紅天女の贈り物
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「どうするか…どうしようか…」

警視庁内とは言えエレベーターの前に立ち竦んで自問する男は、誰もが認める不審者である。

悲しきはこの階は官僚クラスの職員が多い為、反して部屋の外に出る人間が少なく、彼の存在に気付かない。

だから伊達の姿を目撃した人間は、間違いなく不運を被る事となる。

そしてその役目を仰せ付かったのは、


「あー…戻りたくな………ヒッ…! だ、伊達君…?」


外回りで行政指導を終えて戻って来た朝倉だった。

そんな飛び込んで来た生贄を目にした途端、伊達の瞳が眩いばかりに輝いた。

「朝倉…………そうか、君がいた!」

「な、何…?」

朝倉としては本音を言えばスルーをしたい所だったが、ギラギラと光る双眸がそれを許しはしない。

実力行使で無視は出来ても、後々の事を考えれば得策で無いと判断し、今日のワーストがまた一つ増えたと朝倉はあからさまに溜息を吐く。

「君に頼みたい事があるんだよ。親友を助けると思って、頼むよ」

だが何時もの反応と同様な為に瑣末な問題にすらされず、伊達は持っていた紙袋を朝倉へ差し出した。

「コレだ。コレを叶さんに渡して欲しい。彼女にピッタリだと思って」

「(苺…?! 『あの』叶さんに苺? 何故??)」

怖々と紙袋の中を覗き、その中の物に対して更に恐々とする朝倉を他所に伊達の語りは続く。

「頼んだぞ、朝倉。『職務中の息抜きにでも召し上がって下さい』、と伝えてくれ」

紙袋を渡した事で空いた両手を相手の肩へと乗せ、真正面から視線を合わせた。

「……………」

想い人への贈り物と親友に願いを託す事へ若干酔い気味の伊達と、恐怖の上司と七面倒な厄介事を押し付けられて鬱へと浸る朝倉。

そんな何時も以上に暗い――常の殆どが暗いが――朝倉の表情に、珍しくも伊達が相手を思い遣ると言う行動に思い至った。



(部屋に戻った朝倉に渡して貰う→叶さん宛てなので朝倉は食べれない→朝倉寂しい→叶さん逆に食べ辛いかも)



伊達の脳内に『朝倉が寂しいと思わない』と言う発想は無かった。

そしてこの時、部屋の中が朝倉と叶の二人きりになると言う発想も、伊達の頭の中には浮かんで来なかった。

そして実は叶が朝倉に菓子どころか、普通の日用品の買出しも行かせている事も、伊達は知らない。


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マエ / ツギ
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ショコ / イリグチ