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「後継者、って、子供を産むってコト?」
 青いマニキュアを施した指をあごに添えて、オウビリアスは首をかしげた。向かいでお茶をすすっていたトボシは派手にお茶を吹き出て、しかし、それを見てもオウビリアスは「ちがうの?」と聞き返すだけで動じた様子を見せなかった。ポケットを探ってレースのハンカチを差し出してくる。
「そうじゃねえって」
 ハンカチで口元をぬぐってから、それが真っ白なハンカチだったことに気がついて、トボシは気まずげに視線を送る。オウビリアスは「いいのよ」小さく笑って紅茶のシミが付いたハンカチを受け取った。
「だから、俺くらいの槍の使い手だとな、その行動も制限されちまうってことだよ」
 そのまま黙っていたら、らしくないわねえ、などと言われそうで、トボシはううん、と咳払いをすると、無理矢理言葉をつなげた。らしくない、というのはこんなところで昔話をしている自分に使われる言葉だ、と自分自身を嘆く。どうしてオウビリアスに昔話などしているのか、話の流れなどとっくに思い出せなかった。
「まあ、早い話が生け贄だな。身代わりか。自由になるには、自分より強くなりそうなヤツを、育てなきゃなんねえわけだ」
 少々乱暴な表現をすると、合点がいったというように手を合わせる、妖精。
「じゃあつまり。あなた逃げてきたってコトね?」
「馬鹿言え」
 オウビリアスの声は、嘲るような響きはない。ただトボシの反応をおもしろがるように、少しあごを引いて、上目遣いに覗き込んでくる。
「なんたら流槍術継承者より、俺流の方がカッコイイだろうがよ」
 オリジナルだ、なんでも一番はいいもんだ。
 誰かの手で育てられて二番煎じになるよりも。
 トボシはにかりと笑って、親指だけ立てた拳を突き出した。
「そうねえ。少なくともトボシにはそれがあっているかもしれないわねえ」
 抱えた膝の上に肘をついて。
頬杖を着いたオウビリアスはくすりと笑った。

――19.後継者 




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