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「新人営業マン奮戦記 」 第二章 オン・ザ・ジョブトレーニング 7ページ

「山本君、今月から先輩営業と同行して営業の勉強をするように。」
十月に入った月曜日の朝、所長から指示された。先輩営業の井上さんに同行するようになった。
「井上先輩、よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしく。ところで、私を呼ぶ時は名字だけで良いからね。」
「はい解りました。」
「今日は、ちょうど大量納品がある。まず、これを車に積もうよ。くれぐれも、腰を痛めないようにね。」
非常に重い。一ケース約二十Kgだそうだ。三十ケース、ワンボックスカーに積んだ。
「井上さん、これ全部で何百万円の売上になるんですか。」
「三十万円弱だよ。」
「えー・・・」
「ドットプリンター用のシャフトなんだけど、プリンターが安くなっているからね。それに、インクジェット式が主流なので注文も少なくなってきているんだ。」
道すがら、井上さんからいろいろと教わった。今は有名なOA機器メーカーでも、自社工場で製造しているとは限らない。EMS(エレクトロニクス・マニファクチャリング サービス=電子機器製造の受託サービス)メーカーで製造しているケースがあるということだ。
人件費の高い日本では、新製品の開発や設計をだけを行い、製品はコストの安い海外のEMSメーカーで製造する。メーカーでありながら、工場を持たない、そんな時代がやがて来るのかもしれない。
どうりで安い訳だ。パソコンとプリンターのセット で、十万円をはるかに切っている。僕も、大学生時代にアルバイトでパソコンを買った。初期設定からプロバイダー契約、インターネットの通信設定、取り扱い説明書を見ながら悪戦苦闘した。アルバイトで疲れているのに、朝方になるまで夢中になっていた。
初めてEメールができるようになった時は、本当に嬉しかった。
会社に入ってからも、報告書はワープロ機能を使って作成している。字の下手な僕にとっては、欠かせないものだ。
約二時間で、隣の県の得意先であるプリンター工場へ着いた。大層重かったが、無事納品を終えた。昼食は、次の得意先へ行く途中の喫茶店でとった。日替わりランチがあって、それを頼んだ。ハンバーグに目玉焼き、ポテトサラダもついていた。僕は、ハンバーグが好きなのでラッキーだった。それに美味しかった。コーヒー付きで六百八十円は、安い。
「井上さん、さっきの話なんですけど将来日本には、電子機器の生産工場がなくなると いうことですか?」
「限りなく、少なくなるんじゃないのかなあ。以前から、空洞化といわれていること 山本君も知っているだろう。実際ここ数年の間、量産工場は人件費の安い中国へどんど ん移っている。」
「我々の仕事は、どうなるんですかね。」
「どうなるんだろうな。我々も、海外へ行くか?」
「えー・・・」
次の得意先までは、一時間半位かかった。
「いつもお世話になっております。青葉機工の井上です。製造の長島課長にお会いした いのですが。」
「約束ありますか?」
「はい、アポイント頂いております。」可愛い事務員だが、厳しい。
「食堂でお待ちください。」
従業員用の大きな食堂で待っていた。しばらくすると、年配の方が何か部品を手に持っ てやって来た。
「やー、井上さん。ちょうど良かった。この金型ね、DLCの上のグレードで、何て言 うコーティングでしたかね?」
「スーパーコーティングですか?」
「そう、それ大至急お願いしますよ。DLCコーティングもまあまあ良いけど、この前 の説明だとスーパーコーティングが良さそうですね。試作してみますから。」
「ありがとうございます。それから今日は、今年入社した新人と一緒に訪問させて頂き ました。研修中です。よろしく、お願いします。」
「山本です。よろしくお願いします。」
緊張しながら、名刺交換した。挨拶が終わると井上さんが話し始めた。
「御社は、お忙しいようですね。他の電子部品メーカーは、非常に悪いです。」
「ある製品が、極端に忙しいだけなんですがね。土、日返上して生産しています。
それでも、材料が予定通り入らなくてなかなか数があがらないんです。」
「製品は、アルミニュウム製のドラムですか?」
「小径サイズでね、小型のコピー機用。山本さん知ってますか? 今は、コピーができ て、カラープリンター、スキャナーにもなる一台三役っていう優れもの。」
長島課長に質問された。

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