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 捜査1課の部屋に入ると、数人の刑事さんがいた。
 「あ、お茶でも淹れよう。」
 そう言って、背中を向けた警部に、青子は、慌てて声をかけた。
 「あの、すいません、先に、お話聞いて頂けませんか?」
 あの人は、時間がないと言っていた。
 このCD-ROMを渡したって、あの人が、空翔る頃までに、警察側で、何らかの対応が取れるかどうかは、わからない。
 早いほうがいい。
 そう、直感した。
 「ん?そうかい?じゃ、ま、話を先に聞こうか。」
 青子は、ぬいぐるみを抱き直すと、しっかりはめ込まれたカードを取り出し、その中から、CD-ROMを取り出した。
 「これ、父の遺品を整理していたら、出てきたんです。」
 不思議そうな顔をして、目暮警部は、それを受け取ると、ちょっと、灯りに照らすようにし、ひっくり返し、青子を見た。
 「これは・・・?」
 えっと・・・何て言ったらいいだろう。
 しまった、これだったら、中味がどんなものなのか、もっと根掘り葉掘り聞いておけば良かった。
 仕方がないから、「お仕事のものみたいなんですけど、青子、よくわかんなくて。」と、お茶を濁す。
 「ふむ〜」と唸った警部は、やがて、デスクワークをしていた、1人の男性の名を呼んだ。
 「あぁ、高木君、ちょっと。」
 「はい。」
 呼ばれた彼は、こちらへ歩きながら、青子に、軽く会釈をしてくれる。
 随分と、若い人だ。目元が、何となく、優しい。
 「これ、この・・・こいつをどうにかしたいんだがね?」
 呼ばれた人は、じっと、目暮警部の顔を凝視していたけれど、やがて、CD-ROMに目をやると、あぁ、と微笑んで、それを受け取った。
 「こちらは、あの、捜査2課の中森警部のお嬢さんだ。遺品の中で見つけられたそうなんだが、どうやら、彼が仕事に使っていたというんでね。」
 目暮警部が、高木さんの後について、説明をしてくれる。
 その後に、青子もついて行った。
 「えーっと・・・」
 部屋の片隅に置かれたパソコンの中に、CD-ROMが、吸い込まれてゆく。
 気がつくと、青子の隣に、女の人が立っていた。
 ふと見上げると、彼女も青子に気がついて、にっこり微笑んでくれた。
 ・・・この部屋にいるんだから、警察官・・・よね?
 なんか、すっごいきれいな人。
 そんなこと考えてたら、彼女は、いたずらっぽくウィンクしてくれる。
 「私、こういうの、ちょっと苦手なのよ。だから、見学。」
 こういうの、というのは、どうやらパソコンのことのようだった。
 高木さんは、得意なのか、アイコンが素早くクリックされて、次々にファイルが開いてゆく。
 ・・・なんだろ?これ・・・
 なんだか、組織図みたいなものが、一杯・・・

 「目暮警部、これって・・・」
 「う〜む・・・」
 警部の顔が、難しいものに変わった。
 「これって、もしかして・・・」
 隣に立っていた、女性もさっきとうってかわって、厳しい顔をしている。
 わからないと言って、差し出してるから、黒羽さんから聞いたことは言えない。
 よくわからない、シンジケートの概要だなんて。
 けれど、その画面を見ているうちに、背筋が寒くなってきた。
 彼の言葉が、重くなって、頭の中をリフレインする。
 『警察とて、この捕り物は、半端じゃ済ませられない筈だ』と。
 でも、ほんとに、『キッドが、連中の意識を逸らしてる間に、動いた方がいい』ということを、わかってもらえるのだろうか?
 ここに至って、青子にも、ようやく、事の重大さがわかってきた。
 ディスプレイの中で、どんどん広げられるファイルに、目の前が真っ暗になりそうだ。
 もし、これが、一つの組織で、これだけの規模をもっているのなら、青子が、助かったのは、あのとき、彼が、いたからに他ならない。
 それとて、計画的なものではなかったろう。
 たまたま、キッドの予告日だったから。
 そして、彼が、キッドだったから。
 あの後、何事もなく過ぎたのは、CD-ROMの存在を知らない青子など、これだけの組織の前では、とるに足らないものだったからだろう。
 黒羽さん、これだけの組織を、相手にしようとしているの?
 彼らは、一体何なの?
 激しく思いが駆けめぐり、目眩がして、ふらついた。
 「大丈夫?!」
 傍らの女性が、手を添えてくれて、崩れ落ちそうなところを支えられる。
 「中森さん、大丈夫かね?」
 目暮警部が、椅子を引いてきてくれたので、それに、そっと腰を下ろした。
 動悸が激しいことに気付く。
 それと同時に、全身が、軽く震えていることにも気付いた。
 「佐藤君、すまんが、ちょっと、ついててやってくれるかね。」
 佐藤と呼ばれたのは、私を支えてくれた、女性だった。
 「どう?医務室に行く?」
 彼女が、覗き込むように、話しかけてくれるけれど、青子には、なかなか返事が出来なくて。
 どうしよう?
 でも、この人達が気付かねば、私は、きっと言わなければならないだろう。
 これが、キッドが相手にしている組織の概要なのだと。
 「あれ?これは・・・」
 高木刑事の声に、他の二人が反応する。
 「警部っ、これ、亡くなられた、中森警部からのメッセージです。」
 その言葉に、青子は、顔を上げた。
 家にはなかったCD-ROMに、残っているのだから、青子宛のメッセージは無いかも知れないと思った。
 でも。
 それでも、見たかった。
 彼を追っていた、お父さんの言葉を。



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