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「そうねえ、それが役割ってことなんでしょうけど」

 なんだかね、ふと納得いかなくなるときがあるのよお。
 アタシだってねえ。ほんとうは。
 こんなお屋敷に一日閉じこもっていないで、外の世界に出たいってそう思うわけなの。だってせっかくいろいろな世界につながってるんだし。その世界といつまでもつながってる訳じゃないんだし、そうよね、いけるうちにいくっていうのが正しい時間の使い方だと思うわけ。
 だけどね、そんなこと一度だってしたこと無いわあ。
 アタシはこのお屋敷にいて、時計の面倒見てあげるのが仕事。時計が止まらないように、ねじを巻いて、たまには掃除して、たまにたまに来る悪いヤツをやっつけるの。
 でもね、たまに思うのよ。
 この時計はアタシなしでもずっと動いていくのよねえ、って。
 だってそうじゃない?
 アタシが生まれたときにはもう時計はあったんだもの。だったらアタシの生まれる前は妖精なしで動いていたか、アタシ以外の誰かが管理していた、ってことになるじゃない? それならね? アタシじゃ無くてもいいわけよね? 時計の番人は。
 だけれどアタシはこのお屋敷に閉じこめられて、一日時計を眺めて過ごしてる。
 たまに外の世界から遊びにくる人たちもいるけれど、その時間がどれほどあるっていうの?
 ほとんど、一人。孤独なアタシ。

 一人の時はね、なかなか時間が進まないのよ。
 たまに世界時計の針を早回ししてやろうかって、思うことがあるのよねえ。文字盤を睨んでね、針に指をかけるの。
 でもね、そんなコトできないって、ちゃんとわかってるのよお?
 早回しするってことは、誰かの幸せな時間が短くなるってコトじゃない?
 反対も同じ。
 かわいいコが遊びに来てね。その時間を引き延ばしたりもできないの。
 誰かの不幸を長引かせることになるものね。

 それにね。
 そんなことをしたって、一人屋敷にいるアタシは変わることが無いんだもの。
 早回ししても、反対回ししても、アタシは一人、屋敷で一人、時計の相手。
 いつの時間も、変わりなく。

 けど、ね。

「そうねえ、それが役割ってことなんでしょうけど」

 こんな役割が一人くらいいないとね、世界の人たちみんなが困ると思えば、我慢できないことも無いのよお。
 だって世界の人たちの中には、かわいいあのコたちも含まれるんだもの。
 大切なコたちを、アタシはちゃんと守ってる。
 だからね、そんなアタシをかわいそうなんて思う必要ないのよね。
 アタシ一人ぼっちでも、こんなにがんばってるんだから。

 だからね、たまには遊びに来てね。
 感謝してくれなくてもいいから、アタシのために、アタシに会いに来て?
 ううん、もちろん感謝してくれてもいいわあ。
 そのときはちゅーでね、言葉はいらないわ。

――29.ペルソナ 




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