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「和葉に聞いてへん?電車のなかで、あいつに席譲ってもろたいう話。」 「あぁ、あれ・・・」 俺は思わず呟く。 「あの日、あたしは初めて知ったんや。あいつが、和葉のことずうっと想てたってこと。」 俺は思わず和美を見返す。彼女は、自嘲的な笑みを浮かべながら続けた。 「帰ってきてな、『遠山さん、見かけたわ』言うねん。服着替えながら、なかなかこちらに顔向けんとな。和葉、お腹だいぶ大きなってたやろ、て言うたら、 『うん、大変そうやったから席替わったったわ。』って答えて・・・その瞬間やな。あのポーカーフェイスが崩れたんは。今ままでに見たこともない優しげな顔 が見えた。『服部は幸せやな』って、あれ、無意識に呟いたんやろな。でも、あたしには・・あたしには・・・この世の終わりの言葉やった。」 和美は口元を押さえた。 泣き出すんやろかと、暫く見てたら、静かに顔を上げ話を続ける。 「好きやったんやで。ほんまに。小さい頃から、あいつしか目に入らんくらい、好きやったんや。せやから、許せへんかった。自分の心に嘘付いて、自分の恋 心から逃げるために私と付き合って・・・。和葉のこと忘れられへんのに、あたしと結婚して・・・。けど、それよりも何よりも、許せへんかったんは、ほんま の自分の気持ちをあたしに言うてくれへんかった、いうことや。和葉が好きやって、服部君がいてるからかなわんけど、それでも好きやって、何で言うてくれへ んかったんや。」 段々興奮してきた和美に俺は水を差してみた。 「そら、お前の気持ち考えたら・・・。」 「アホ言わんといて! 何が、あたしの気持ちよ。こういうこと、人の気持ち考えて、自分の思いを言わへんのは、そら、相手のこと考えてんのとちゃう。相手を欺き通そうとしてる だけやろ。ちゃんとあいつが、自分の気持ち言うてくれてたら、あたしはその時はきついかも知れへんけど、それでもあいつのことほんまに好きやから、それ胸 に抱いても一緒に生きたいて思うたはずや。万が一そこまで想てへんでも、それはそれで、あいつを諦めて別の人生歩んでたかも知れん。せやのに、あいつは、 私にそれさえ選ばせんと、ひとりで甘い思い出に浸っとったんや。」 「それで、殺したんか。」 「そうや。」 俺の言葉に、和美は静かに答えた。 俺は手に握ったボタンを押しかけて、とどまった。 「お前、和葉流産させよ思て、第一発見者にしたんか。」 「せや。」 その冷たい答えに、俺は、思わず立ち上がった。 「何でやねん。そら、ワカメが和葉に惚れとったいうんはそうかも知れんけど、和葉がお前に何した言うねん。 あいつはな、あいつは、俺がお前を疑うてるって知ったとき、めちゃくちゃ腹たてて、お前やないって、言い張ってんぞ。 それから、今度はお前の無実を証明したい、言うて精一杯に俺の尋問に答えたんや。」 肩で息をしながらまくしたてる俺に、和美はふふんと鼻で笑う。 「それ聞いて、あんたはあたしが犯人や、て確信したんやろ。」 俺は、目がすぅっと細なった。 「お前、俺にわかるように、したな。」 「何度も思たんや。あの日から。なんで、こんなことになったんか。どこで、何が狂たんか。何度考えても、どう考えても、あいつの陰に、あんたらがちらちらするんや。許せんかった。あたしが、こんなに苦しんでんのに、幸せそうに生まれてくる子の話をする和葉。 あたしのあいつをずっと奪い続けた和葉。かけがえのない親友の筈やのに、あたしの人生を完全に狂わせた和葉が・・・。 あんた、想像できる?あいつは、和葉を想いながら、私を抱いてたんやで。子供が欲しいな、て言うたら、『どっちでもいい』なんて・・・。」 さすがに、俺は言葉に詰まった。 しかし和美はそこで、信じられないくらい物静かに言い放った。 「ふふ、服部君、覚えとき、女は怖いで。和葉は絶対、あたしがやったとは思わへんかったやろ。けど、その事実、伝えんのはあんたの役目やわなぁ。これ、どういうことか、わかる?」 その残忍な笑顔を見て、俺は目眩がした。 「お前・・・」 「真相聞いたら、和葉にはショックやろな。」 その時、玄関の扉が開いて刑事が二人入ってきて、おもむろに口を開いた。 「西村和美さん、ご主人殺害の容疑者として、署までご同行願えますか。」 彼女は、少し驚いたように俺を見て、ふっと笑った。 「手際のええことで。そしたら、ちょっと上着取ってきてよろしい?」 すっと体を翻すと、和美は奥の部屋へと歩いていく。刑事が一人ついて行った。 「何で、入って来たんや。」 「え、ボタン押したやろ。」 残った刑事が目を剥いた。 「え?」 俺は慌てて自分の手を見る。じっとり汗がにじんだ手のひらにボタン型発信器が握られていた。 「あちゃ〜、つい握ってもたんか。」 「ま、一応話は終わったようなんで入ってきたんやけど。」 「え、あ、まぁ・・・。」 煮えきらん返事をしていたら、刑事に付き添われて和美が戻ってきた。二人の刑事に脇固められたあいつが、おもむろに振り向いて口を開く。 「ほな、和葉によろしう・・・。」 |
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