熊野の青空 <その1: カッパの川流れ>


8月30日。
新大阪発のJR特急新宮市行きは、和歌山県の白浜を過ぎても、潮岬を過ぎても
まだ景気良く、青空の下を走っていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・おかしい・・・・・・・。
紀伊半島の東側が、こんなに晴れているなんて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・???

翌朝、紀伊半島の内陸部
和歌山県は北山村というところで目を覚ました我々は、
まだまだ好天が続いているのに、半ばぼう然とした。
熊野の山の中が、朝からこんなに、ピカピカに晴れているなんて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?????

とはいえ、これは、もちろん、非常に喜ばしいこと。
特に今日、旅行2日目は、雨ならば泣いてしまうところであった。
なぜなら
本日、私と夫は、いい歳こいて、とあるスポーツに初チャレンジするつもりだったのだから。





和歌山県の北山村というところは、紀伊半島の深い山中にあり、かつて林業で栄えた地域である。
昔は、車の通行できる道が無く
切り出した木材は、北山川という、熊野川の支流を使い、筏(いかだ)に乗せて新宮市まで運んだそう。
自動車道が出来、今はもう、筏の出番はなくなった。
が、
筏を操る筏師さんは健在。
そこで、その筏師さんが、観光客を筏に乗せ、急流下りを体験させましょう〜〜〜〜〜♪♪
というのが、今や北山村の観光名物になっている<筏下り>なのだった。

夫は、熊野へ初めて行った4年前から、
実はこの<筏下り>をやってみたくてやってみたくて、も〜う、たまらなかったと言う。
時間の都合であきらめてきたけれど
今回は、ど〜〜〜〜〜〜〜してもやりたい!!
と、夫は言い放った。
旅行の数ヶ月前。旅のスケジュールを、あれこれと考えていた時のことである。

・・・正直、
私は、乗り気になれなかった。
ガイドブックの<筏下り>の写真を見ても、なんとなく「やりたい!」という気持ちがわいてこない。
もともと、ウォータースポーツには、あまり縁がないのである。
泳げないわけじゃないけど、そんなに上手に泳げるわけじゃなし
古式泳法も・・・、結局チャレンジしなかったし・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
それに、筏師さんが操る筏に乗って
「きゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!」
と叫びながら川を下っていくのが、そんなに面白いのかしらん?
第一、途中でトイレに行きたくなったらどうしよう・・・?????

などと
あれこれ断る口実を考えている私の目に、ガイドブックのとある写真が飛び込んできた。

これである。



<リポビタンDー!>のCMに出てきそうな、このスポーツ。
ラフティングという。
5〜10人乗りくらいのゴムボートに乗って、皆でボートをこぎながら急流を下っていくというもの。
<筏下り>をするくらいだったら、こっちがいい!
瞬間、そう思った。
だって、<筏下り>なら10年後でも出来るだろうけれど
ラフティングは、10年後、果たして我々に、やる気力と体力が残っているかどうか・・・・・・・・・・・・・・・・。
ほれほれ、それに、ガイドブックには
<初心者でも大丈夫>と書いてあるではないですか!





と言うわけで
旅行2日目の午後、
我々は、レンタルのウェット・スーツにライフジャケット、ヘルメットに身を包み
他のチャレンジャーの皆さまと一緒に、ラフティング・ツアーのスタート地点へと向かった。

はっきり言って相当不安だ。
私が言い出したこととは言え、私、ウォータースポーツは、あんまり・・・・・。
それに!
周囲を見渡せば、他のチャレンジャーは、
ほとんど皆、20代の若者ではありませんか!!???
ホンマに大丈夫なんですか??インストラクターの方!???

などと考えている間に、ことは進む。



↑みんなで、一所懸命、ボートとパドルを、車道から川まで運び降ろし
(筏下りのお客さん達は、ただ川へ降りるだけだった。筏はすでに川にスタンバイされている。)



パドルの使い方のレクチャーを受ける。
この時初めて知ったのだけれど
上の写真のように、
ラフティングは、ボートのへりに腰掛けて、ボートの中に足を「フンッ!!」と踏ん張って、漕いでいくのだ。
・・・・・・・・いかにも、川にドンブラコと落ちそうな、
あああ、なんとも不安定な姿勢ではありませんか・・・・・・・・・・・・・・・。



という、不安な気持ちを思いっきり残しつつ、出発。
まずは、筏下りの人達から。(筏もボートも、スタート地点は一緒。)
上の、写真右上に移っているのが、<筏下り>の筏の一部。
そして右の方にいる、ライフジャケットをつけてない、普通の服装の人々が、筏下りのお客さん達。
                                     (後で簡単なライフジャケットは着用した。)



↑先に行く、筏下りの筏を見送る、我々ラフティングの客達。
あああ、大丈夫なんかいな。

と思っているうちに、とうとう・・・・・・・・・・・・・・。


ドッパーーーーーーンンン!!

ズッパーーーーーーーーーーンンン!!!!!



スタート直後に現れた<瀬>で、
何かを考える間もなく、流れにもまれ、頭から大波をかぶった。
乗組員6人全員、ぎゃーーーーーーーっ!!と叫んだところで
あっけなく全員が、ブチ切れた。

アドレナリン、大放出!!!!!
いや、出た出た。
いまだかつて、私は
自分の脳から、アドレナリンが、これほどバンバン出るのを自覚したことがあっただろうか?
いや、本当にズバズバ出てたのだ。
だって、その後、静かな流れに差しかかった時
インストラクターがこう言った。

「この左側の岩場から、飛び込みが出来ますよ〜。
目線で、高さ5メートルくらいです。やりたい方はどうぞ〜〜。」

と、聞いたとたん
ボートのほとんどの人間が、ためらうこともなく岩場へ登ったのだから。
普段なら、
5メートル??と聞けば、「・・・・・いや、ちょっと・・・。私は、止めておこうかな。」
などと言う人間が、出てきそうなものなのに。
もうみんな、ハイ・テンション!ハイ・ハイ・テンション!!
私もだ。
こんなことするチャンス、もう一生ないかも・・・と思ったら、躊躇しなかった。



↑矢印のあたりから飛び込んだのだけれど、
・・・う〜〜ん、こうしてみると、せいぜい3メートルの岩場というところか。
けれども、3メートル+身長が、体感高度だ。
なので、私(身長160p)で、体感高度4.5メートル強。
背の高い人なら5メートルくらいの高度を感じるはず。
・・・正直言って、そーとービビッた。
私の生まれ育った香川県は、平野が多く、高い山が無く、よって大きな川も無い。
だから、幼い頃の<川遊び>と言えば
浅い川でミズスマシを追いかけたり、ヤゴを取ったり、チャパチャパ行水をしたり・・・。
大きな川で、岩から「チョーー!」と深みに飛び込んだり
橋の土台からダイブしたり、の経験はゼロなのだ。

いや、怖かった。

でも、やるのだ!やれるのだ!
アドレナリン、出まくっているんだもの。

そしてこの時、思った。
阪神タイガースが優勝した時、また、W杯で日本が決勝トーナメントに進出した時、
道頓堀川に飛び込んだ人らの気持ち
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかるわ。

でも、同時に思った。
やっぱり、道頓堀川に飛び込むのは、あきません。
なぜなら、この3メートルそこそこから飛び込んだだけでも、
身体全体、頭の先までズボッと水中に沈んでしまうのだ。
そうすりゃ、鼻から水も入るし、水も飲む。
この北山川の水でさえ、ちょっと「ウェッ」な気分だったのだ。飲んだ時に。
これが道頓堀川だったらば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

と言うわけで、
止めておきましょうね。できることならば。
虎ファンの皆さま。



さて、その後もボートは進む。
インストラクターの方は、さすが心得たもので
我々をあきさせないよう
わざと瀬で、ボートを岩にぶつけて、乗組員を川に落とそうとしたり
コマのようにクルクル回りながら瀬を抜けるよう、パドルを操作したり。
そのうち、ビギナーは水に落ちるのも華♪
とばかり、
わざと皆を、川に放り出したりも。↓





そのたびに、ワーワーキャーキャー♪と、ますますアドレナリンを放出させながら
やがてボートは、ゴール地点にたどり着いた。

いや、楽しい、良い体験だった。
このラフティング・ツアーを企画している<たんけんくらぶ>というところは
他にも四国や京都の保津川でもツアーをやっているそうで
四国なら、日帰りでも行けるかも・・・・・
と、つい思ってしまった我々。
皆さんもいかがですか?
経験豊富な、立派なインストラクターが、こんなおばはんでも、無事ラフティングを楽しませてくれました。
我々が最高齢か・・・と思っていたけれど、
他のボートには、すっごい太鼓腹の50歳くらいのおじさんもいたし
午前中のツアーには、小学校低学年くらいの男の子も。


ともあれ、人生で、まだやったことのないことが3つ減って
めでたしめでたしのワタクシ。

3つとは

1: ラフティング
2: 高いところから川に飛び込む
3: カッパの川流れ ↓


(川に落ちた後、ユラユラ流されて行くの図。大変に気持ちの良いものでした。)





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