アマゴ発眼卵放流
2007年10月〜12月 三重県 安濃川


 9月26日、そのメールは突然届いた。

タイトルは「安濃川のアマゴ調査に関するお願い」。この1通のメールを皮切りに、打ち合わせその他100通以上のメールが飛び交い、今回の発眼卵放流と研究・調査は実施されて行く事になる。
(ついでに同じタイミングで仕事が超多忙を極め、当サイトの10月からの更新は過去に例が無いほど滞る事となる。普通に過労で倒れるかと思ったよ)


 差出人は三重大学生物資源学部の教授。
研究室の学生2名が、安濃川でのアマゴ個体群の調査、発眼卵放流の効果(影響)を卒業研究のテーマとして希望しており、放流に協力させて頂くという形で放流作業に同行、調査する事を了解して欲しいといった内容だった。


正直、この時点で私はメールの真偽を疑った。かなり疑った。


 仮にも2年前、アマゴを個人が放流するのは違法だとか訴える事もできるといった趣旨のメールを頂き、論争の果てに県の水産室や町役場に多大な迷惑を掛けた身、慎重に対応するに越した事は無い。
実際に会えば、顔は割れるし車のナンバーや本名も知られる事になるだろう。仮に私に敵意を持つ方からの偽メールであれば、被る被害は甚大である。

 何か新しい事を始めれば、必ず叛意を唱える者は現れる。世の常だ。そんな事は十分わかっているが、前記の様な事態を繰り返す事は、今後の発眼卵放流に悪影響を与えるであろうし、最悪、県や地元役場から「(無用なトラブル防止のため)自制してもらいたい」といった事になりかねない。

 川が誰の物か、在来種の保護、渓魚釣りを楽しめる川を後世に残す事・・・これらの問題点をここで論ずる気は無いが、率直に言って、面倒な事に巻き込まれそうな危険を孕むなら、一人で放流を行いたい、というのが本音であった。


しかし、その教授(以下「先生」としましょうか)と数通メールをやり取りした後、この話は胡散臭いどころか千載一遇のチャンスであると確信する。
ネットで調べ、確かに実在する先生である事は分かった。そして、発眼卵放流の効果を調査・検証するとした方法。

「どうやって?」

素人臭い私の疑問に対する答えは、1通目のメールに99%記載済みであった。

「ALC標識」で検索してもらえば、なんとなく分かるかと思うが、簡単に言えば放流する魚に卵の時点から”印”を付け、放流効果を検証する方法である。

もの凄く掻い摘んで説明すると、

 1 発眼卵をALC溶液に浸す
 2 ALCが魚の耳石に浸透する(標識が施される)
 3 放流
 4 成長した魚から耳石を取り出して研磨した後、紫外線を当てながら顕微鏡で見ると発光する


らしい。(汗)

成魚であればタグを付けるとかアブラビレを切除するなどの方法があるが、卵から放流した魚がその後どうなっているか、この方法はまさに最適の方法であると思えた。


そして、発眼卵放流された魚が、どの程度生き残るのか。
これには、今現在安濃川にいるアマゴ棲息数を正確に把握する必要がある。
当然と言うべきか、先生は県から安濃川での電気ショッカーによる魚類採捕許可を既に得ており、釣るとか言う原始的な方法ではなく、かなり正確な棲息数調査が可能である事が明白であった。

 まずは安濃川におけるアマゴの現・棲息数を把握する・・・とりあえず、発眼卵放流から育つであろう魚を「放流魚」とし、現時点で安濃川にいる魚は全て「天然魚」と認識する事とした。

 この「天然魚」には、私がこれまで発眼卵で放流した魚の生き残りが混じっている事が十分考えられるが、純粋な「天然」の定義を追い求めて行くとキリが無い。
この辺りは先生とも何度かメールで確認したが、本当の意味での「天然魚」を比較対象とするのであれば・・・


・・・・・長げぇよ(怒)

自分で書いててイライラしてきた。
かなり省略してても冒頭からこんだけ書く事があるわけで、以降の細かい経過は思いっきり省略して要点のみ書かせて頂きます。つーか、このペースで書いてたらこの記事は書き終わらん。



とりあえず、とっとこハム太郎でも分かる要約を下記に記載するので、細かい質問は掲示板へどうぞ。全て答えられる保証は全くありませんけど。

1 安濃川で電気を使い、アマゴを捕まえた。100匹だった。この魚達は分かるよう、尾鰭を少しだけカットした。
2 もう一度電気を使い、アマゴを捕まえた。また100匹捕まえたが、尾鰭がカットしてあったのは50匹だった。
3 電気を使ってアマゴを痺れさせる方法は、安濃川にいるアマゴの場合、半分ぐらいを捕まえられるようだ。
4 すると、安濃川にいるアマゴは、200匹ぐらいであると推測される。
5 アマゴの卵に色を付けた。この色は、魚になっても消えない塗料だ。
6 色を付けた卵を、安濃川に200粒放流した。
7 しばらくしてから、電気を使ってアマゴを捕まえた。今回も100匹だった。
8 その内10匹は今年卵から孵ったと思われる大きさの魚だった。
9 10匹のうち、5匹には色が付いていた。
10 電気で捕まえられるアマゴは、全体の半分ぐらいなので、色が付いた小さいアマゴは10匹はいるだろう。
11 すると、200粒のうち10匹生き残ったので、この時点での生存率は5%ぐらいだ。
12 さらに1年後、またまた電気で100匹のアマゴを捕まえた。色が付いていたのは1匹だけだった。
13 もう1匹いる可能性が高いので、2匹は色の付いたアマゴがいるだろう。
14 卵から放流した場合、大きなアマゴまで生き残れるのは、全体の1%ぐらいのようだ。



・・・・・それでも細かいわ(汗)

実際の方法は、当たり前ですがもっと細かかったですよ?
50m間隔ぐらいで棲息数を調査し、アマゴの体長データなんかはmm単位、0.●g単位で計測してました(俺なら5匹目ぐらいから適当に書いてると思う)

専門にやってる研究室ってのは本当にすごい。


まずは安濃川のアマゴ棲息数調査から開始する。

手始めとして学生さん達が先行し、発眼卵放流の予定区間全てに等間隔で目印を設置。当初、この放流調査に参加する学生さんは2〜3名の予定が、なぜか徐々に増加。

さらにさらに、先生から女子学生2名も女子学生2名も女子学生2名も加わるとの連絡あり。

こ・・これは!! 何か運命的なものを感じますぞ!(←妻子持ちです)


10/7
採捕調査の前日、先生からメールが届く。


「・・・の4名です。結局、●年の女子学生は来ません。よろしくお願いします。」




だ・だまされたーーーっ!!

今回の発眼卵放流で、一番ガッカリした瞬間だったと言っておこう。いやいや、もちろん冗談ですよ?(to 嫁さん)。


10/8
先生たちは先行して調査を開始されているようなので、集合場所へ向かう。程なくしていかにも先生っぽい方(どんなん?)と若い学生さんと合流。
「どうも、初めまして」
軽く挨拶して自己紹介。メールで名前は事前に分かってたけど、誰が誰やら(汗)

その中で、他の学生に比べ明らかに異彩を放つ者がいた。それは、釣りキチ三●のような麦わら帽子をかぶった学生さん。

この麦わら帽子、すごく似合っているようで全然似合っていないような不思議なオーラを醸し出しており、以後、この学生さんのことを「麦わらの男」と心の中で呼称する事にした。某海賊団の船長のことではない。


早速、電気ショッカーによるアマゴ捕獲準備に取り掛かる。

文字で説明すると難しいので、図で説明しましょう。

管理人が想像していたイメージ。
バッテリーと繋がった棒2本を水に突っ込む。

やはり電気ショッカーって言うんだから、こんな感じだろうと思っていた。

で、魚がプカーッと浮いてくるので、それをタモですくう・・みたいな。しかし、実際は全く違った。
使っていたのは、先端に輪が付いた棒状の装置。

先端の輪は折り畳めるようだが、折り畳んだ状態でずっと使っていたのはずっと疑問だった。

多分、岩の隙間に入れたりするのに都合が良いのだろうと勝手に解釈していたら、実は、とんでもない秘密がある事を後で知ることになる。

驚いたのは捕獲の瞬間。気絶した魚が浮くんじゃなくて、輪の周囲に引き寄せられるのね。絵みたいなデカイ魚ではなく、小魚が大半でしたけど。
多分、輪の周囲にドーナツ状の電界が発生していて、下敷きに髪の毛が吸い付くような原理で魚が吸い寄せられてるような・・。男の子なら必ず興味津々になる光景でした。

で、なんで絵を描いて説明してるかと言うと、アマゴがボコボコ浮いてくる光景に夢中で、写真を撮っていなかったのが原因。アマゴ採捕の様子じゃないけど、このページの動画見て頂いたら、イメージが掴めると思います。


上記イラストには後日談があって、この記事の公開前に先生に確認したところ、折り畳めると思っていたこの先端部分には衝撃の事実があったので、先生から頂いたメールの一部をそのまま掲載しておきましょう。

『ショッカーの先が折れ曲がってたのは。。。折りたためるのではなくて、単に壊れてただけなのです。。。前にのびてるのがほんとです。。。』



さ・先に言ってよねー!!Σ( ̄■ ̄;)
マウスで絵を書くのが絶望的に下手な管理人、この絵を5枚書くのに、半日費やしたんですけど・・。






ついでに言っておくと、アマゴは川の規模にしてはそれなりの量が棲息しているようでした。
いや〜凄まじい光景でしたね。
尺クラスのアマゴがボコボコ浮いてくる!


・・わけがなく、平均サイズが8〜9cm(マジですよ?)のアマゴがぽつぽつと獲れるだけでした(汗)

「おぉ!これは結構デカイ!」と歓声が上がるサイズで15cmとか。正直、もう少し大きい魚がいると期待してたのですが、20cmを超える魚は1匹しか捕獲できず。
このチビアマゴが無事成長したとしても、釣って楽しめる大きさになるのは2009年でしょう。なんだかねー。

 この採捕の様子は、最初のうちは興味津々で見てましたが、電気ショッカー部隊が先行してアマゴを捕獲→それを洗濯ネットに入れてその場に沈める→計測部隊が回収し、麻酔の入ったバケツに入れて眠らせる→体長・重量を計測し、尾鰭を少しカット→真水を入れたバケツに戻し、麻酔から覚めたら放流・・・。
これを延々繰り返すわけです。

20cmぐらいの魚がボコボコ浮くなら面白いでしょうが、前記のとおり小指ぐらいのサイズが大半を占めるわけです。
この作業を半日続けるのは、見てるだけでも結構しんどかったですね。バッテリーや機械を背負ってる学生さんは、さらに大変だったことでしょう。


 アマゴ以外の魚については、やはりカワムツが多く、その他ではヨシノボリやオイカワなど。
意外にも良いサイズの鮎が2匹獲れてました。漁協が放流した生き残りが、ダム湖を使って再生産しているそうです。(地元の人の話による)
うまそうな鮎でしたが、あくまで学術研究の一環なので、麻酔をして大きさを計測してリリース。狙って釣れる数はいないようですが、放流無しで再生産できてるのが本当なら大変喜ばしい事です。・・・くそ!塩焼きにして食いたかった!(←コラ)


 結局、私のわがままで調査区間を広げていただき、終わった頃には日が落ちていた。
後片付けをしながら、これからの安濃川・渓流魚の管理方法などについて話していると、気が付けば周囲は真っ暗に。バイバートボックスの作成方法を説明し、サンプルとして以前使っていたものを2個渡してとりあえずこの日は解散。

その後、アマゴの棲息状況についてはメールで何度も知らせて頂いたのですが、ここからは統計・数学の世界。

この時期(産卵直前の秋)にどれくらい魚がいるかを調査したのは、天然魚がどの程度産卵し、その卵からどれぐらいのアマゴが成長しているかも推定するため。
@来年、稚魚の大半にALC標識が認められれば、天然魚の産卵が期待できないと言う事になる。
A天然の産卵がそれなりあるなら、来年春頃、ALC標識のない4〜5cmチビアマゴが泳いでいるはずである。

 表やらグラフのデータが大量に届いてましたが、「ほほぅ・・・ふむふむ。これは・・・あれだね。非常に興味深いデータだね」適当に返事を書いてみる。


書いてある英語の意味が分からんかったのは内緒にしておいた。


11/14
まずはALC標識と放流の練習のため、学生さん達が試験的に500粒をアマゴセンターで受け取る。
受け取り後、すぐにALC溶液での染色を開始。

水温維持のため、染色中は水槽に氷を浮かべ、常に一定の温度に保っていた模様。メールで連絡を数回貰ってましたが、着信時刻が深夜早朝で、ほぼ徹夜の作業だった模様。

大変ですなぁ(人事のように)

送ってもらった染色時の様子はこちら。


赤ワインみたいな液体に漬け込まれた卵。この画像を見て、率直に思った。

これ、既に死んでるんじゃねーか?(汗)


11/15
学生さん達が安濃川で500粒を先行して放流。

その後の連絡によると、とりあえずこの時点で死んでいそうな卵は見られないとの事で一安心。
次回採卵の予定日を確認し、24日に卵を受け取ってALC標識、25日(日曜日)に9500粒を放流する方向で調整する。


11/17
先行放流した発眼卵の確認のため、麦わらの学生さんと待ち合わせて川へ向かう。

放流場所を確認すると・・・・うん、これはイカンだろうという感じでした。
まず、流れがほとんど無い。すぐ上に側溝と繋がった土管があり、ゴミや土砂が流れてきそう。ついでに2日しか経ってないのに、既に卵はシルトだらけ(泣)

ついでに、ボックスに使われていた上下段仕切り用の網があまり良いものではなく(バリが多い)、園芸用ネットにしてもらうよう依頼。また、下段にスルーするための穴も増やした方が良い事を伝える。

結局、このボックスは場所を移動するのは難しいので、流失防止用のロープを張り直し、もう少し水が当たるように石の配置を変更し、ボックスの傾きを修正して終了。


後にこのボックスで、惨劇が起こるとは知る由も無い・・・。




 

ボックス内を確認する。「・・・なんて不健康そうな色」というのが率直な印象。卵全体が紫色に染まっている。

この時、少しだけ違和感を感じた。
発眼卵をボックスに入れ、卵が転がる時の手応えは、小さいゴムの粒が転がる「ポロポロポロ・・」という感じなのだが、この時、写真撮影のためにボックスを傾けると・・・「ザラザラザラ・・・」って感じだったんですよ。

???と思ったけど、特にこの時は気にしませんでした。


その後、麦わらの学生さんと放流ポイントの決定のために川を走り回る。先の電気ショッカーによる採捕の結果、魚の密度にかなり偏りがある事が分かっていた。

今年の放流ポイントについては
 @去年と同じような場所(多く生き残れそうな場所に重点的に放流する)
 A魚が少ない場所
 B魚が行き来できる範囲で満遍なく

以上が考えられたが、天然魚の中にどの程度放流魚が入り込むか検証でき、魚が少ない区間でどの程度生き残れるか同時に検証できる事から、Bの方法で放流する事となり、その結果、放流ポイントを10箇所選ぶ事になっていた。

上流から順にポイントを確認し、地図でなるべく等間隔になるよう放流ポイントを決定していく。

途中、20cmクラスのアマゴがライズしている光景を確認。こんな魚がその辺で見られたら最高なんですけどね。

ついでに、以前から気になっていた「落合の郷」にある養魚施設を見学。

ここ、凄かったですよ?

各地の川で養魚場は何箇所も見てますが、ハッキリ言ってかなり金が使われてます。解散した漁協が県から予算補填して貰って作ったそうですが、全部で8つぐらいのプールがあります(ちなみに、現在は津市の所有らしい)。
近くにいたおじさんに話を聞いてみたところ、興味深い話が聞けましたね。


1回もまともに使ってない・という話ですけど。



@夏場の水温が高すぎてマス類はとても養殖できない A水量が貧弱で水が足らない

ここまでは以前から知ってましたが、さらにもう一つ

B電気代が高すぎて使えない

どういうことかと言うと、横を流れる我賀浦川から水を引いているのですが、川の横に井戸というか、穴を掘ってあり、そこに滲み出した水(伏流水)を汲み上げる構造なんですね。水温に配慮した結果なんでしょう。

よくある沢の水をゴムホースで引っ張ってくるような、タダで無尽蔵に水を引ける構造では無いので、魚を養殖する限り24時間ポンプで水を汲み上げる事になる、と。
ふむふむ、なるほど。そりゃ電気代掛かるわな。



作 る 前 に 気 付 け や。 税金ちゃうんかー!?


11/20〜22
ボックスの改修作業や当日及びその後の段取りなどを、何度も確認する。

先行放流したボックスに17日の段階では死卵は見られなかったが、先生と学生さんらにメール。なんか気になるので本番前に先行放流ボックスを開封し、孵化状況を確認することにする。


11/23
放流予定ポイントの造成工事のため、安濃川へ。

 事前に放流ポイントの造成を済ませておくのは、学生さんのアイディアで、放流日当日に石を集めたりしてては時間が掛かるとの理由だが、この事前に石などを集めて、カゴを沈めておく方法(放流日当日は、卵をボックスに入れ、カゴの中へ設置するだけで済む)はかなり効率的な方法。

後日談だが、放流日当日の負担は、実際かなり少ないものとなった。

一方、卵の発眼が遅れており、放流予定日は結局、月曜日(26日)へずれ込む事態となる。


えぇ・・仕事半日休むしかありませんよ。しかも、今年一番多忙な日ですよ。生き物相手って本当に難しいねー(汗)


学生さんらと合流し、まずは先行放流ボックスを確認する。

私が川に入り、ボックスの上に置かれた石をどける。第一声は「えぇっ!?」

なんだ?凄い数の死卵が発生しているぞ・・・??

ボックスを水から出さないように浅瀬に引き上げ、学生さんらと観察。
途中で引っ掛かったような死に方をしている卵・稚魚が多く、これまで見てきたような卵の形状を残し、真っ白になって死んでいる様子とは明らかに違う。

今まで見たことがない死に方をしている点から、ALC標識に何らかの問題があったものと考え、先生に連絡をすることにする(その後、速攻で原因究明と対策を講じられたのには脱帽した)
ちなみに、この時点私が思った死卵の原因は、「何かの原因で卵膜が硬化し、稚魚が卵から脱出できずに斃死した」であった。

サンプルとして死卵を採取。この時は「孵化の途中で引っ掛かって死んだ」としか見えなかったのだが・・・。

ついでに、ボロボロとこぼれ出す孵化直後の稚魚。いくら3mmスリットの虫カゴとはいえ、これほど外に出てしまう筈がないのだが。



現場で考えてても先に進めないので、気を取り直して放流ポイントの造成工事に取り掛かる。

少し人が入っただけで泥濁りになる安濃川。川全体がシルトで埋まっております。

水温を計測し、流速を計測し、水深を計測し、小石と固定用の岩を集め・・・。作業は着々と進みます。

ん?お前は何やってたかって?

・・水温計測係です(汗) しかも、非接触型水温計なので、作業時間1秒。

体動かすお仕事は、若いもんに任せましたー。

 

5人で作業を進めますので、10箇所と言ってもすぐに作業が終わっていきます。ずっと一人でやってきたので、この光景を見ていると、なにやら手下が(←オイ)仲間が増えたような感じがして嬉しかったですね。


無事ポイント造成作業は終わったが、先行放流ボックスの死卵の問題は残っている。


 帰宅し、先生からの電話とメールによると、ALCの溶液を作る際、(ここからは質問却下ね。。俺もようわからん)その手順に問題があったかもしれないという事だった。

水に溶けないALC(アリザリンコンプレキソン)はKOH(水酸化カリウム)に溶かし、これを水で薄めていく。
当然、水はOH-イオンの影響で強アルカリ性になるので、塩酸(HCL)を使って中和するそうだが、この時副産物としてKCL(塩化カリウム)が生成される。
今回の溶液は、手違いで上記KOHの量が多く(濃く)、予定の10倍以上のKCLが発生し、卵に影響を与えた可能性があるので、本番用はKOHをかなり少なくして調合するとの事だったが、私に出来ることは星に祈るだけであった。


11/24
3連休を全て自分のために使うわけにはいかないので、嫁と娘を連れて美杉へ。目的地は美杉リゾートのシカゴ・フォー・リブス(地ビールとスペアリブのお店)だが、嫁さんにお願いして魚末アマゴセンターへ寄らせてもらう。

以前から気になっていた、発眼卵の親魚を見せてもらった。

 

こんな感じ。
正直言って、朱点が濃すぎるいかにも養殖魚。しかし、オバチャンは「綺麗に色でてるやろ」と言っていたので、アマゴの朱点が濃い=商品価値が高いと認識されている可能性がある。

放流魚の朱点が濃い原因は、
 @継代飼育による近親交配
 A飼料に含まれる甲殻類粉末(身を赤くするため。オキアミや海老殻)赤色色素の添加物

が主な原因と思っていたが、もしかすると
 B親魚選別の際、朱点が濃い魚を意図的に人間が選んでいる
これも原因かも。養魚場で飼い易いとされているとかね。

朱点が濃い魚は、早く大きくなる・味がいい・おとなしくて飼い易いetc...、言い出したらキリがないが、この手の伝聞がある可能性は否定できないかもしれない。


後日調べたところ、Aの可能性がかなり高いことが判明。

鱒用の飼料とは別に、アマゴ用に発売されている飼料(ペレット)には、朱点を濃く出すためカロテノイド系の赤色色素であるアスタキサンチン、カンタキサンチン等が添加されている模様。
養魚用ペレットの例
逆に虹鱒用の配合飼料だけで育てると、朱点が消失(薄いベージュ色になってしまう)するケースもあるらしい。


放流をいよいよ目前に控え、自分もボックスをアレコレ改造する。

ベースはダイソーの100円虫カゴを使っているのだが、毎年微妙に形が変わっているのが困りもの(明らかに年々質が下がってます)。
今年の虫カゴを改めて見ると、稚魚が入り込んでしまいそうな隙間(取っ手部分など)がある事に気付き、学生さんに隙間を埋めるようメール送信。

当方が用意するボックスは4個ほどですぐ改造が終わるのだが、学生さん達は15・6個を作成しており、「大変だろうなぁ」と心配しながらビールを飲んで就寝


11/25
本番用発眼卵10000粒を(先行放流した500粒はサービスだったらしい)学生さんらが受け取り、ALC染色開始。

今日は特にする事がないので、先行放流ボックスを確認に行く。

 

予想どおり、ちょっと可哀想な事になっていましたが、孵化できた稚魚だけでも無事に育ってもらいたいところ。

なお、ALC標識が発眼卵に何らかの影響を与えているかもしれないので、200粒ほどは標識を施さず、このボックスの横へ無標識の卵を入れたボックスを設置する事になった。


11/26 10000粒の本番放流

ついにこの日を迎えました。
ボックスや手、器具を消毒し、卵をボックスへ入れていきます。

 大量に並ぶ虫カゴ改造型放流ボックス。計算上では640粒までは問題なく入れられ(上段を2層にすることで、2000粒程度までOKだが、流された時の損失が甚大なので、逆に合理的でない)ますが、今回は1地点に2つのボックス、1000粒ずつ放流するので、結構余裕です。
市販品のWVB(ウィットロック・バイバート・ボックス・・・WとVは開発者と改良者2名の頭文字です)より沢山入れられるのはメリットだが、¥640出して買った方が早いかも?

ポイントは造成済みなので、石をどけてカゴを沈め、予め集めてある小石を周囲に突っ込んでいくだけで設置完了。

そして、やや亜流ながら麦わらの学生さん(冬になってから麦わら帽子かぶらなくなったけど・・・)の強い希望で直播きにも挑戦。虫カゴに小石を詰めて卵を入れ、上から小石をかぶせていく方法だ。

「これ、卵潰れるんじゃねーか!?」とか色々意見が出ましたが、「本物の卵なんか、生まれてすぐ親魚に小石で埋められる。簡単には潰れないでしょう」という結論により、バラバラ小石をふりかける。

「5〜6粒は今ので死んだな・・・」と思ったのは多分自分だけではなかったはず。



 この直播き、実は天然魚の産卵が可能かどうかの検証を含んでいる。

シルトだらけの安濃川で、比較的条件の良さそうな数箇所に直播きを実施したが、河床に埋め込まれた卵が孵化までに窒息死するのであれば、天然の産卵は期待できない=放流無しでこの川のアマゴ個体数維持は期待できない。

逆に、正常に孵化できる個体が多いなら、放流ではなく人工産卵床の造成や親魚の保護によって個体数を維持できる可能性が見えてくる。
また、来年ALC標識のない稚魚(天然魚)が多数見られるなら、安濃川のどこかで産卵が行われている可能性を裏付ける証拠にもなる。
個人的にはあまり期待できないと思っていたが、実際やってみると「意外といけるかも!?」というのが率直な感想。

仕事の都合で全ポイントの直播きには立ち会えませんでしたが、今回の発眼卵放流で結構楽しみにしている調査です。結構たくましく生き残ったりして?
翌日、麦わらの学生さんから無事終了したとのメールが届く。

「先日はお疲れ様でした。・・・俊さんと別れたその後・・・・ポイントへ放流しました。アーメン





お前が真っ先に諦めてどうする(汗)



最近の若い奴はこれだから!夢や希望という言葉を知らんのか!?
プンプンしながら添付された写真を見る。


こ・これは・・・放流と言うより生き埋めに近いかも(泣)

安濃川の川底は、小石がほとんど見られないんですよ。泥か砂が大半。やっぱり天然産卵は難しいかも。


11/27〜
毎週末、安濃川へ様子を見に行く。

発眼卵放流の効果や方法、バイバートボックスの構造、直播きの方法、川の管理方法などについて色々情報が飛び交う。

海外の論文データや研究結果はまだ良かったが、気が付けば「冷蔵庫を使った放流方法」などに話が及んだ時点でとりあえず話は安濃川へ戻る。かなり興味深い内容もあったが・・・。

アイディアは本当に沢山出てくるけど、できる事と出来ない事の取捨選択は重要ですな。

次回以降、私が試したいのは「竹を使った発眼卵放流2パターン」
詳細? ふふん。まだ内緒だよ。


12/2
大学で飼育されている卵は孵ったとの連絡があったが、放流した卵は変化なし。

表面にシルトが堆積していたが、この程度はまだ大丈夫。一方、死卵が大量に発生していた先行放流ボックスは・・・。


死ーん

この経験を無駄にしないことを誓い、線香を供えて合掌。


12/8
まだ孵化は確認できない。
放流直後からそうだが、ボックスを見て回ると、高確率で落ち葉が引っ掛かっているのでこれを除去する。

こんな感じ。
朴の葉や大きな笹の葉が引っ掛かると、水流がほとんど遮断される。
何ヶ所かボックスを確認して気が付いたが、どのボックスでも1〜3粒の死卵が見られ、その全ては先行放流ボックスと同じ「引っ掛かった」ような状態であった。

どのボックスでも、孵化は始まっていない。しかし、見られた死卵はこの状態。
念のため、ALC無標識のボックスを確認する。

この時点で孵化した魚、死卵共に見られない。
と、言う事は、孵化途中で引っ掛かったように見えた死卵は、卵から孵化するより早い段階で発生している可能性がある。

つまり、孵化途中で卵膜が破れず、引っかかって死ぬのではなく、孵化の適期前に「破裂して中身の一部が飛び出す」可能性が考えられる。
卵膜が硬くなってるのではなく、逆に柔らかくなってる可能性が高い事を先生に伝えておく(確証は無し。偶然このボックスで死卵が出なかっただけかもしれない。あくまで私見です)。


12/15
見に行った学生さんから、孵化が始まっているとの連絡。


12/17
期待と不安を胸に川へ出発。

ゴニョゴニョ動いていました!死卵も数粒程度であり、通常の放流と大差ない孵化率が期待できそう。
2箇所確認した時点で、みぞれ混じりの雨が降り出し、撤収。


12/22
雨がザーザー降る中、安濃川へ。なんで週末狙って降るんだ?

2〜3箇所見た限りでは、ボックス上段に卵は殆ど残っていなかった。・・・ついでに下段にも稚魚の姿無し(汗)

やっぱり、3mmスリットの虫カゴはかなり早い時期に脱出してしまうらしい。

ボックスの構造による稚魚の脱出の違いは、今のタイミングを逃がすと確認できなくなる。私が以前買った2.5mm幅タイプのボックスを確認に行く。

上段に残った卵は無く、下段に多数の稚魚を確認。底の四隅に集まる習性があるのは分かっているので、ビニールヒモ(白色に映ってる部分)で底面隅からは脱出できないよう改造しておいたが、予想以上に効果的だったようだ。

ヨークサックが吸収され、四隅の壁伝いに浮上すると上部に開けた4mm穴から脱出できる算段だが、上手くいくと信じたい。

ついでに、初めて作った割には毎年安定して稚魚が残ってる豆腐保存容器型ボックスの一つを開封。

毎度の事ながらウジャウジャ残ってます。相変わらず孵化率が無茶苦茶いいなぁ。

4隅に脱出用穴があると、そこに頭突っ込んで死ぬ稚魚が多かったので、ホットグルーで埋めたのはやはり正解だった。奇形を除き、下段で死んでる魚はほとんどいなかった。

しかし、他のボックスでは、この状態で稚魚の多くは外に出た事になり、生存率が懸念されますね。
こんなの、イクラが泳いでるのと大差ないわけですので。

3mm幅であると気付いた時点で、私の手持ちのボックスは改造(下段の全面を2.5mm四方穴のネットで囲んだ)を施せましたが、次回の課題としておきましょう。

作成過程のアップを止めていた虫カゴ型ボックスですが、ようやく完成形に近付いた気がします。


12/24
クリスマスイブなんてお構い無しで安濃川へ。
先日、雨で確認できなかった最新作の虫カゴ型ボックスを確認する。

ウジャウジャいます。ようやく虫カゴ型ボックスは、納得のいくレベルになりました。
作成の容易さ、水の透過、シルトの堆積、ボックスを開けなくても孵化の状況が分かるなど、豆腐保存容器型よりメリットが多くなりました。ようやく主役に昇格です。


こんな感じで、2007年発眼卵放流は孵化まで無事(?)にたどり着けました。
これからボックスの回収や、生存率の調査など色々残っておりますが、まとまり次第お伝えしていきます。


最後に、地元を流れる川に目を向け、本格的な調査に乗り出していただいた先生、学生さん達に敬意と感謝を表します。1年前、卵と添い寝する方達が現れるなんて想像もできませんでした。
10年かかると思っていたプロセスが、今回の件で一気に前進したと思っています。今後の管理の方法や放流の効果など、まだまだ課題は山積していますけどね・・・頑張っていきたいところです。


山、森、川、魚、人・・今の安濃川、いや、日本の渓魚を取り巻く環境は、いずれも良好とは言えません。

なんとかならないか、なんとかしたい。

文句と理想を話すだけの、口先だけの人間にはなりたくない。地道な一歩を確実な一歩にすべく、次に繋げていきたいと思っています。


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