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「不思議なものだな」
 沈黙を破ったのは、女の方だった。手札を眺めながら、独り言のように。テーブルをにらみつけるように見ていた男が顔を上げる。それを待っていたように、女は視線を移した、男へと。
「おまえは、このゲームは初めてであろう? 人間のおまえが、ここまでカードを使いこなすとは、な。正直、驚いておるところだ」
 言って、マゼンタ色の唇が弧を描く。驚く、と口にして。騎士にはわかる、この女は、驚いていても、恐れてはいない、自分を。
 悪魔の王が持ちかけたゲームは、単純に言うと、天使と悪魔の陣取り合戦だった。ルールは天使のカードと悪魔のカードをお互い50枚ずつ選び、その内の半分はそのまま、残りはシャッフルし、交互に一枚ずつ配って自分の山札とする。総勢は50枚。50枚のカードに従って陣取りをする。攻撃をするカード、守備をするカード。人物の絵が描かれているカードや、具体的な事柄が書かれているカードもある。
「戦略も、おもしろい。今までやりあった、どの天使どもよりも」
 カードの上を女の指が滑る。陣地内へと滑り込んでくる、黒い肌を持つ人形のカード。
 戦況は6分4分で劣勢だ。このままでは、陣地を悪魔にとられる。
 騎士は奥歯をかみしめる。この場合陣地とは、人間の世界を指す。ゲーム上ではない実際の自分の住む世界が、悪魔にとられると言うことだ。
「この手などは、まず天使は考えまい。悪魔的な手法だ」
 こつ、と一枚のカードを指す。小さき人のカード。裏返されたカードが何枚も付属している。裏返されている場合は、その効果が発揮できるときまで相手には知らされない。つまり小さき人のカードはそのカード本来の効力以外に悪魔の王には知ることのできないいくつかの力を秘めていることになる。
「ふむ、そういうことか」
 男が山札からカードを引くと、女は口を開いた。おもしろいことを思いついた、そんな調子で声は揺れていた。
「おまえは――」
 開いたカードは手紙のカード。悪魔のカードだった。
「悪魔と天使の混血なのだな。だから悪魔のカードも天使のカードも使いこなすことができる」
 手札と新たなカードを見比べ、瞬時に作戦を練り始める。初めて見るカード、だけれど使い方は理解できた。
 騎士はカードを一枚、陣へと配置する。
「私は、人間だ。悪魔でも天使でもない」
 はっきりと、告げる。
 視線をあげて相手を見ると、悪魔の王は微笑していた、満足そうに。

――18.混血 




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