スプーン一杯分の黄色と甘露と
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「寒っ………本当、寒…!」

ガタガタと震える身体を布団で包みながら、類家は何とかの一つ覚えのように、同じ言葉をひたすら呟いていた。

口に出しても寒気が治まりはしないのだが、文句の一つでも言っていた方が気は紛れる。

最も体力的に延々と唱えてもいられないので、呟いては暫し黙る事の繰り返しなのだが。

何故か物事は一度ケチが付くと、坂道を転げ落ちるかのように悪化する事が多い。

今の類家も先人の道を律儀に辿り、起き抜けに感じた悪寒以来、途切れる事の無い寒気に襲われていた。

ちなみに熱は測っていない。

正確に言うのならば『測っていない』のではなく『測れない』。

体温計などと言う、素材に『デリカシー』とか『優しさ』が含まれていそうな代物は、生憎寂れた骨董屋には置いていなかったから。

その為不確かではあるが、確実に平熱以上には上がっているだろう体温に、類家は益々恐怖を募らせる。

「…うわー……寒い…。100℃とかまで行くんじゃないか…?」

自分の体温が未知の数値である事に怯え、現実的にありえない現象を沸いた頭で考え始める。

正確な温度が分からない状況は確かに不安ではあるが、実際の値を知って熱を自覚し、更に悪化するケースも存在する。

そう考えればネガティブに陥っている彼にとって、体温計が無かったのは案外幸運だったのかもしれない。

無論、当の本人はそこまで思い至れていないのだが。

「寒ー……熱とか…いや、熱とか……?」

思考能力が低下している所為か、口にされる言葉が断片的な単語へと変化していく。

当然頭の中も同等の単語しか存在せず、既にそれは文章ではなく文字の羅列にしかなっていない。

しかしその中に朧気だが見知ったものを見つけ、類家は確かめるようにその言葉を口にした。

「…斎原……?」

ボンヤリと宙へ視線を向けたまま声を投げ掛けるが、その音は天井へ吸い込まれるように静かに消える。

自分の声への反応が無い事にキョロキョロと目だけで部屋の中を見回すが、目当ての姿どころか気配すら感じられない。

そこでようやく相手が部屋の中にいない事に気が付き、類家は溜息を吐くように小さく息を洩らした。

「何だ………いないのか……」

憑依霊だからと言って、斎原が四六時中類家にくっ付いている訳ではない。

勿論傍に居る事が多いのだが、『視える』人間がいる時は姿を消したり、気紛れのようにいなくなったりする事は時折ある。

だから斎原が類家の呼び声に反応しない――態と無視している事も偶にある――のは然程珍しくなかったのだが。

何故か今反応が無かった事が不愉快で、そしてそんな事を考えた自分が更に不快で。

苛々とした感情を押し隠すように布団を頭から被ると、毛布の丘を築きスッポリと閉じ籠った。

だが隔絶された空間では逆に循環するのか、脳内では次々と不満が溢れ出して来る。

その殆どが『呼んだら直ぐに来い』とか、『自分が病床なのに散歩とは何事か』とか、理不尽なものばかり。

子供っぽい八つ当たりだと分かってはいるものの、冷静になると言う基本すら思い付けない思考はひたすら加速する。

文句からその理由へ、連想ゲームのように知識として知っている情報が、望みもしない構想を練って行く。

そして不意に行き着いた一つの結論に、類家は被っていた布団を突き破る勢いで飛び起きた。


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マエ / ツギ
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ショコ / イリグチ