スプーン一杯分の黄色と甘露と
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無言でそれぞれのカップの中身を減らして行く。

「……………」

「……………」

互いに黙って何かを飲んだりするのは何時もの事。

その間斎原が類家を見ている事も珍しくないし、それを類家が好きにさせている事も珍しくない。

勿論今も気にしていない…つもりだったが、何故か彼の視線に類家の中で焦燥めいた感情が沸き起こる。

沈黙が不安定なそれを浮き彫りにしてしまいそうで、カップを空にした類家は誤魔化すように関係の無い話題を口にした。

「……アンタさあ……やっぱ、夜中に自分でコーヒー淹れて飲んでない…?」

「……………」

何気ない類家の言葉に、フイと斎原の顔が逸らされる。

レモネードが入れられるならと思って言っただけの言葉だったが、予想以上の過剰な反応に類家の心が上向きになる。

視線が逸らされた事で先程までの妙な感覚も無くなり、調子付いて自分から追いかけるような真似をしてしまう。

「怪しー。 なあ、絶対………うぷっ…!」

だがそんな類家の言葉を遮るように、巻き付きが緩んでいた毛布の束が突如覆い被さって来た。

襲い掛かると言う表現が相応しいそれらにもがく類家の手から、マグカップが引き抜かれるようにフッと消える。

「さ、い、ばぁ……ズルッ…! ………ん…?」

霊体特有の攻撃に類家は非難の声を上げたが、僅かに布団の端から出ていた頭に感じた感触に言葉を途切れさせた。

呆気に取られて身動ぎする事も忘れ、ドアが開く音に何時の間にか動きを止めていた布団を慌てて捲り上げる。

音のした方角を振り返れば丁度ドアが閉められたところらしく、斎原の姿は部屋の中に無かった。

「………。…………変なの………」

天然パーマと寝癖のお陰でボサボサに乱れた髪を掻きながら、類家はポツリと呟いた。



先程頭に感じた感触。

小さい子供を宥めるように、クシャクシャと乱雑に髪を掻き混ぜられた。

けれど離れる直前の手の動きは粗雑ではなく、フワリと撫で梳くような手付きはむしろ穏かさすら湛えていて。



斎原とて以前は生きた人間であった身、表面に表す事は少ないが感情が無い訳ではない。

だからけして冷徹だと思っている訳ではないが、不意打ちに優しくされると居心地が悪かった。



不愉快なのではない、ただ何処か面映く感じる。

取り分け自分と言う存在の足元が脆くなっている時には。



モゾモゾと再び布団の中へ潜り込むと、類家は目を閉じて眠りに着く事に専念する。

とりあえず今は風邪を治そう、もし次に目が覚めた時に良くなっていたら礼でも言おうかな、などと考えながら。


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マエ / ツギ
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ショコ / イリグチ