雨と霊と男と女
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「いっ…」
半裸と言う自分の姿を思い出し、反射的に類家が声を洩らす。
が。
「きやぁっ! ちょ、類家、何してんのよ、馬鹿っ!!」
森の更に大きな声に掻き消された。
警察とは男所帯染みた職場だ、普段の森ならば動揺の一つもせずに毅然としていられただろう。
だが類家が反応を示した事で異性として認識し、照れも合わさって大声を上げてしまった。
一度冷静さが失われてしまえば、後は済し崩し。
雨の為に外に飛び出す事も出来ず、森は後ろを向いて気を落ち着かせようと貧乏揺すりをする。
「警部、落ち着いて下さいよ」
滅多に無い上司のうろたえ方に、志賀がそれ以上にオロオロとしながら森を宥めようとする。
その間に類家はとりあえず店の奥へ隠れようとするが、既に膝下まで下ろしてしまったズボンが枷の様に邪魔をする。
ここまで来ると完全に脱いでしまった方が早いのだが、こちらも混乱してしまって脱ぐ事と逃げる事の順序が上手く思いつけない。
「わっぷ!」
そんな類家の頭の上に、突然白い布が覆い被さった。
四苦八苦して取り除けば、ソレは普段自分が使っている大き目のバスタオル。
顔を上げれば口元に笑みを浮かべた斎原が、何時の間にか類家の着替え一式を持って立っていた。
「さ、斎原〜…」
救われた気持ちで類家はバスタオルを腰へ巻き付けると、邪魔にしかなっていなかったズボンを脱ぎ去る。
そして着替えを受け取ろうとして、ふと気が付いた。
「………と言うか、帰って来た直後に持って来てくれれば……」
斎原と言う存在がいなくてもきっと類家は同じ行動を取った。
だがもし、もしも類家が帰って来た直後に斎原がタオルと着替えを持って来てくれたならば。
後付け論ではあるが、ここまで騒々しい事態にはならなかっただろう。
「さ〜い〜ば〜ら〜!」
類家の言いたい事に気が付いたのか、斎原は一際深い笑みを浮かべると、ユラリとその場から姿を消した。
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マエ / ツギ
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ショコ / イリグチ