アマゴ発眼卵放流
2008年11月15日 三重県 安濃川

動画公開中


 思えば遠くに来たもんだ。


 このサイトを立ち上げた当初、まさかアマゴの放流記を書き綴る事になってるとは、全く予想していませんでした。
手探りで始めた発眼卵放流も今回で4回目。
ご承知のとおり、前回より三重大学生物資源学部研究室の協力(禁漁期の特別採捕等の関係上、今は私がお手伝いの立場ですが)を得る事が出来たので、放流の効果をより専門的に、科学的に検証する機会に恵まれています。

毎度の放流ドタバタ劇を書くのも飽きてきましたので(←オイ)、今回は今までの調査結果の簡単なレポートと、私見を書いてみます。



 発眼卵放流は効果があるのか。

個人・漁協を問わず、発眼卵放流は各地で活発に行われています。

成魚なら「○○匹放流しました。」「○○kg放流しました」で、放流の効果が明確に分かりますが、卵から放流した場合、その効果があったのか無かったのか、確認に時間が掛かりますし、例え魚が増えてもそれが放流の効果なのか、単に野生魚の産卵がうまくいったのか判断できません。

安濃川へ昨年放流された卵には、ALC標識・・・つまり、顕微鏡で見れば分かる目印が付いているので、最終的に放流の効果は検証可能ですが、「成功した」と言うには、やはり産卵・放精可能な大きさまで成長した後でしょう。
要するに、あと1〜2年様子を見なければ分からないのが現実です。

もう一方の視点から見て、ある程度の大きさ・・・例えば、持ち帰り可能な12cm以上に成長したとか、釣れるサイズまで成長したら「成功」と呼ぶ考え方もあるでしょう。

その意味では、発眼卵放流は確かに効果があります。ただし、これが成功と呼べるものかは保留します。

 今年3月末の、生育状況調査で捕獲した稚魚です。
3〜4cmぐらいの大きさですが、タモで1回すくえばピチピチと・・・・。
12月に孵化し、生物として最も弱い時期を無事乗り越えたのですから、個人的にはこの時点で「成功」と考えておりました。

その後も稚魚は順調に成長し、ALC確認で相当数の稚魚が放流魚由来である事が判明。ここまでは素直に嬉しかったのですが、8月を過ぎた頃(放流から10ヶ月程度)から状況が一変する調査結果が出てくる事になりました。

放流魚の数が激減しているようだ、と。


減少の要因は色々考えられました。
 @夏の高水温で死んだ(生き残れるのは川に順応した天然由来魚だけ)
 A元々は養殖場の魚なので、警戒心が薄く釣られやすい&外敵に襲われやすい
 B長距離を移動してしまった(ダム湖へ落ちていった)
 C刺し網等で一網打尽になった

 個人的にはAではないかと思っています。
卵から育ったとは言え、何世代も人間に飼われたアマゴ。おそらく、採卵・受精の作業でも、親魚(特にオス)は、早く・大きくなる個体が選ばれているはずです(わざわざ小さい魚の精子を搾る理由が無い)
 それはつまり、人間の与えた餌をパクパクとよく食べ、人影を恐れない魚とも言えます。
アマゴと言う魚は、川面に鳥の影が横切っただけでサッと逃げる魚だと思いますが、養魚場では、そのような神経質な魚(野生の習性が強い)は大きく成長できないでしょう。

結果として、警戒心の薄くて鈍感な、食い意地の張った個体が、養魚場では次世代に遺伝子を残せる事になります。
釣り人、鳥や大型魚にとっては、格好のターゲットと言えるでしょう。

アマゴの体長が10cmを超えたあたり、夏休みシーズンが終わった頃に突然姿を消しているようなので、残念ながら人間の影響が大きいように思えます。人影を恐れない養殖魚の習性は、自然の川で生きるのは大きなネックとなっているのかもしれません。
また、網に掛かるサイズ、釣り針に掛かるサイズ、食べておいしいと言われるサイズが持ち帰られる分岐点なのでしょうか。


なお、「野生魚」という書き方をしていますが、これは「天然魚」と明確に区別して使っている単語です。
ネイティブかワイルドの違いですが、安濃川の場合はかなり源流域まで車で入れますので、人の手が入っていない純血、つまり「天然魚」が生き残っている可能性は低いと考えます。

しかし、放流魚由来にしろ天然魚の末裔にしろ、この川でも自然の産卵は確認できています。
私も数回見た事がありますが、今回は学生さんがバッチリ撮影してくれました。

産卵床を掘るメスと、それを見守るオス。
この光景が宮川や雲出川なら微笑ましいのですが、安濃川は全体的に泥の堆積が多く、産卵場として快適な環境とは言えません。

しかし、こうして実際に産卵している事と、稚魚の中にALC標識の無い個体、つまり放流魚でない魚が多数存在する事実を照らし合わせれば、野生魚あるいは天然魚が産卵できる環境を提供してあげる事が、安濃川がより利用価値の高い(経済的な効用だけではなく、生物多様性の維持・教育・レジャーとしての場・地元文化等の総合的な観点で)渓流となる手助けになると思われます。

このアマゴ・・・・サツキマス?は、どこから来たのか。ダム湖から溯上してきた個体と単純に考えたくなりますが、そこの判断は専門家に委ねたいと思います。
仮に、私が3年前に放流した発眼卵から育った個体であるなら、発眼卵放流は「効果が高い」「成功」と呼べるようになります。


ついでに、半年間封印されていたアマゴの写真を公開。
実は、2008年の釣行記で、安濃川は殆ど登場していません。それもそのはず、バカ釣れしたから。

上の写真は4月末日の釣果の一部ですが、正直言って長野や岐阜の渓流に匹敵するか、それ以上の状況でした。

ただし、これを見て「よし、来年の解禁は三重県の安濃川だ!」と早とちりしてはいけません。前記のとおり、今年の夏〜秋の電気ショッカー調査では、綺麗サッパリいなくなった事が確認されています。


結局、安濃川に限って言えば、卵から放たれ、かなりの数が稚魚に成長し、さらにある程度の大きさまでは成長するものの、”さぁ、ここからだ”という段階でゴッソリいなくなる、と言うのが現状のようです。

その原因が人的なものか、養殖魚の遺伝的なものか、高水温や餌不足当の自然環境によるものか未だわかりません。

少なくとも、ガリガリに痩せたアマゴを釣った事がないので、餌の量は足りてると思われます。
考えられる可能性としては、ダム湖や下流へ集団で大移動している(養殖場の魚は、近親交配によって血が濃くなっているため、多数の魚が似たような行動パターンをとる可能性が十分考えられる)という可能性でしょうか。
この辺りの検証は大学研究室の皆さんに期待するしかありません。

素人的な言い方でまとめるなら、「漁協が無く、卵しか放流してない割にはよく釣れる」という事になると思います。


話が大きくそれてしまいましたが、今年の放流も大学研究室との共同作業です。

 発眼卵放流の効果検証や、各々思うことがあったため、今回も放流数は10000粒、全ての卵にALC標識が施されました。
ただし、今年は支流のひとつで谷止工(砂防堰堤の工事みたいなもの)の工事が行われており、定期的に泥水が流れてくるので、この支流より下流へは放流を行えません。
そうすると、明らかに1万粒は多すぎるので、別支流へ半数程度を放流すると共に、以前から興味のあった直播きの検証を本格的に行う事となりました。

禁漁になるとどこからともなく戻ってくるアマゴ。釣り人がいないので悠々と泳いでいます・・・と言いたいところですが、今現在も人間の脅威に晒されています。詳しくは後述します。

安濃川では水量・水温・魚影において最も優れた環境の支流。見てのとおり、泥で埋まりまくり、不法投棄されたゴミがその辺に転がっています(少し下流にはテレビや冷蔵庫が転がってる・・・)
こんな川でアマゴが生き残ってるのは、ほんとに凄い事だと思います。

今回使用されたバイバード・ボックスは、全て改造されたFlyHighFisher2型ボックス。
大水が出て泥に埋まらなければ、高い孵化率が期待できます。

実は、前回は改造が間に合わず、孵化した稚魚の大半が孵化直後にボックス外へ出てしまった事を確認していますので、今回は遊泳力が高まる時期まで、ボックス内に確実に留めておく計画です。

どんな生物でもそうですが、生まれてすぐの状態は一生の内で最も命を落とす危険が高く、これまで私が行っていた方法は、早くに稚魚を外へ出しすぎていたと考えます。
今回の放流方法で、ようやく集大成と言った感じでしょうか。


無事に育ちますように・・・。

 直播きにも挑戦です。最終的に、10000粒中4000粒の発眼卵放流が、バイバード・ボックスを使わない”直まき”となりました。
しかし、4000粒中2000粒は普通に埋めたものの、半数の2000粒は私のアイディア(思いつき)で、少々変わった方法で直播きされました。

名付けて、「ドーナツ型アマゴ発眼卵人工卵室造成直まき法」頑張ってそれらしい長い名称にしてみました。

要するに、シルトが多い安濃川では、普通に卵を埋めるとその上に泥やシルトが堆積し、卵が窒息死する可能性が極めて高い。
そこで、発眼卵の場所(卵室)を本来の地中から”底上げ”し、酸欠死を防ぐのが狙いです。
これが上手くいけば、川の状態が悪い渓流でも発眼卵放流が行えます。しかもボックス等の器具無しで、労力・金銭的な負担は極めて軽微になります。

来年の孵化状況確認が楽しみです。

これがドーナツ型アマゴ発眼卵人工ナンタラカンタラ直播き法(←オイ)の様子。
あとで孵化率を検証するため、ネットに入れています。

横から見るとこんな感じになっています。
大きい石でドーナツを作り、その中に握りこぶし〜ゴルフボール大の石を詰め込み、中央にくぼみを作る。そこへ発眼卵を撒き、上から礫(1〜3cmの小石)をふりかけ、その上に平べったい石で蓋をして(卵に重さが伝わらないよう、周囲の岩に乗せる感じ)完了です。作業時間は10分以下。

完成するとこんな感じ。果たして、そんなに上手くいくのかどうか・・・請うご期待。


・・・とか言いながら、2つぐらい作った時点で研究室の学生さんと協議。

「あのさ、別に無理してドーナツ型にしなくてもいいんじゃね?」

「むしろ、卵は一箇所に集中しない方がいいんだから、もっとコンパクトに作った方が良くね?」

「それなら、石4個ありゃ十分じゃね?」


気が付いたらこんな形になってた(汗)。人間とは楽をしたがる生き物なんです。

ちなみに、当初は”回収不要のバイバードボックスを作る”が目的で、いずれは腐り、土に還る竹でボックスを作成しておりましたが、凄まじい効率の悪さに断念し、妥協した結果が今回のドーナツ型直播き法です(もう名前が省略されてる)
これが成功するなら、極めて少ない労力で、大量の発眼卵を放流する事が可能になります。
しかし、4000粒を直播きしたのは、大きな賭けでもあります。

 実は、昨年も直播きは行われましたが、その効果は「不明」で終わっています。
礫と発眼卵を虫カゴに入れて埋めたものの、確認できたのは孵化した稚魚が2匹と死卵の残骸らしきものが少し。孵化してボックスの外へ出たのか、全て死んだのか・・では何故死卵が残っていないのか。

卵を埋めたすぐ近くでヘビトンボのニンフを確認したので、孵化した稚魚が全て食われたとの見方もありますが、定かではありません。
自然産卵しているアマゴを確認した以上、より自然な形での放流できるに越した事はありませんので、最終的には発眼卵も持ち込まず、人工産卵床の造成等、自然の力だけで、シルトだらけの川における渓魚の増殖が可能になればと期待しています。


最後の放流を終えて、ホッと一息

最後に、管理人からのお願いです。

今回の放流で、下見の時も含め、釣りをしているフライフィッシャーを2名見かけました。
漁協が無くても禁漁期間は残っていますので(禁漁期間は県の規則で定められており、漁協が決めていたものではない)、もしアマゴを釣っていたのであれば密漁行為となります。絶対にお止め下さい。

また、オイカワやカワムツを釣っていたのであれば密漁にはなりませんが、この時期に川に入ると、せっかく産み落とされたアマゴの卵を踏み潰す結果になりかねません。
カワムツやオイカワ釣りであれば、下流域(具体的には落合の郷より下流)の方が魚影も濃く、アマゴの産卵床を荒らす心配も少ないと思いますので、釣り場所を変更頂きますようお願い致します。

 これが餌釣り師であれば「禁漁期を無視して釣りするな!」で終わる話ですが、見かけた2名はいずれもフライフィッシャーであり、当サイトが「漁協が無くなって無料で釣りが出来る」と紹介しているのを「漁協が無くなって、無料でいつでも釣りが出来る」と勘違いされているのではないかと心配しつつ、責任を感じています。

もし、釣りをされていた方がこの記事を読まれていましたら、どうか自制頂きますよう、切に願います。

密漁行為は6ヶ月以下の懲役若しくは10万円以下の罰金となります。また、せっかく産卵まで生き残ったアマゴの苦労が、無になりかねません。
安濃川で末永くアマゴ釣りを楽しむため、ご理解頂きますようお願い致します。


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