飯食うて、和葉に言われるがまま、風呂に入って。
 それだけやったら、いつものこと。
 風呂から上がって腹を据えたら、あいつはリビングで、所在なげに座っとった。
 お互い、準備万端・・・いうところやろか。
 俺は、気の利いたとか、ええ塩梅に、っちゅうんが苦手や。
 特に、あいつには。
 変化球が使えへんねやったら、ここは直球勝負しかあらへんやろ?
 「和美が、自供した。」
 ・・・にしても、単刀直入過ぎたやろか。
 鼓動が速なって、耳に響いてうるさい。
 「うん・・・。」
 せやけど、和葉は、意外に落ち着いとった。
 「病院のテレビで・・・速報しとったから。」 
 いつもの元気が嘘みたいに、揺れる声。
 けど、こっからが本番や。
 「動機まで・・・出とったか?」
 俺から視線を外したまま、和葉は、首を振った。
 「そこまでは・・・。ほんまの速報や。」
 「そっか・・・。」
 「それにな?なんか、そうなんやろな・・・思て。」
 「・・・なんでや?」
 思い当たる節でもあったんか思たけど、それは違とった。
 「平次に睨まれたら、まず十中八九、間違いないやろ?」
 残念ながら、今度ばかりは、褒め言葉に聞こえへんかった。

 微妙な間が空いて、和葉が口を開いた。
 「なんで、そんなことしたんやろ・・・。」
 どっか、虚ろな声。
 「・・・わかめ・・・いや、西村が浮気しとったって・・・」
 滑らかとはいえん俺の言葉に、和葉はうなだれていた頭をすっと持ち上げた。
 「浮気・・・?西村君が・・・?」
 「あ、いや、その・・・どうも、和美がそう思てたみたいやねんけど、な。」
 和葉の顔に、なんでや・・・いう表情が浮かぶ。
 そら、まぁ、和美のことは、和葉がよう知ってるわけやから・・・ン?
 「何で・・・そんなこと、思たん?」
 記憶の中の、何かをたぐり寄せるような顔・・・。
 「何でって、そら・・・俺にはわからんけど、和美が、何で、そんな風に思たんかは・・・。」
 鼓動が早鐘を打つ。
 静まれ、こら!
 ここが正念場やねんから。
 割と柔い心臓を叱りとばしたかて、こういう嘘は、いくら俺でも難しい・・・。
 はったりかますんと、わけがちゃう。
 手のひらに汗を握りしめとったら、和葉が、ふらっと顔を上げた。
 「あたし・・・あたしが悪いんや。」
 「おまえのせいやないっ!」
 ・・・俺の苦労は、水の泡か?
 思わず和葉の肩を抱いて、俺は叫んどった。
 「なんで?平次は、何を知ってる言うん?」
 ・・・オレノ、シッテル・・・コト?
 俺の知ってるこというたら・・・
 まっすぐ俺の瞳を見つめる和葉に、言葉が詰まる。
 せやから、それは、お前のせいやのうて・・・
 「あたしがあの時、ちゃんと、西村君に言うてあげてたら・・・。」
 しかし、腕の中で、泣き出してしまった和葉の言葉は、明らかに予想していたものとは違とった。
 「わかめに・・・お前が・・?何を?」
 俺は緊張の糸が、ふっつん切れてもたよな感じで、しゃくり上げ始めた和葉の頭を見とった。



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