患者さんの皆さんからのご質問にお答えするコーナーです。
匿名ですが、内容は一般的なものに限らせていただきます。
■ 治療について
体外受精のショート法とは何ですか? N先生 「Someya先生、体外受精のショートって何ですか?」 Someya 「体外受精、つまりIVF-ETを成功させるためには大切なポイントが2つあるんだ。それは、
1. ひとつの卵が赤ちゃんになる確率はとても低いので複数の卵胞を育てる必要があること
2. 十分成熟した採り頃の卵を自由なタイミングで確実に手に入れること
ふつう、ヒトは子宮のキャパシティーから双子以上が妊娠すると困るので毎月1つしか排卵しないようにできてるし、卵胞が十分育つと脳は勝手に排卵の命令を出す。これでは治療にならない。ところが実はこの2つは同一のホルモンによって制御されている。それがLHなわけだ。だからそれを止めてやれば、卵はたくさん採れるし、勝手に排卵することもない。果物の収穫と同じ。」
N先生 「それが下垂体の働きを押さえるスプレキュアなどのGnRHアゴニストですね。」 Someya 「そう。ところが都合の悪いことにGnRHアゴニストを使うと、同時にFSHも出なくなってしまう。だからFSHであるhMGを打つんだね。LHだけ抑えるのが理想なんだけどできないんだ。わざわざ自分でFSHを止めておいて、FSHを追加しているわけ。」 N先生 「で、ショートって何ですか。」 Someya 「GnRHアゴニストを使い出すタイミングは大きく2つある。それがロング法とショート法だ。ロング法は前の周期の高温相途中から使い出す方法で、採卵の周期の月経が来るまでに十分LHは抑制されるので、卵胞の数が増える。つまり”個数が少なくてキャンセルです”っていうのが減る。そのかわりFSHも十分減ってしまうのでよりたくさんのhMGが要るんだね。一方ショート法は採卵周期の月経2日目から使い出す方法でGnRHアゴニストのフレアアップを利用する方法だ。開始から1週間くらいはフレアアップによって下垂体は強い刺激を受ける。その間はむしろ下垂体は抑制されず、逆にたくさんのLHやFSHが放出される。これにhMGを併用すればとっても効率がいい。ダウンレギュレーションが起こるのはその後だから、採卵の頃にはLHは十分抑えられていて勝手に排卵することもない。」
N先生 「なんか都合がいいことばかりですね。」 Someya 「でもね、卵胞数は減っちゃうんだ。卵胞の個数は月経開始から1週間くらいで決まってしまうので、それ以後hMGをいっぱい打っても卵胞数はあまり増えない。」 N先生 「じゃあ、どっちがいいんですか。」 Someya 「一長一短があるからどちらとも言えない。成績はロング法の方が少しいいという意見もあるが、大差はない。安くすむショートの方を好んで行う施設も多い。まだ医療者の中でも異論が多いところだ。」 N先生 「両方のいいところを持った方法はないのかな?」 Someya 「GnRHアンタゴニストっていうのが欧米では盛んに使われている。これはLHの排卵のところの仕事だけをブロックする薬剤だ。だから卵胞を減らさないし、余計にFSHを使うのも少なくてすむ。でも副作用の問題があってなかなか日本では普及しないね。そのうち出てくるだろうけどね。」 N先生 「けっこう奥が深いんですね。」
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