紅天女の贈り物
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「どうするかな…」
組織の中では同じ位に属すると言うのに、他県とは異なる名称で呼ばれる建物、警視庁。
そのある階のエレベーターの前で、一人の男が右往左往していた。
男の名は伊達正人、同庁の捜査一課に属する刑事だ。
だが今彼が立っている場所は捜査一課のある階ではない。
彼が想いを寄せる女性が勤める階だ。
「どうするかな…」
先程と言葉も発音も変わらぬ呟きを、伊達はもう一度洩らした。
口調は深刻だが、その内容自体は実は深刻では――彼にとっては、とてつもなく重要な事なのだが――ない。
懸想する女神――叶に差し入れを思いつき、それを本能の趣くまま買出しに行ったまでは良かった。
それを渡そうと警視庁に戻り、特殊防犯課の階にエレベーターから降りた瞬間、問題が起こった。
日本では初めてとなる再会、アメリカでプロポーズを断られた事、あらゆる過去と未来が伊達の脳内で駆け巡る。
そしてそれらのシミュレーションから弾き出されたのは、『未だ直接会うのは好機ではない』と言う結論。
すると今度は『この差し入れをどう渡すか』と言う問題が発生する。
案1:部下に頼んで届けて貰う→私用で部下を利用する男と思われるかもしれない→叶さんに軽蔑される=却下。
案2:通りすがりの職員に頼んで届けて貰う→送り主が自分である事を分かって貰えないかもしれない→叶さんに印象を与えない=却下。
案3:宅配便として届ける→品が痛むかもしれない+不審物と思われるかもしれない→叶さんに刑事性を疑われる=却下。
「…ッ……どれも問題だ……!」
打開的な案が生み出せない自分に、伊達は地団駄を踏みながら絞り出すように呻いた。
俯いた彼の目は自身の手へと向かい、その視線は件の差し入れとなる紙袋の中へと注がれていた。
(叶さんのように小さくて、叶さんの唇のように紅色の瑞々しさを湛え。その身に甘さと酸っぱさを含む様は、まるで彼女の高潔な精神を表現しているようで)
白い紙袋の中に納まっているのは、よく熟れた苺。
(一度は求婚を拒まれたとは言え、俺にとっては変わらない乙女…そんな貴女に相応しいと思った、『とちおとめ』!)
方向性はともかく、相手の事を考え、悩み、その末に思いついた――少なくとも以前伊達の好みだけで送った、牛タンよりは遥かにマシと思われる――代物だ。
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ツギ
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ショコ / イリグチ