スプーン一杯分の黄色と甘露と
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弾かれたように音のした方を振り返れば、両手にマグカップを持った斎原がドアの前に立っていた。
「……………」
「…?」
ベッドに起き上がり無言で自分を凝視する類家に、斎原は微かに首を傾げる。
しかし然して気にも留めずに斎原はスルリと部屋の中に入り込み、その背後でドアが軋んだ音を立てながら自動的に閉じられる。
そんな普通ではないが馴染みとなった光景に、酷く安堵している自分がいて類家は困惑した。
「…あ、のさ………斎原…聞こえてた?」
ベッドへと近付いて来る相手に類家は上目遣いに訪ねてみるが、
「?」
返って来た答えは首を傾げるだけの否定的なものだった。
(……聞こえる訳ないよな……大体、口に出してないのに…)
あまりにもタイミング良く現れた相棒に、実は彼は読心術も出来るのではないかと余計な想像を膨らませてしまった。
そんな邪推をした自分を隠すように口元を手で覆う。
掌に触れた唇の冷たさに自分が布団を跳ね飛ばしていた事を思い出し、類家はモゾモゾと毛布を被り直した。
だが先程まで僅かに残っていた温もりはすっかり失われており、何となく冷たいシーツに横になる気にもなれず、胡坐を掻くと毛布をグルグルと身体に巻き付ける。
類家の行動を斎原は無表情に眺めていたが、その動きが治まると見計らったように手に持っていたマグカップを差し出した。
「……何…?」
「……………」
問い掛けに対する返事は無かったが、類家は反射的に差し出されたマグカップを受け取る。
陶磁の器越しに感じる暖に、温もりを求めるように受け取ったカップを両手で包み込む。
中を覗き込めば何時も口にしている黒い飲み物ではなく、飴色のような液体で満たされている。
馴染みの無い代物に顔を近付け匂いを嗅げば、鈍くなった嗅覚でも感じられるほどの強い柑橘の香りが鼻を衝いた。
「………レモン?」
類家にカップを渡した斎原は持っていたもう一つのカップへと口を付ける。
その動作に促されるように類家も自分のカップへと口を付けた。
瞬間舌の縁に刺すような酸味を感じるが、直ぐにそれを打ち消すほどの絡み付くような甘味が口腔内に広がる。
カップの中に入っていたのはレモンと多目の蜂蜜。
かなり甘めなのだろうが元々甘いものは好きな上、朝から何も食べていない胃にそれはジワリと沁み込んで来る。
何より冷えていた身体が内から温まっていく感覚に、類家は自然息を洩らした。
ふと視線を感じて脇を見上げれば、斎原がジッと自分を見詰めていた事に気が付く。
無言で自分の一挙一動を観察する様は、何かを窺っているようにも見える。
「……ん……旨いよ…」
発せられる空気から感想を求められているように感じてそう告げれば、斎原の口元が微かに緩んだように見えた。
それが笑みだったのかただ歪めただけだったのかは、カップに隠されて推し測る事は出来なかったが。
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マエ / ツギ
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ショコ / イリグチ