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「新人営業マン奮戦記 」 第一章 ニューフェース 5ページ

「山本さん、ちょっと・・・」
菊田さんに呼ばれた。
「年金手帳と、健康保険証を渡します。」
「ありがとうございます。」
「失くさないようにね。」
「はい。」
「どうかしたの・・・」
「いいえ、ありがとうございました。倉庫に戻ります。」
さっきの話を思い出して、じっと見つめてしまった。ナイスバディーで、色白の美人だ。
歓迎会は、仙北市内の居酒屋で行われた。確かに皆楽しく飲んだり食べたり、学生の一気飲みコンパとは全然違った。フォークソングサークルのコンパは、恐ろしかった。
三十分位過ぎると、何人か倒れた。社会問題になった、先輩が後輩に対して一気飲みを強要するようなことは無かったが、酒量を無視した暴れ飲みだった。僕は、いつも介抱役に回った。安心していたら、
「山本君、二次会へ行こうね。」
菊田さんが話しかけてきた。酔うとさらに色っぽかった。可愛いらしい感じになる。
橋本さんに注意事項を聞いていたので、
「皆が行くのでしたら、僕も行きます。」
「二人じゃいやなの。」
と、菊田さんがしなだれかかってきた。このままの状態でも良いけれど、 やっぱりまずい。橋本さんが気付いてくれた。
「菊田君、あまり若い子をからかっちゃだめだよ。」
「何言っているの、橋本さん。山本君って、本当に可愛い!」
かなり酔っている。ひとまずお開きにして、菊田さんをタクシーに乗せた。
その後、橋本さんも帰った。
二次会へは、所長と後藤主任、井上さんと僕の四人でスナックへ行った。そのスナック は、国武町の繁華街にあり、飲み屋ばかり入っているテナントビルの5階にあった。
所長の行きつけの店らしい。ママは綺麗だし、二人の女の子もけっこう可愛い。大人の 世界は違うなあ。所長がボトルキープしているウィスキーを、御馳走になった。
「山崎さん、こちら初めてよね。」
「そう、ニューフェースの山本君。今日は、彼の歓迎会。彼、あまり酒強くないからさ、お手柔らかにね。」
「どうも・・・」
水割りを薄く作って貰った。僕は、こういう店は初めてだったので、少し緊張していた。
先輩二人は、次から次へとカラオケで歌っていた。
「山本さんも何か歌って・・・」
「山本君、フォークソングやっていたんだろう。腕前みせてよ・・・」
僕にもマイクが回ってきたので、サザンオールスターズの「TUNAMI」を熱唱した。
今日は随分調子がいい。気持ち良く歌い終わった。しかし、後藤主任と井上さんは爆笑していた。ママや女の子たちは、手で口を押さえながら笑いを堪えようとしていた。ギターには自信があるが、やっぱり、僕は歌はだめだ。サザンの桑田さんのようにはいかない。音痴ではないが、かなり下手だ。
でも、今日は、本当に楽しい。
帰り道が所長と同じ方面だったので、自宅の近くまでタクシーに同乗させて貰った。その夜は、久々にぐっすり眠った。

今日は二十五日、初めての給料日である。朝一番に、所長から各社員に渡された。 銀行振り込みなので、給料明細書である。大学時代のアルバイト代は、現金だったので何か変な感じがする。正直なところ、初めての給料という特別な感慨はなかった。 お昼休みに、銀行に行って家に入れる生活費と、僕のこずかいを引き落した。
家に帰るとすぐ、給与明細書と生活費を母さんに渡した。母さんは、
『ご苦労様、父さんに見せなくちゃ・・・』
と言って、それらを仏壇に上げ、手を合わせていた。
手取り二十万円弱、半分の十万円を生活費として家に入れる。残りは、自分のために使う。しかし、車を買い替えなくてはいけないので、全部は使えない。二万円、貯金することに決めた。


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