四万十ちょっとだけ紀行(2004年8月25日〜28日)

その2 : 涙のカヌー教室


昨年の夏、
奈良の北山川でラフティングというものを経験し、
大きな川での遊びというものの魅力を知った私と夫。
                  (その顛末は、<熊野の青空 その1:カッパの川流れ>でどうぞ)

今年の旅行先、四万十川は、超有名なカヌーのメッカだ。
是非是非、挑戦を!
と意気込んでやって来た私達だった
と言いたいところなのだけれども・・・・・・・・・・・・・・・・・・



実のところ、意気込んでいたのは、夫だけだった。
夫は、ネットで、数々のカヌースクールの情報を調べ、予約もし
旅行の企画段階から

「さーーー!やるでーーー!」

と燃えていた。すごく楽しみにしていたのだ。

でも
私はと言えば・・・・・
・・・・・多分、カヌーに乗ったことの無い人は、皆、同じことを考えるでしょうけれども
まず頭に浮かぶのは

ひっくり返ったらどうなるの??

ポセイドン・アドベンチャー状態で、
そのままゴーーーッと流されて行くんじゃないの?????




だから、もう
出来ることなら、辞退したかった。
でも・・・
一方で、私はこうも考えていたのだ。

ああいうものは、きっと、ひっくり返ったら、簡単に起きあがるような構造になってるはず。
ポセイドン・アドベンチャーの豪華客船だって、
本当はあんな風に、上下逆さまになるってことは無く
あれはフィクションだから、ああなんだよ。
客船ってものは、そんな、逆さまになるような構造にはなってないんだよ〜
って、何かで読んだことがあるではないの。
そうそう、カヌーだって、きっとそうよ。そのはずよ♪




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「カヌーというのは、ひっくり返っても、自分では元には戻りません。
水の中で逆さまになったら、あわてずにスカートをはずして、カヌーから抜け出してください」



夏の青空の下、
カヌー教室のインストラクターは、淡々と言い放った。うそでしょう!??



カヌーというのは、種類によって形も色々あるのだけれども
カヌー教室で使うのは、だいたい船の真ん中あたりに丸く穴が開いていて
その穴に身体を滑り込ませて、座ってこぐタイプ。
穴から水が入らないように、覆いかぶせるのが<スカート>で



↑こういう風に身につけ、これを穴の周囲にガバッとかぶせて、穴を覆ってしまう。
ゴムが入っているので、ピッチリと止まるのだけれども
その代わり、
いざ、ひっくり返っても、このスカートのせいで、カヌーが身体から離れない。
だから

「冷静にこれを、カヌーからはずして脱出し、泳いで自力で岸までたどり着いてくださいね」

と、インストラクターさんは言うのである。
それだけじゃない。

「自分だけ帰って来ちゃダメよ〜。カヌーも引っ張って帰って来てね。オールもね。」

とも。

そんなことができるんだろうか??私に???


もうマジで帰りたかった。
でも、逃げ出す勇気も無いまま、スクールは始まってしまう。
そして、始まってからわかったのだけれども
本当に帰っておけば良かった・・・・・!!



最初の練習は、楽勝だった。
流れの無い水面で、オールを使う練習で
これは、オールで水さえかけば、面白いようにカヌーは進む。
が、
ほんのわずかな流れ、
そこに船先が入ったとたん、カヌーは、クルリ!!と180度回転してしまうのだった。
はたから見てたら、本当に大したことのない流れなのに。
カヌーが、こんなに流れに無力だなんて!
と、ショックを受けるほどのあっけなさで。
で、
この流れに逆らって、もう一度前を向こうと、必死にオールをこげば
今度は、船の横っ腹に水の抵抗を受け、一瞬にしてバランスが崩れる。
バランスが崩れたら、その先に待っているのは
最大の恐怖<沈(ちん)>だ!!!

・・・・・こりゃあえらいことになって来たぞ・・・・・

と、私が青くなった矢先
非常にも<流れに逆らって瀬を越える>練習が始まってしまった。
<瀬>というのは、
川幅が狭くなって、川の中でも、特に流れが速く激しいところですね。
そこを<逆行しろ!>
と先生は言うのだ。
言われたってあなた
どうしてもどうしても、これが出来ない人間だっているんですよ!世の中には!!
そう、
この日のスクールの生徒は、全部で15人くらい。
その皆が
何度か押し流されながらも、どんどん瀬を乗り越えて行く中
私だけが、何度やっても、
瀬に船先がぶつかったとたん、クルクル回転して、下流へ流されて行ってしまう。
クルクルクルクル、クルクルクルクル。
私は、ミズスマシか、遊園地のコーヒーカップか。

コーノーヤーロー!!!

と、ものすごい気合いで漕いでいるのに
上流で待つ先生の顔が、ちっとも近づいて来ない・・・ばかりかズルズルと遠ざかって行く
あの悲しさ。
恐怖。
情けなさ。

つらかった。

かといって、諦めるわけにもいかないのだ。
だって
もうや〜〜〜めた!と力を抜いた瞬間、あっと言う間に、船は川下へ流されて行ってしまうんだから。
もう、漕いで、ここを脱出するしかないのだ。
アリ地獄にはまったアリ同然なんだから!私は!
とほほほほーー。

と、心の中で、半泣きに泣きながら、
漕いで漕いで・・・・・5度ほど押し流された後だったろうか?
ようやっとカヌーが、瀬を乗り越えたのは・・・・・。



この後、<もっと急な流れを横切って、向こう岸に着岸する>というのもやった。
ズルズルと押し流されながら
私は必死に、対岸を目指した。
そんなこんなで、
スクールが終わった時点で、もう私は、完全にヨロヨロ。
体力的にというより
精神的に。
この、
<一所懸命やってるのに、全然思うようにならへん>というの
乗馬をやった時の、あの挫折感に似てるよなぁ・・・
などと、半泣きの心で考えながら・・・。
      

でも、泣いてる場合では無かった。
午前中の2時間で、スクールはなんとか終わったけれども
まだ午後からは、<カヌーツアー>なんてのがあった。
そう、<半日スクール+半日ツアー>のコースを、張り切った夫は申し込んでいたのだ。



その時私は、そーとー悲愴な顔をしてたんだと思う。
夫が

「ツアー、止めとく?」

と聞いてきたくらいだから。
ホント、本気で止めたかった。
でも

結局、悲愴な顔のまま、私が午後からも船に乗ったのは
ここで止めれば、楽しみにしていた夫も、つき合いで止めざるを得ないから。
夫が可哀想だから、ってんじゃ無いですよ!!
そうじゃなくって
ここで、私のせいでツアーがパァになれば、後々いったい何を言われるか!?
ことあるごとに

「あの時、おまえが止めんかったらのー」
「おまえは、ホンマに根性が無いけん」

な〜んて言われたら!
それも、冗談で言われる時ならまだしも、
本気のケンカになった時に、こんなこと言われたら、
もー私、
逆上して<手負いの熊>みたいになっちゃう。そうなったら、もう収集つかないもん!!
出刃包丁とかアイロンとかが、きっと空を飛ぶ!!!



だから、乗った。

昼食を食べ、カヌーの発着所まで、とぼとぼと歩いて行く時の、身体の、気持ちの、
なんと重かったことか・・・。

そして
その途中、四万十川にかかる大きな橋の上から
これからツアーで行く川を見た私。



↑いきなり、この激しい瀬だ。・・・ホントに、もう私、ポセイドン・アドベンチャーかも・・・
と、絶望的な気分で眺めていたらば
一隻のカヌーが、瀬にやって来た。
とたん<沈>した。
ひっくり返ったおっさんは、ひっくり返ったまま、しばらく桃太郎の桃のように流されて行った。
ボーゼンとする私の目の下
また、一隻。
漫才のお約束のように、そいつも、ご丁寧に<沈>。
二人とも、少し下流で、無事、カヌーから脱出し、岸にたどり着いていたけれども
あまりにもさい先の悪い、なんちゅう不吉な光景か・・・・・・・・・・。

ただ、
これを見たことで、私がヤケクソになったのは確かだった。
午前中、スクールで漕ぎ出した時点で、もうかなりヤケクソではあったのだけれども
今や、ヤケクソの2乗だ。
そして、ヤケクソ×ヤケクソのまま、私は8qの川下りツアーへと漕ぎ出した。





結論から言うと、ツアーはものすっごく快適だった♪

なにせ、スクールとは違って、<瀬を遡る>というようなことは全然無しで、ただただ下るだけ。
こ〜れ〜は、ものすごく楽ちんで、気持ちが良かったのだ♪
流れを横切ることは何度かあったけれども
スクールの時に比べれば、かなりゆるい流れだし。
また、
問題の、↑の写真の瀬だけれども
あれも、流れに乗って下れば、思ったよりも安定して走行出来るものだとわかった。
そりゃ、流れは速いし、船は揺れるけれども
横っ腹に波を受けない限り
カヌーってひっくり返るもんじゃないんだな
ってことが、ホントに良くわかったのだった。
つまり、スクールって、かなり厳しいことをやっていたわけだ。
実際、教室の先生いわく

「僕らも、あんな<瀬を遡る>なんてこと、競技会でもなければしませんよ」

だとか。

そうか、そうか。
では、スクールだけやって、後半のツアーをギブアップしていたら
私にとって、カヌーは、苦しいだけの思い出になっていたんだな。
でも、
スクールだけ体験して帰って行った人、何人かいたっけ。
最初から、半日コースで申し込んでいた人達だけれど、
そういう人って、どう思っているんだろうか?
カヌーのこと・・・。



ともあれ、



一所懸命、かつ、楽しく漕いで



四万十川名物の<沈下橋>のゴールまで、無事たどり着いた私達。
カヌーを降りた後は、もちろん、この橋からの<飛び込み大会>でフィナーレ。

そして、ありがたいことに、この日、最後まで天気は快晴だった。
台風16号のため
もう、今日は、午後から雨だと思っていたのに、最後まで夏の青空だったのだ。
ああ、四万十の神サマありがとうございます!
と、何度も御礼を言った私。
そして、このおかげで
残りの予定はキャンセルし、明日香川へ帰ろう、という踏ん切りもついた私と夫だった。
なんだか、四万十の神サマが

「はい!ここまでね」

と言っている気がして。

結果的には、この判断は大正解で、
この2日後、
例の高潮災害で高松を大混乱に陥れる台風に、私達は見舞われることになる。
予定通りに旅行していたら、
もう帰って来られなかったなぁ・・・。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



ところで
私は、半泣きのスクールの間、当然、心の中で叫びまくっていた。

「夫!夫!どこにおるんじゃ!
私を助けに来い!Help me!!」


私の心の声が聞こえたか
先にスイスイ進んでいた夫は、遅れに遅れた私の元へ、戻って来た。

「はいはい、戻らないでくださ〜い」

という先生の声を無視して。
そして、私がクルクル回り続ける間、ずっと声をかけ続けてくれたのだった。

「大丈夫かー」

と。

実際、この声にはホッとした。
したのだけれども・・・・・・・・・・・・・・


後日、この時の気持ちを夫が言うには

「戻ったところで、こっちも自分の船のことで精一杯。
おまえを手伝うことや、できんのやけどのー。
けど、
先に進んだまま待っとったら、私が困っとったのに放っておいた!とか何とか
後でおまえに、何言われるかわからんけんのー。
そばへ言って、声だけかけとったろと思て」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夫に、後々ヤイヤイ言われるのがイヤで、ツアーを続けた私。
そして、
この夫。

15年も暮らすと、本当に、人間、似たもの同士になってくるらしい
と、つくづく思った四万十の旅だった。


          
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