「このCD-ROMに収録されているのは、怪盗キッドの事件簿を最初から、洗い直し、データを整理した上で、考察したものである。十中八九、間違いはないだろう。怪盗キッドは、宝石の盗品を売りさばく、あるシンジケートを追っていた模様である。 どういう理由で、というのは、逮捕してから、奴に尋ねるとして、キッドは、何らかの情報網により、この、盗品をターゲットに、予告状を出し、盗み出していたと見える。 というのも、宝石店の指定はあるものの、・・・」 高木刑事のハスキーな声が、文面を読んでいく。 何だか、よくわからない、難しい言葉もちらほら混じっていて、青子は、ただ、じっと聞いているしかなかった。 高木刑事が、一つ咳払いをした。 もう終わり?と思ったところで、再び、読む声がする。 「ところで、このCD-ROMを見ているのが、警視庁の人間ならば、捜査2課は、速やかに、一斉検挙の手はずを整えて欲しい。 都合がつけば、キッドの予告日に、乗じて検挙するのが、妥当と思われる。 これだけの組織だ。言葉は悪いが、キッドを陽動に使うのが効果的と思われる。 あり得ないとは思うが、青子ならば。 速やかに、このCD-ROMを持って、警視庁に行き、捜査2課の者に手渡し、保護を頼みなさい。 恐らく、これを見ているということは、私の身に、何かあった時だから。 万が一、殉職でもしていたならば、まだ若い、お前を1人で残していったことを許して欲しい。 さて、これを見ているのが、怪盗キッドならば。 お前には、散々手を焼いたよ。しかし、その意図するところは、ようやっと理解できた。 違法な、しかも、実に、我々を小馬鹿にしたような方法で、盗品売買のシンジケートを摘発してくれてありがとう。 願わくば、ストレートに、告発してもらいたかったものだな。 だが、これだけは、忘れるな。捜査2課は、不屈の精神を持っておる。 喩え、奴らに対し、共同戦線を張ることになったとしても、だ。 せいぜい、首を洗って、待ってろ!」 気付くと、部屋中が、しんとしていた。 ぎぃ・・・ もたれた椅子が鳴って、我に返った。 目暮警部が振り向いて、デスクにいた刑事に、厳しい顔で、怒鳴った。 「千葉君、捜査2課に連絡を!」 それを機に、捜査1課が、騒然とし始めた。 目暮警部が、何人かの刑事に指示を出している。 暫くすると、2課の人が、1課にやって来た。 青子を見ると、驚いて、挨拶をくれる。 けれども、そんなことも、もう、飲み込まれるような、緊張して、ざわざわとした雰囲気が充満していった。 2課の警部補と、1課の目暮警部で、すぐさま、合同捜査の会議が開かれる。 刑事さん達が、所轄にも、連絡をしているみたい。 青子は、部屋の片隅に、邪魔にならぬよう、座っていた。 気がつくと、腕の中のテディを抱きしめて。 どうしよう・・・家に帰った方がいいんだろうか。 どうせ、何も出来ないのだし。 一晩、ここで過ごせ、と言われたけれど、まだ、お昼にもなりはしない。 けれど、声をかけるのも躊躇われるほどの、多忙ぶりに、何も言えず、ただ、ため息をついていたら、さっきの、きれいな刑事さんが、近寄ってきた。 佐藤さん・・・って、言ったっけ。 これから帰る旨を告げようと、口を開いた時、彼女は、青子の肩に手をかけて、囁いた。 「悪いけど、一段落するまで、ここにいてくれる?」 一瞬、言葉が継げなかった。 いるの?青子が? 「あの・・・ここに?」 そう言うと、きりっとした顔が、とても優しい笑顔に変わる。 「そうね。多分、ここが一番安全だと思うし、大丈夫。お弁当もあるし。」 呆然としている青子に、佐藤さんは、脇にあった椅子を引いて、腰をかけた。 「あなた、暫く前まで、家に、刑事が張り込んでいたわよね。」 どきっとする。 そのことは、あの夜のことと、黒羽さんのことへと繋がるから。 それでも、微かに頷くと、彼女は、困ったような顔をした。 「怖がらないで。詳しくは知らないけれど、変な男達に絡まれたんですって?」 彼女の様子を見ながら、青子は、微かに頷く。 「キッドに助けられたんですってね。」 きた・・・。 どうしよう、胸がどきどきする。 青子は、考えてることが顔に出るんだと、親友が、よく笑った。 笑ってる場合じゃないんだよ〜恵子・・・どうしよう。 けれど、佐藤さんは、一度、視線を落とすと、真剣な眼差しで、続けた。 「その時の男達ってのが、どうやら、あのディスクに記されていた組織の人間のようなのよ。」 「はい・・・。」 理論的に言っても、それは間違いはない。 「だから、今回・・・」 佐藤さんは、軽く振り向き、緊急会議の準備をしている人たちの方を見やり、再び、青子を見つめる。 「私達が一斉に動いた場合、万が一、家にいるあなたに、彼らが目を付けると困るの。」 言いたいことはわかる。黒羽さんと同じことを言っている。 「人質に取られると・・・ということですね。」 少し目を丸くした彼女が、大きく頷いた。 「そう、だから、ここにいて欲しいの。安全が、確保できるまで。」 仕方ない。 「わかりました。」 それだけ、呟いて、頷く。 「わかってくれた?ありがとう。」 佐藤さんは、ほっと息をつき、やがて、呼ばれて、刑事さん達の山の中へ消えていった。 |
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