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「新人営業マン奮戦記 」 第一章 ニューフェース 4ページ

会社の城南営業所へは、車で通勤することにした。車は、安い中古車を買った。給料を貰ったら、貯金して新車を買いたい。通勤時間は、朝は渋滞がひどく普通四十分位の距離が、一時間以上かかる。城南営業所には、山崎所長・業務の橋本さん・営業の後藤主任・井上さん・経理の菊田さんの五人がいる。
「お早うございます。」
所長はいつも早い。工業新聞を読んでいる。
「セミナーに行ってきました。これが、終了証書です。」
「ご苦労さん、どうだった。」
「大変だったです。マラソンしたり、アンケートさせられたりしました。」
「来年から止めるように、本社に言っとこうか。」
「えー・・・」
「冗談だよ。外部のセミナーを使って新人教育するのは、今年初めてなんだよ。二、三日の間に報告書を出すように。」
「はい、解りました。」
毎週月曜日は、簡単な朝礼をする。朝礼が終わると先輩の営業マンは、一週間の営業活動予定を立てているようだ。客先へアポイントを取っている。それから、納品準備をしたりオーダーしている部品の納期確認など、月曜日の朝は特に忙しい。まだ僕は営業見習いなので、所長からその都度指示されることをしている。
「山本君、今週は橋本さんと一緒に棚卸をするように。勉強になるから。三月決算で棚卸したんだが、随分合わないのがある。不明なものも多いので、本社から確認要請がきている。頼んだよ。」
「はい、解りました。」

青葉機工鰍フ本社営業部は、産業機械の販売が中心。自動生産ラインの商談があれば、本社営業部が窓口になる。
青森県・秋田県・岩手県をテリトリーとしているのが、岩手県にある北方営業所。
仙北市にある城南営業所は、宮城県・福島県・山形県をテリトリーとしている。
ところで、僕の叔父の青葉機工へのコネというのは、僕の叔父は本社東京で大手半導体メーカーの東北工場に勤務している。製造課長である。青葉機工の先代社長の大学の後輩で、東北工場立ち上げ時には、先代社長に随分お世話になったらしい。今でも、数千万する自動倉庫システムや、一台当たり二千万円するハンドラーの定期的購入時には、青葉機工が取引窓口となる。叔父の勤めている半導体工場では、今年度の新卒は、技術系しか採用しないということで、青葉機工に推薦して貰ったのであった。
城南営業所のテリトリー外のことなので、所長以外は詳しい事情を知る人はいない。
「あー、痛い。どうもすみません。」
上の棚にあったケースを取ろうとして、踏み台から転げ落ちた。部品をばらまいてしまい、それが頭に当たった。痛い。
「山本君大丈夫か。怪我しなかったか。気を付けるようにね。この部品は、ベアリングといって一個ずつ箱に入っているから傷も付かないだろう。価格も一個百円位。物によってはね、一個何千円や何万円という部品がある。金額的な損失はもちろんだが、作るのに三十日から六十日も、納期が掛かる物がある。お客さんに、納入できなくなったら大変なんだよ。」
「どうもすみませんでした。あのー、橋本さんは勤めてどれくらいになるんですか?」
「工業高校を出てから四十年。もうすぐ定年さ。」
「そうなんですか。」
「いろんな意味で会社のことは、私が一番詳しいんじゃないかな。何でも聞いてくれ。
山本君、経理の菊田君二十八歳なんだけどなかなか色っぽいだろう。営業本部長と噂があるんだ。」
「えー、不適切な関係ですか。」
「・・・ 本部長は、菊田君を通じて城南営業所の情報を取っている節がある。本部長と山崎所長は、同期入社でライバルだった。本部長になった今でも、山崎所長のことが気になるんだろうな。それに、今の社長は二代目で三十八歳とまだ若い。先代社長の娘婿だ。先代社長が蜘蛛膜下出血で急死してしまったため、当時北方営業所の所長をしていた今の社長が、急遽社長になった。本部長は、メーカーからリベートを取っているとか何かと黒い噂が多いが、産業機器全受注の三分の一は本部長が一人で取っている。社長は誠実な人だ。不正なことは人一倍嫌うが、本部長のことは、今のところ手を付けられないでいる。」
いろいろあるんだなあ。突然、所長が倉庫にやって来た。
「山本君、今週の金曜日の夜君の歓迎会をやるから、時間を空けておくようにね。」
所長は、橋本さんに同意を求めながら僕に言った。
「あのー」僕は、あまりアルコールが強くなかった。
「心配するな。無理矢理飲ませたりしないさ。皆、適当に楽しむから大丈夫だよ。
懇親会だと思って、気楽に・・・」
「ありがとうございます。よろしく、お願いします。」
所長が事務所に戻ってからも、棚卸をしながら橋本さんの話を聞いた。青葉機工の会社案内によれば、今から四十五年前に、先代の社長が個人商店として創業した。
五年後に、有限会社として会社設立した。その時に、橋本さんは入社したようだ。一期生である。社長は物凄く厳しい人で、何度辞めようかと思ったか解らないと、言っていた。業界のことや商品のことは、何でも知っていて生き字引のような人だ。その人が何故、今まで何の役職もなく平社員でいるのか不思議だ。そのことを聞くと、急に無口になり、何も話さなくなった。

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