スプーン一杯分の黄色と甘露と
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跳ね除けた布団の隙間からヒヤリとした空気が侵入し、寒気を覚えながらも熱を孕む皮膚を冷やして行く。
起き上がった時に布団が立てた音以外の物音は無く、部屋の中で唯一聞こえるのは自身の呼吸音のみ。
(この部屋……こんな静かだったっけ……)
無機質な物で埋もれた密室、その中で蠢く小さな存在。
久しく忘れていた孤独感、あくまで人間は一人である事を強制的に実感させる静寂。
病気になると心細くなると初めに気付いたのは一体誰だったのか。
(…誰も…いない…)
浮世離れした骨董屋の店番になってから、ずっと自分は一人であると考えていた。
奇妙な同居人は居るものの、死霊となった彼と共に過ごす日常はあまりにも非現実的な事ばかりで。
だから自分は既に世間一般に言われる人間とは異なる、別な生き物だと思っていた。
それは『斎原邦彦と言う存在が常に傍らにある』と言う前提で成り立っている事も忘れて。
同志を射殺した罪悪感から自ら刑事を辞め、そこで作り上げた人脈も自主的にほぼ断って。
足繁く通ってくれる森や時折立ち寄って来る太宰を、もう自分は道を違えた者だと避けるようにして。
そんな彼らと今でもそれなりの交流があるのは、斎原が居たからではないのだろうか。
理由は何であれ事件に係わらせようとする彼がいるからこそ、自分は真の孤独になっていないのではないか。
もし斎原が自分に憑りついていなければ、今の自分はどうなっていたのだろう。
森や太宰を敬遠し、客すら滅多に来ない店に閉じ籠り。
一人で居る事を静かだと思うほどの感情を、果たして持っていただろうか。
(誰も………斎原も……?)
ふと脳裏を過ぎったものの、意図的に形にする事を避けていた想像を類家が具現化し掛けた時。
ガチャリ
唐突に部屋のドアが音を立てて開いた。
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マエ / ツギ
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ショコ / イリグチ