誤解している者が多いが、私たちは双子ではない。
双生児などよりも、ずっとずっと一つだ。
いや、一つだった。
私たちは一つだった。
同じ肉の塊だった。
あの、生ぬるく快適な液体の中でたゆとうていた頃には。
私たちは、覚えている。
膨れた女の腹越しに触れる満月の手のひらの感触。
双子かと尋ねる三日月に答える、まだ子供だった彼の声。
「いいや、これは違う」
母親の皮膚と子宮の壁と羊水を越えて私たちを見つめる彼の視線。
それが、私たちが一人の私として得た最後の記憶だ。
けれど今では私たちは別個の人間だ。
同じ母の乳を吸い、同じ空気の元一つ屋根の下同じ人々と暮らしても、一たび離れてしまったときからそれは分かりきっていたことだ。
随分と駆け足で過ぎて行った様な気がする子供時代、確かに私たちは始終一緒に居たが片時も離れなかったわけではない。
私だけが見た景色。
私だけが聴いた言葉。
匂い、味、色、温度、痛み。
二人が共に過ごさなかったほんの僅かな時間に私だけが触れた何もかもが、今の私を形作っている。
例えどれほど似ていようとも、私たちは、別々の、人間だ。
だから、
例えば今こうやって私は、前を行く背の高い後姿に胸を躍らせているけれど、それは私だけのことだ。
隣に下弦が居れば、お前は幾つの娘だと嘲笑うだろう。
けれど私は彼とは違うから、その背中に駆け寄って声をかける。
「誰だ!」
私の声に、朔は首を捻ってこちらを見る。
ほとんど表情を変えずに、唇を開いた。
「……東の、朔。上弦、頭でも打ったのか?」
ああ。その唇が私の名前をつむぐその、高揚。
「いや、そうじゃなく、私が誰かと聞いたんだが」
「ああ、そうだったのか。しかし、あんな声じゃ、誰何されてるとしか思えない。大体、その遊びは、目隠しするものじゃないのか?」
「じゃあ、やり直そう」
私はもう一度彼の後ろに回り、両の手のひらでその目を覆った。
「だーれだ?」
瞬く睫毛の震えが伝わって来る。
「何をいまさら。子供じゃああるまいに」
小さく、本当に小さく朔が笑う。
私は何しろ下弦が言うところのどこかの乙女なのでたったそれだけで頬を熱くする。
「朔だけは、私たちを取り違えないんだな」
「私、だけか?」
「ああ、生まれたときから知ってる爺も時々間違えるんだ。満月でさえ」
可哀想に、あの顰め面で私と取り違えられたときの下弦の落ち込みようと言ったら。
「お前たちは、もともと一つだから」
「私と下弦は別のものだよ。一纏めになんかしないでくれ」
「していない」
「ああ。そうだった」
「上弦、」
「勘違いしないでくれ。別に憎んじゃあいないよ。そこまで子供じゃないし。下弦のことは好きだ」
あんたの次に。