「それ、どういう意味?」
 和葉の目がすわってる。顔色もちょっと悪い。
 ・・・当然と言えば当然なんやけど。
 「せやから、今日の和美の行動を知りたい言うてんねん。」
 「そんなん和美が事情聴取で言うてたやろ。」
 無理もない。あいつの一の親友を俺は殺人犯として疑うているわけやから。
 「お前から見たあいつを教えて欲しい。」
 俺は、酷な言葉を続ける。
 「あんた、和美のこと疑うてんの。」
 いきなり核心突いてくんなよ。
 「せや。」
 としか答えられへんやろ。
 いきなり、和葉はものすごい剣幕でまくしたて始めた。
 「和美がそんなことするわけあれへん。絶対ない。あたしが保証する。
 平次、あんたは知らんやろけどなぁ、和美はもんのすごい西村君のこと好きやってんで。 ずーっと、高校の時から。せやから、大学入ってから付き合い始めたんやって聞いたときは、うちもほんまに嬉しかった。和美、むちゃむちゃ綺麗になってんもん。
 そんな和美が、何で西村君のこと殺さないかんの。あり得へん。和美やない。」
 言い切ったところで、あいつは少しふらついた。
 思わず俺は手をさしのべる。
 けど、あいつはその手を振り払った。
 「平次が和美のこと疑うてるなんて、考えとうもない・・・。」
 そう言うと、あいつはベッドに入り布団をかぶった。声は押し殺してるけど、泣いてんのがわかる。
 仕方のう、俺は寝室の戸を閉めた。
 リビングの床に寝転がって、俺は事件の整理をしてみる。
 一応、事情聴取の調書は見せてもろた。和葉があんな状態で関わっている言うこともあったし。
 せやけど、いくら考えても、あれは自殺やのうて他殺や。しかも、やっぱり犯人は和美。犯行手段も、和葉がアリバイ作りに一役買わされてんのもわかる。
 せやけど、何でや。
 和葉も言うとった。
 何で、あいつは自分の旦那を殺した?
 二人の間にトラブルがあったんやろか?
 いわゆる夫婦間の問題っちゅうような、和葉も知らんような・・・。
 和美は和葉の一の親友や。それは和葉の言葉だけやのうて、今までの付き合い、端から見とってわかる。和美にとっても、和葉は間違いのう親友や。
 工藤のかみさんが東の親友やったら、西の親友言うんは和美になる。和美になんかおかしいとこあったら、あの和葉が見逃すはずあらへん。
 それに、や。
 和美が旦那殺しといて、和葉と一緒に見つける言うんは、どっかおかしいんちゃうやろか。どっちか言うたら、知られとうないことやろ、親友とかには。
 それとも、和葉が自分を庇うん見越して、被害者の妻を演じきるつもりやったとか?
 アリバイかて、和葉が証明してくれるやろ。
 せやけど、ほならあいつはなんで、和葉を裏切るようなことする?
 ぼんやりと、高校の頃の西村を思い浮かべてみた。ひょうきんで、イベントがあると仕掛け人になっとったおもろいやつ。・・・あかん、恨みを買ういうことから遠くかけ離れた奴やった。
 いくら考えても、やっぱり動機がわからん。
 そのくせ、和美の犯行や、っちゅうことだけが、鮮明になっていくばっかりやった。

 翌日、重苦しい沈黙のなかで朝飯食うことになった。おかわり言うんも、むっちゃ辛い。 せやけど、飯食い終わって、茶飲んでたら、和葉がおもむろに口を開いた。
 「平次、昨夜はごめん。なんや、あたし感情的になりすぎてた気がする。」
 和葉の意外な言葉に、俺はなんも言えんかった。
 「せやからいうて、あたしは和美が犯人やなんて思わへん。和美の無実を証明するために、あたしはあんたに協力する。」
 うつむいていた顔を上げた和葉は、こんな会話しとったけど、心底惚れ直した。少し悲しげやけど、凛としとった。
 「ありがとう。俺、茶碗洗うから、ちょぉ、待ってくれ。」
 「うん、おおきに。」
 呟くような和葉の声が俺の胃袋ざっくりえぐるようや。
 和美が無実やっちゅう可能性はあるんやろか。
 食卓の上を片づけると、和葉は紙と鉛筆を持ってきた。

 「これが、な、西村君ちの家の間取り。」
 紙の上に、犯行現場が再現される。
 「あたしらが着いたとき、鍵は閉まっとったん。」
 「そもそも、和美のうちへ行くいうことになったんは、なんでや?」
 「あぁ、あたしがちょっと疲れたな、言うて。外でお茶しても良かってんけど、こんなお腹やし、うちやったらくつろげんで、て和美が言うてくれてん。それに、大阪市内におるよりは、家に近いし。」
 和葉は上目遣いにちらっとこちらを見る。
 「ほんで?」
 俺は、心臓が冷とうなっていくような気がしながら和葉に先を促した。


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