4.やさいいため





そういえば、記憶喪失だった。

それでなくとも、この街に来た時にはまだ少女だったわけで、そういう知識がないことは不自然なことでもない。
毎日畑を耕し姫として依頼をこなし、健康的な生活を送りながら、よりによってレオンと恋人になり、ろくにキスすらしないままに結婚してしまったのだから、想定内とも言える。
俺の子どもを産んでくれ、というのもまあ、他に言い方もあったのだけれど、一番彼女をあたふたさせられるような言葉選びをしたつもりだったのだ。
「はいっ!……それで、どっちが正解なんです?」
思惑とは違って、彼女はそこに何の反応もなく、ただクイズの答えを求めただけだった。
――それもそのはず。子どもの作り方なんて知らなかったどころか、キールの話を信じてキャベツを一生懸命育て出したのだから。
キールに何か言ってやりたいところだが、そんなことよりまずは妻だ。

キャベツじゃダメなんだと言えば、いつも通りのほわりとした表情で、「ええと、じゃあどうすればいいんですか?」なんて言う。
いやいや、まあ特に何をしろってわけじゃない。必要なことはしていないわけじゃない。まあ、敢えて言うなら、3日おきにパジャマパーティーはやめてくれないか。マーガレットも、新婚夫婦に気を遣え。

思うことはいくつかあったけれど、とりあえずすべて飲み込んだ。
「アンタはホントに可愛いな」
代わりの台詞に若干呆れの溜め息の混じったのがバレて、フレイがむくれる。
「またそうやって……」
「じゃあ今から教えるか?時間はかかるが……畑の世話は終わったのか?」
試しにそう尋ねれば、可愛い妻は「はいっ」と元気に返事した。
「あとは、そこのキャベツ畑だけですから」
今から。……まあいいか。
どうやらあのキャベツ畑の世話を教えてもらえると考えているらしい妻(そんなわけないだろう……)を横目で見て、それから遥か高くにある太陽を見る。
……まだ真昼だが。
「よし、じゃあ、もっとこっちに来い」
「??」
大して疑問も持たずにニコニコと近寄ってくるフレイが、少しだけ不憫になった。
それから、今日は水も撒いてもらえそうにないキャベツたちも。

(今度キャベツは野菜炒めに使ってやろう)
大量のキャベツたちに誓って、レオンはフレイの手を取ると、ぐっと自分の方へと引き寄せた。


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