「そうだ。レジン、お前具合悪いっていってたけど、暫く前からじゃないか?」
 「ん・・・。」
 レジンは草むらに寝そべる。
 「うん・・・冬至祭のあたりから、じゃないか?」
 「お前よく見てるな・・・。」
 「いや、ダム爺さんにそう言われた。」
 「あ、そ。」
 「どんな風なんだ。」
 「おやぁ、気にしてくれるのかい〜?」
 レジンのからかい口調に、カインはついつい乗せられ真っ赤になりながら、明後日の方へ視線をやった。
 「俺だって、フェラーニンの方がいいぞ。」
 「あったり前だ。お前なんてこっちから願い下げだよ。
 ・・・なんかな、時々体の芯がぼ〜っとして、たまに、痛みが・・・。」
 そこで、レジンの言葉は途切れた。
 カインはといえば、芽吹きを控えた土手の草を何気なく、指で梳いている。
 「それ、やばいんじゃないのか?一度、治療院で診てもらった方が・・・。」
 が、何気なしにレジンを見やったカインの目に入ったのは、真っ青になったレジンだった。
 「おい。おい、レジン。どうした。」
 「くっ・・・」
 レジンはゆっくりと体を丸めると、自分の体を抱きしめ、体の奥から絞り出すようなうめき声を上げ始めた。
 「レジン、レジン!」
 思わず触れたその体の熱さに、カインは一瞬うろたえた。

 −−まずい。
 −−こいつは軽いから、このまま治療院まで連れて行くか。
 そのとき、先ほどの娘達の笑い声が聞こえた。
 −−女官の園の方が近いか。
 カインは茂みから飛び出し、驚く娘達に、声をかけた。
 「済まない。これから急いで、長のところへ行ってくれないか。友人が急に苦しみだしたんだ。手当をして欲しい。」
 カインの剣幕に、一瞬驚いたものの、一人の気丈な娘が、事態を察知し、
 「承知。」
 と、直ぐに駆けだした。
 もう一人の娘が、
 「あなた一人でお連れになれますか?」
 と尋ねるのに、カインは、声もなく、何度も頷く。
 それを確かめると、残ったもう一人の娘と、互いに目を合わせ、言葉も交わさず、意図を確かめ合うと、
 「私たちも、手当の準備を」
 と、後に続いた。
 カインがレジンの元に戻ると、膝を胸元まで引きつけて苦しんでいる姿が目にる。
 「レジン、レジン・・・」
 呼びかけながら、熱の塊のようになってしまった身体を抱き起こす。
 「・・・・くっ・・・。」
 顔をしかめたまま、返事もできないレジンの片腕をようやく引き剥がすと、それを自分の肩にまわし、カインはそろそろと歩き始めた。
 身体を伸ばすことができないのか、レジンはしきりと、腕をはずそうとする。
 それを何とか、だましだまし、引きずって歩く。
 そして、ようやっと女官の園の傍まで来たとき、先ほどの娘達と、娘達の長の姿が目に入った。

「これは・・・。」
レジンの様態を見た、娘達の長は顔色を変えた。
「すぐ、地下の施術室へ。」
長のこわばった声に、娘達の間に緊張が走る。
「早く!」
急かされて、娘達は、短く答えた後、足早にその場を離れていった。
「そなた、名は?」
唐突に聞かれて、カインは一瞬たじろいだ。
「カイン。騎士の館のカインといいます。こいつは、レジン。同じく騎士の館の者です。」
「ふぅむ・・・。」
目を細くして、レジンを見つめた後、長はもう一度カインを見つめた。
「今年いくつになる? 」
「は? あ、後一月で、仮成人の儀です。」
娘達の長はレジンを抱えたままカインに告げた。
「騎士の長を呼んできておくれ。ただし、長には、私から、新しい書物を手に入れたので、お茶の誘いがあったと、伝えるんだ。他のことは一切口にしないで。彼・・・レジンのことも、一切他言無用。とにかく、すぐに長を。」
その言葉は、否応なくカインの不安を煽った。
「レジンはどうしたのですか?そんなにひどいのですか? 助かるんですか?」
食い下がろうとするカインに、長は厳しい一瞥をくれた。
「早く。貴殿も騎士の端くれでしょう。沈黙が守れないでどうするのですっ!」
その言葉に、弾かれるようにカインは駆けだした。
騎士・・・その、響きに今まで感じたことのなかった、重く苦いものを感じながら。




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