「その石は?」 「えェ!?」 色とりどり、気ままに光る宝石を布の上に広げて、ヒビキはご機嫌でいた。輝く宝石は彼のコレクションだ。買ったものも拾ったものも盗んだものもある。中にはただのガラス玉や、透明な輝きを持たない石などもあるが、それもすべて含めて彼のお気に入りであった。他人から言わせれば価値など無いに等しくても、ヒビキはそれらも大切にしていた。例え正体がガラス玉だとしても、その透明な固まりは巧みに光を反射して、時に手元で虹を作ることがある。そんな石をヒビキは特に気に入っていた。 「だめだよこれは」 磨いていた緑色の石を手の中に隠して、ありったけの非難を宿した目でオボロを見上げる。えらく不純物の混じった、瑪瑙だろう。赤や白や黄色の不純物が、生き生きと動きを持っていて見るものを飽きさせない。オボロはかぶりを振った。黒い長い髪が動きにつられて左右に揺れる。 「こっちだ」 「これ?」 指さしたのは、こちらも黒い不純物の混ざったルビー。じっとそれを見つめると、本当に?と問うように、オボロを見上げてくる。オボロは頷いて見せた。 ヒビキはあたふたとあちこちをみて、どうやら手に持っていた石を置く安全な場所を探したらしい、結局緑色の石をポケットにしまい入れ、それからルビーを取り上げた。 「これ、かァ」 渋い顔。しかし、先ほどよりは交渉の余地がありそうだった。ヒビキの表情には多分に迷いの色がある。どちらも価値としては似たり寄ったり、二束三文だろう、宝石としては。 隣に並ぶまるでガラス玉のようなダイヤモンドの方が価値は圧倒的に上だ。金では買えまい。それを同じ布の上に並べるヒビキの青い頭を見下ろして、オボロは続ける。 「それには中に何か閉じこめられている」 「あ、うん。木の化石だと思うよ。ルビーの中になんて、珍しいよねェ」 そのせいで光を十分に通さない宝石は、光にかざすと妙に暗く見えた。石の特徴を指摘したせいかもしれないが、ルビーについて語るヒビキはずいぶんとうれしそうだった。不純物は平たい形をしているようで、ヒビキの手のひらの上で転がるたびに、黒い影は棒のようになりまた大きな固まりになった。オボロはまたかぶりを振った。ヒビキが首をかしげる。 「その中に閉じこめられているのは、多分、魂だ」 「タマシイ?」 オウム返しに聞いてくる少年に、頷く。長年人形の媒体を探している、そのかんが、騒ぐ。 人形の生成に、その石をつかえ、と。 「俺は、魂を持つ人形を作りたい」 より人間に近い、人形。糸を繰らなくても動かすことのできる人型。 ヒビキは持っていたルビーを眺めていたが、ふと顔を上げると、それを差し出してきた。 「オボロがタマシイなんて言うとは思わなかったけど」 ヒビキは悪気無く笑っている。この男の中にはいたずら心はあっても、邪気や悪気は無いのだろうと、オボロは目を細めた。この男に不純物は存在しない。だから、混ざりもののある石を好むのかもしれない、そう思う。 「いいよ。あげる」 それと打算もか。この男は損得では動かない。こちらの申し出を受けると言うことは、自分がそれ以上に楽しみを見つけたと言うことか。あるいはそれが取引と言うことなのかもしれないが。彼の得は自分の損になる、とは限らなかった。 「そのかわりィ 今度できる人形の名前、僕につけさせてくれる?」 名付け親、というわけだ。 そんなことでこれだけの石を譲れるのか、とオボロはひっそりと笑う。もしダイヤモンドを要求したとしても、条件は変わらなかっただろう。ヒビキの単純なお願いは。 赤い石を受け取った。 「了解した。何がいい」 えェとね。と、悩むヒビキを見ながら、できるならば呼ぶときに恥ずかしくない名前にしてくれと、内心で祈るオボロだった。 |
――22.宝石 |
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