雨と霊と男と女
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「あーあ………ホント、最悪……」
唇を尖らせながら類家はズボンへと手を向けると、バックルを外して腰からベルトを引き抜く。
皮製のソレを数度振って水気を飛ばし、机の上へと置くと今度はズボンそのものへと手を掛けた。
どうやら水を垂らした服のまま移動するのが億劫なので、ここで全て脱いでから家内へと向かうつもりらしい。
結局自分が掃除するのならば何処までも続く足跡を拭いて回るよりも、大きい水溜りを片付ける方が楽だと言う結論に至ったからだ。
下着ごと手を掛け一気にズボンを下ろそうとするが、濡れている所為か二枚重ねの布は腿の辺りで動きを止めてしまう。
後ろから見れば半ケツと言う何とも間抜けな姿だが、相棒のそんな姿は然して珍しくもない斎原は、気にする様子もなしに何時もの半眼でボンヤリと店の中を眺めていた。
そんな斎原の隻眼の瞳がクルリと返り、横目で店の入り口の方へと向けられる。
視線の先にはカーテンの引かれたガラス戸。
先程類家が飛び込んだ時にキチンと締められていなかったのかカーテンの端は微かに濡れており、時折隙間から吹き込んで来る雨風で揺れている。
不意にカーテンが大きくはためき、次の瞬間ガラス戸が凄い勢いで引き開けられた。
「あー、もう! こんなんじゃ傘もあまり効果ないじゃない!」
「僕だって、靴の中グチャグチャですよ…」
不満と落胆を入り混ぜた声と共に店に入って来たのは、最近(強制的に)馴染みになっている森と志賀。
突然の騒々しさに慌てて類家が振り返れば、バッチリと森と視線がぶつかり合う。
別に森や志賀が悪い訳ではない。
彼らは何時ものように手土産を持って、相談兼世間話をしに来ただけで。
カーテンは掛かっていたが僅かに戸は開いており、雨足が強かった事もあって咄嗟に挨拶も無しに入ってしまった。
別に類家が悪い訳でもない。
ここは彼の店であり、閉店状態の店にわざわざ入ってくる客はいないと思う。
そして手間を省くと共に風邪を引かないよう、早々に服を脱ぎたいと思ったのは当然の心理で。
誰が悪い訳でもない、強いて言うならば、タイミングが悪いだけ。
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マエ / ツギ
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ショコ / イリグチ