干上がりそうな状況でしたが、卵を埋めた部分(中心部)には砂の堆積は殆ど見られません。
まず最初に確認したのは、通常の直播きポイント。
袋を取り出してすぐ、かなりの数の稚魚が生存している事が分かりましたが、一方で孵化後、堆積した砂の重さで圧死したと思われる稚魚の死骸も多数確認・・・。
右上の白っぽいのは死んだ稚魚の卵のう。ガガンボの幼虫が涌いてました。
直播きの不織布には約100粒の卵が入れてあり、生存率は控え目に見て60〜70%。ある意味、成功と言える数値です。
こちらがドーナツ型。死卵は十数粒程度で、バイバートボックスと大差ない生存率を示しました。この2つの比較からすると、アマゴの発眼卵・稚魚は、一般的に言われてるものより通水性が悪くても孵化し、ある程度は生き残れるようです。
しかし、砂の流出が多い川では、その重みで圧死する稚魚が多くなる可能性がある・・・。
研究室の学生さん達と、色々話し込んでしまいます。通説に疑問を投げかけるのは、ある種自己否定や疑心暗鬼にも繋がるので、様々な可能性を考えてしまいます(密漁釣り師が、産卵床を踏んづけた・・・とか)。
「折角だから、正確な孵化率を数えてみよか?100匹ぐらいならすぐやろ?」
「そうしましょうか」
あらかじめ用意していたプラスチック容器で稚魚を適当にすくって、稚魚を数える。
「・・・8匹」
「・・・14匹」
「・・・21匹」
どんどん稚魚をすくってカウントする。
「・・・43匹」
「・・・52匹!まだまだおるぞ!孵化率はかなりいいんちゃう?」
「・・・65匹」
「・・・73匹」
「・・・80匹・・・孵化率9割超えるぞ、コレ」
「・・・86匹」
「・・・94匹・・・オイ・・・まだまだおるぞ・・」
「・・・・・・・・・・・101匹(汗)」
袋に入れた数より増えてどーする!!Σ( ̄■ ̄;)
「ひゃ・・100粒入れたと言っても、重さでカウントしましたからね・・・今年の卵は小さめでしたので・・・。」
とりあえず、苦労した割に正確な数字がでなかった訳ではありますが、99%とかそれに近い孵化率を達成したのではないかと思われます。
しかし、素朴な疑問がまた湧いてくる。
確かに稚魚は多数生き残ったが、そもそも普通に産卵された卵から孵った稚魚が、「3cmも積もった砂を掻き分け、水中へ泳ぎ出てこれるのか??」
疑問点は早速確かめたい。
学生さんに、「よし、今の時期しか出来ない実験なので、早速ここの川底の砂利を採取し、稚魚も10匹ほど持ち帰り、ザルの中に両方を入れて、抜け出せるか水槽で実験しよう。稚魚持って帰るのが難しいなら、今の時期なら養魚場で買えるはず。さぁやろう!今すぐやろう!」と、騒ぎ立ててみたものの、「い・・いや、卒論の提出期限とか準備とか色々ありますし、今回は無理っす・・・」と至極まともな回答が返ってきてガックリ。
ボウルの中を泳ぎ回る稚魚を眺めながら、ふと思いついた。
「ならば、この子達に、チョット埋まってもらいましょうかね・・・」
早速準備されたのは、車の中のゴミ箱に残っていたCD-Rのケース。
この状態で、稚魚の上に1cmほど砂をふりかけ、脱出できるか確かめる。虐待とか言うなら、シー●ェパードにでも通報しておくれやす。
砂を被せた状態で、ケースの下側から稚魚の様子を観察。ピクリとも動けないらしい(汗)
善良なわんぱくボウズ時代を過ごした皆様なら、アリやダンゴムシを砂に埋め、這い出てくる様を楽しんだ経験がおありでしょう(←本当か?)。あの”モゾモゾモゾ”という状況を予想したが、全くもって動けない。3cmも砂が積もって長時間経てば、死ぬのは明らか。
少ない観察結果から考察すると、アマゴやヤマメは、結構劣悪な環境でも産卵できるし、卵や稚魚もすぐには死なない。しかし、卵が産み落とされてから、砂やシルトが堆積すると、稚魚は水中へ出てくる前に死んでしまう可能性が高い。
つまり、魚を増やすなら、放流や人口産卵場造成ではなく、周囲の山から土砂が流れ出さないようにする取り組みをしたほうが、圧倒的に効果が高い可能性があるということ。極端な話、砂底の川でも、産卵後、土砂の堆積が殆ど無ければ、稚魚は普通に育ち、川へ泳ぎだしてくるはずだ。
保水性や餌(陸生昆虫)の供給、夏場の水温上昇防止などから、渓魚の増殖には山が健康でないといけないとよく言われるが、川辺の森林だけでもきっちり手を入れれば、産卵床から泳ぎだす稚魚の数を、一気に増やす事ができるかもしれない。
もう少しうまくやれば、日券¥500でも、渓魚が群れ泳ぐ川を実現する事が可能ではないかと、結構本気で考えている。