里山オーナーの話 (6)


2004年11月28日(日) <またもイノシシ>

見た瞬間、目が点になった。
田んぼも田んぼのあぜ道も、ボコボコでグチャグチャ。
また山から土砂がなだれ込んで来たのか??と思った。
でも、違った。
言葉は悪いんだけれども、もう、そこら中、爆撃を受けたみたいだった。



山の持ち主マスターTさんの田んぼにイノシシが出たのを、
初めて見たのは、昨年9月の終わり頃のことだった。
イノシシは、刈り入れ前の田んぼの稲をなぎ倒し、倒れた稲から実を食いちぎり
何枚もの田んぼを全滅させ
田んぼのあぜを踏み荒らし、泥浴びをしては、あぜを壊し
かなりの狼藉を働いて、山へ帰っていた。
そう、
私は、夜行性の彼らに、直接会ったわけじゃない。
彼らが動き回った跡を、初めて見た。
そして、そこいら中に残されたイノシシの足跡に、
それまで野生のイノシシなど身近に感じたことの無かった私は、本当にびっくりしたのだった。
               (詳しくは、<里山オーナーの話(2) 2003年9月25日>をどうぞ)
もちろん、
それまでも、マスターTさんの山に、イノシシは居た。
居たけれども、田んぼへの被害というのは、無かった。
それが急に現れたのは、田んぼの稲が実ったから。
だから、
Tさんは、急いで田んぼの周囲に、ネットを張った。
田んぼのあぜに竹の棒を打ち込み、そこへ高さ50センチくらいのネットをくくりつけていった。
でも、シロウトの家庭菜園じゃあない。
専業農家のマスターTさんの田んぼは、もう何十枚もあり
それも、平らな所にあるならまだしも
山間部にあるため、何度も斜面を登ったり降りたりしながら、
山すその棚田の周囲に、ネットを張っていったのだ。
そのネットを

ドッカーーーン!!

と、イノシシはぶち破った。
あぜに倒された竹と、泥まみれのネット、
そして、またもや荒らされた田んぼとあぜを、私は昨年、何度も何度も見た。
何度ネットを立て直しても
奴らは、それを踏み倒していった。

「向こうも生きていかないかんのは、わかるけどのー」

Tさんは、そう言っていたっけ。



その後、そのイノシシ達がどうなったかと言えば
何頭かは猟師の罠に捕まり、何頭かは猟銃で撃たれた。
そして、その肉の一部は
我々里山オーナー達が、定例会やら新年会の際、鍋にしていただいた。
もちろん、皮をはぎ、血を抜き、肉をさばいてくれたのは猟師さん。
我々は、その肉のブロックを分けてもらって、料理をしたのだ。
それまで私は、イノシシの肉というのを食べたことが無かったから
最初は
<おお、これがジビエというやつか>
と、物珍しがっていたのだけれども
2度目以降は、特に何も思わなくなって、ただ食べていた。
キノコやタケノコと同じで
<山で捕れた(採れた)ものをいただいている>
という感じで。



さて、今年、の初夏だ。
マスターTさんが、田んぼの周囲に電気柵を張り巡らせたのは。
これは、電流の流れる細い金属線を張った柵のことで
流れるのは、命にかかわるような強さの電流では無いけれども、触るとかなり痛い!というもの。
実際、ある人が私の目の前で触って見せてくれたのだけれども
ウウウッ!
と、
その人、うずくまっていたっけ・・・。やっぱり相当痛いらしい。
聞くところによれば
指先で触れたら、肩の当たりまで、ビシーッ!!とショックが来るとか。
そんな柵だから、イノシシだって絶対にイヤ。
一度触れたら、2度と来なくなるそうだ。

そして、実際
今年、
田植えの終わった後、その柵を張り巡らせて以降
マスターTさんの田んぼには、一度もイノシシは現れなかった。
この柵の難点は、経費がかかること(多分、県から補助も出るとは思うけど)と
金属線に草が触れれば、ショートしてしまうとかで
夏のメチャクチャ暑い時期、
柵の周囲を、もう何度も何度も、草刈りし続けねばならない
ということなんだけれども、
それでも電気柵のおかげで、
今年は台風の前に、無事、すべての稲刈りを終わらせることが出来た、Tさんだったのだ。

いや〜〜良かった良かった

と、思っていたのだけれども・・・・・・・・・・



今日、里山へ行って仰天してしまった私と夫。
それが冒頭の、<爆撃後>である。

なにもかもが、グッチャグチャ。



そのグチャグチャの土の中に残るのは、紛れもない、イノシシの<チョキ>型の足跡だ。
気がつくと、先日まであった電気柵が無くなっている。
冬支度で、Tさんが片づけたのだ。
片づけたとたん
猛烈な勢いでイノシシ達がやって来た。

これら写真では、そのひどさの1パーセントも伝わらないのでは・・・と思うのだけれども
とにかくもう、すごかった。
いったい何頭が、どういうスピードで走り回ったのか??



用水路なんかも、突き崩されて、↑この有様。台風の豪雨で、たたでさえ痛んでいたのに・・・。

彼らは、土の中のミミズや、石の下のサワガニを捕ろうと、こうやって何もかもを掘り返していく。
中でも、今年はとりわけ巨体のイノシシがいるらしく
残った足跡のでかさは、
もう、最初、とてもイノシシとは思えず
<なにか知らないけど、四つ足の超大型獣が出て来てるー!!>
と、一瞬、寒気がしたほど。
マスターTさんいわく

「それくらい大きい足跡やったら、80sくらいはある奴かもしれんのー」

80sって、夫よりずっと重い。
そんな巨体のイノシシが

・・・・・・・多分、台風で、もう山が荒れて、食べるものが無くなって
何かないか?何かないか?
と、必死で走り回っているんだろうと思う。
少し前に、騒ぎになっていた、各地のツキノワグマと同じで。
       (最近ニュースにならないのは、腹ぺこのまま冬眠に入ってしまったのか・・・?)
それを想像すると、ものすごく哀れで、気の毒で、仕方がないんだけれど
でも、踏み荒らされた田やあぜを見ていると・・・・・。
これ、また田植えまでには、きちんと修復しなくてはならないのだ。
けれど、修復したところで
イノシシ達の食欲が満たされない限り、また何度でもメチャメチャにされるんだろうし・・・。



多分、この冬もまた、何頭かが罠にかかったり、銃で撃たれたりすることになるだろうと思う。
その肉を、私はまた食べるだろう。
<食べものが無くて、今年は可哀想やったなぁ・・・>
とは思うだろうけれども
でも、去年と同じように
山の獲物として、ごくごく普通に、ペロリと食べると思う。
もし、ここで、
「そんなん可哀想過ぎる!」と思われる方がいらっしゃったら、分かって欲しい。
マスターTさんだって
何もしない動物を、殺しているわけじゃないのだ。
殺さないですむように、ネットを張ったり、電気柵を張ったり、かなりの重労働をした後
それでも、被害が止まらないから、駆除をした。
そもそも、イノシシが人間のテリトリーに出て来ているのは、
<里山が人手不足で荒れている・・・>ということにも原因があるのだけれども
その説明は、長くなるので別の機会にして
とにかく
楽しみのために殺しているわけでも
食べるために殺しているわけでもないのです。
でも、
殺した以上は、ちゃんと食べなきゃ。


そんなこんながあって
一件落着に見える<もののけ姫>のラストが、痛くて痛くて仕方がない、最近の私。
共存共栄したいのに、やっぱりいつかはまた、戦い合うことになるんだろうなぁ
たたらの村の人と、山の神。
もちろん、
作った宮崎監督自身が、一番、その痛さをわかっていると思うけれども。



と、真面目なことを書いていますが
この日、畑へ行き、
せっかく作った畝(うね)を、ドスドス踏んで横切ったイノシシの足跡を見つけた時には

「クッソーーー!!ボタン鍋にしてやる〜〜〜!!!」

などと叫んでいた高橋です。
通るところならいっぱいあるのに、わざわざ越えて行くなよなー、畝(うね)を!



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



<本日の山仕事メニュー>

1: 台風で壊れた共通路の修復



↑もともとここの斜面には、右半分に3〜4段の階段があった。
上の写真の、右上から左下にかけて、溝が見えるでしょうけれど
ここは、以前は地下水脈だったところで、階段はここにあったのだ。
でも豪雨の濁流に、土から何からぜ〜〜んぶ吹っ飛ばされて、川が出現してしまったという次第。
仕方がないから、左側に土を入れて、階段を作り直し、川には橋をかける作業をした。



完成。
・・・でも、この辺も、イノシシ達は走り回っているのだ。
来週来たら、全部蹴散らされてて、<チョキ>だけが残っていたらどうしよう・・・。


2: 大クヌギの処理の続き



ホンマに、たきぎ屋になれそうですな。



↑こうやって写真で見ると、随分、片付いてきたようにも見えるんだけど・・・。まだまだ。


3: 畑仕事



次々に発芽中の空豆。やれ、良かった。
どうやらカラスは、
最初に一個、種をほじくって食べてはみたものの、あまりの堅さにイヤ気がさして吐き出し
他のカラスも、それを見習って以後手を出さなかった・・・というところか??ゴーヤと同じで。
だとしたら、
カラスの情報伝達能力って、ものすごいかもしれない!
個々の学習能力以上に、
そっちにビックリしてしまいませんか??


(ところで、空豆の種とは、あの豆がカチカチに乾燥した状態で、それはもう固いもんなのです。)



↑は、発芽したニンニク。
クロッカスか水仙みたいだけれども、ニンニク。



<本日の収穫物>

※ヒラタケ、シイタケ、ラディッシュの間引き菜、マスターTさん宅の柚子


2004年12月10日(金) <またもカラス> 

先の日曜日、夫の実家へ行った際、義母から恐ろしい話を聞かされた。


夫の実家は、田んぼの真ん中にあり、周囲には農家も多い土地柄。
その、ご近所の農家で、この秋、空豆の種を蒔いたそうだ。
豆は順調に発芽し
スクスクと本葉が伸びていった、
そんなある朝のこと。
なんと、
何者かが苗を引っこ抜き、苗にくっついていた豆の部分を、きれ〜〜いに食べてしまった
というではないですか!?
何者かって
もちろん、カラスだ!

「畑が半分、やられてしもうてなー。
それでも、まだ、なんとか根が付いてたから植え直したと言うてたけど。
でも、ど〜なるかなぁ〜〜」

という義母の声を聞きながら
私の頭の中に点滅していたのは
数週間前に見た、畑の畝(うね)にポツリと残された、我が空豆の種の姿。
カラスにほじくり返され、畝に、たった一個出ていた、あの空豆の姿だ。

あれは・・・・・
つまり・・・・・



本日読んだ本には、さらに、こんな恐ろしいことが書かれてあった。

農家向けの、カラス対策の実用書を読んでいたのだけれども
そこに書かれている<カラスの身体的特徴>というのは、こうだ。

普通、
鳥というのは、歯がを持たない分、胃の筋肉がものすごく発達しており
その硬い胃で
植物の種でも、穀類でも、豆でも何でも、ガシガシガシ!と消化してしまうという。
そのうえ
驚いたことに、この胃の中には、小さな石も入っているそうで(結石みたいなもん??)
その石が食べ物を砕き、消化をさらに促進している・・・
と、
とにかく、胃弱の人が聞いたらうらやましくなるような
<タフな胃の持ち主>もしくは
<胃に歯がある生き物>が、鳥というものなんだそう。

が、

<カラスの胃は筋肉が発達しておらず、まるで人間の胃のように柔らかい>

とか。


・・・つまり、彼らには、節分の豆みたいなものは食べられない。
硬い空豆の種豆だって食べられない。

しかし・・・

と、ここで
義母から聞かされた<引っこ抜かれた苗>が、頭に浮かんだ私。
そう、
種豆はダメでも、土に植えられ、水分吸って、ふやけた種なら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・???


数週間前、私達の畑の畝に残されていた一粒の空豆。
あれはもしかして
<ほじくり返してはみたものの、硬すぎて食べられず放棄した>のではなく
<そこに何が植えられているのか、
確かめるために掘り出した>のではないか???

そして
確認した後、
発芽し、根も伸びて、ほどよく種がふやけて柔らかくなったところで・・・・・・・・

って、そこまでするか??



多分、するのである。
相手は、なにしろ、あの巨大な脳を持つカラス。
読んでた本によれば、身体の大きさに対する脳の比率でいうと
カラスは、何と、犬よりも脳がでかいとか。
犬以上ですよ!?????
そして、
この地球上において、
ヒトと類人猿以外で、カラスよりでっかい脳を持つ生き物は、イルカのみとか・・・。



・・・読んでて、なんだか血圧が下がってきそうだった。
先々週、発芽を見て喜んでいた私達の空豆。
あんなの、もう、とっくに無いかもしれない。

「硬くて食べられなかったんだろ。ザマ〜ミロ、カラス!」

などと勝ち誇っていた私っていったい・・・・・。

と、
明日、2週間ぶりに畑に行くのが、とても怖い高橋です。



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