多くのゲームは勝敗を争う事を目的としている。勝敗を争うゲームは、その結果による勝ち数か勝率(勝ち数の和÷総ゲーム数)の多寡によってよって成績が判定される。
しかしゲームによっては規定回数、規定時間では勝負がつかない事がある。このような場合、ゴルフや相撲のように番外戦によって勝負をつけるものもあれば、野球のように「引き分け」で終了させるものもある。この「規定回数で勝負がつかなかった」という状態を麻雀で言うと、「1ゲームが終了したとき、4者の持ち点が全く同一(全員原点の状態)」のときである。
もちろんゲームが勝敗を争うことを目的としている以上、規定内で勝負がつかなければ延長戦や番外戦(プレイオフ)をによって決着をつけるのが望ましいに決まっている。しかし野球などでは観客の帰宅時間や選手の体力消耗などを考慮して引き分けという第三の結果による終了を認めている。
もちろん麻雀では、観客の帰宅時間や選手の体力消耗という問題は考えなくてもいい。そこで麻雀では規定回数で勝負がつかなければ延長戦を行なって決着をつければ良い。
この場合、最短時間で決着をつけるには、「サドンデス方式(誰かのアガリによって差が生じた時点で終り)」を採用するのがベターであろう。「もう一圏(1回り)」という方式は、サドンデスより時間がかかる場合が多い。またその一回りが終った時点で点数に差が出来ている保証がない。
もとより勝ち星の多い少ないを成績優劣の基準とするなら、勝ち数だけが問題になる。そこで引き分けがどのように評価されようと関係がない。プロ野球でも、勝ち星の多いチームを成績上位とすればいいだけの話である。
しかし麻雀に限らず、或るゲーム・スポーツにおいて引き分けというゲーム結果を採用したうえで勝率を算出するとなると、引き分けはいかにあるべきかという問題が必然的に生じる。そこで本稿では、勝率計算上、引き分けはいかにあるべきかという点について考察する。
現在引き分けは、
(1)引き分け除外式
(2)0.5勝式
(3)全ゲーム式
という3つの方式・評価法が用いられている。
(1)引き分け除外式
或るゲームで引き分けが生じたとき、引き分けゲームは全ゲーム数から除外して勝率を算出する方式である。このような計算法は、引き分けを無勝負とも称することに起因している。すなわち引き分け=勝ち負けが無い=無勝負=ノーゲーム=ゲーム数から除外というわけである。
たしかに勝ち負けという結果が出なかったのであれば、勝ち負けが無かったことに間違いはない。しかし勝ち負けが無かったからといってこれをノーゲームと評するのは正しくない。
引き分け=無勝負とは、ゲームは成立したが勝負(決着)がつかなかったという意味である。そしてノーゲームは無効ゲーム(ゲームが成立しなかった)、あるいは抹消ゲーム(記録から抹消=ゲームが行われなかった事になる)という意味である。
そこでたとえば野球でノーゲームとなった場合は、その試合におけるヒット・エラー・ホームランなどの記録はいっさい無かったことになる。また必ず再試合が行われる。しかし引き分けはゲームは成立しているのでノーゲームではない。すなわち引き分け=無勝負とノーゲームでは、本質的に異なる。
いずれにせよこの引き分け除外式には大きな欠陥がある。
たとえばA6勝4敗、B5勝2敗3引き分け、C3勝1敗6引き分けという結果があったとする。一般的な認識では、10ゲームのうち6勝しているAの成績がもっとも良く、以下、BCの順となる。
しかし引き分け除外式では、A勝率60%、B勝率71%、C勝率75%となり、勝ち星による成績とは逆の結果になる。同じゲーム数で勝ち星がもっとも多いプレーヤー or チームが最下位になり得るなどというのでは、計算法じたいに問題がある。
また仮りにAが100回戦のゲームを行い、100ゲームとも引き分けであれば、Aは一度もゲームしなかったも同様となる。たとえ引き分けという結果であろうと、有効に成立したゲームがゼロ評価になるというのは、到底論理的ではない。
さらに勝敗・勝率に関係無しとしてゲーム数から除外された引き分けは、勝ち越しサイドにはプラス、負け越しサイドにはマイナスとして作用する。それどころか、或る時点ではプラスに作用していたものが、或る時点からマイナスに作用したりする。
たとえばAが1勝して90引き分けであった場合、この段階では勝率10割である。しかし実際には91回ゲームをしている。そこで90の引き分けは勝ちと同様に評価されていることになる。このあとAは9連勝しようと9引き分けしようと、勝率10割に変りはない。すなわち引き分けはAにとって90勝に等しい。
しかしここでAが9連敗すると1÷10であるから、勝率は一挙に1割ということになる。この場合、90回の引き分けはAにとって9勝81敗(9÷90=勝率1割)と等価値となる。
すなわち1勝90引き分けの段階では90勝に等しかった引き分けが、9連敗することによって9勝81敗の価値に変化する。現実のゲームではこれほど激変することはないにしても、引き分けの価値の微妙な変化が最終成績の結果を左右しているのは間違いない。
ゲームの結果に対する評価というものは、ゲームの結果が出た時点で確定されるものであるべきと思う。或るゲームで負けと評価されたものが、しばらく経ってから勝ちの評価に変るなどというのは、適切な評価法と思えない。
#この引き分け除外式を用いている日本プロ野球では、勝ち越しているチームにとっては引き分けは勝ちに限りなく近い。そこで今年のようなブッチギリ状態ならともかく、接戦でペナントレース終盤を迎えた場合、勝ち越しているチームは無理に勝ちに行かない。いうなら現在のプロ野球は年間140
試合のうちの数ゲームの引き分けが優勝の行方を握っていると云って過言ではない。
いずれにせよ、評価というものは勝ちにしても負けにしても、さらには引き分けにしても、その結果は成績優秀者にも不振者にも、すべてに平等の結果として作用しなければならない。その点、勝ち越し者、負け越し者という立場によって異なる作用をおよぼす引き分け除外式は、適切な評価法とは思えない。
(2)0.5勝式
引き分けを0.5勝0.5敗の価値として評価する方法である。
いまAとBがそれぞれ30勝30敗30引き分けという成績を収めたとする。まったく同じ成績であるから、引き分け除外式でも0.5勝式でも勝率は5割となる。しかしこの0.5勝0.5敗という数値は固定的な数値なので、成績優秀者にも不振者にも平等の数値として与えられる。
その観点からは、引き分け除外式と0.5勝式では、0.5勝式のほうが優れているように思われる。しかし実は0.5勝式でも、平等に与えられた筈の0.5勝という数字が成績優秀者と不振者では異なった作用をもたらす。
たとえばいまCが8勝1敗でDが1勝8敗だとする。勝率に換算するとCは0.88、Dは0.11となる。ここでCとDが引き分け試合をすると、Cは8.5勝1.5敗、Dは1.5勝8.5敗となり、勝率に換算するとCは0.85で0.03減、Dは0.15で0.04増となる。すなわち引き分け除外式とは逆に0.5勝という数値が成績優秀者にとってはマイナスに、不振者にとってはプラスに作用する。
細かい数字と思うかもしれないが、そうでもない。たとえばXが90勝10敗、Yが85勝3敗12引き分けであった場合、XはYより5つも多く勝ち越しているが、勝率計算では0.9対0.91で負けとなる。
勝率というものが文字通り勝ち数の率を表し、且つそれが絶対的な数値であれば、とうぜん勝ち数が多いほうが勝率も上回るはずである。そして前述したように勝敗・勝率というものは、便宜的ではなく絶対的な数字によって評価されるべきものである。
それが引き分け除外式と同様、成績によってプラスやマイナスに作用したりするのでは、この0.5勝式も適切な引き分け評価法 とは言えない。
(3)全ゲーム式
引き分けがノーゲーム(無効ゲーム)ではなく、引き分けという結果があった有効なゲームとして、総ゲーム数に含んで計算すると云う方式。
具体的に言えば勝率は (勝数の和)÷(総ゲーム数) で計算する。
総ゲーム数は勝ちゲーム、負けゲーム、引き分けゲームの和であるから、引き分けを総ゲーム数から除外したり0.5勝としたりせずに、単純にこの式に当てはめて計算する。
この方法で計算すれば、引き分け除外式では勝率10割である1勝99引き分けのAは勝率0.01となり、99勝1敗で勝率0.99のBにはるかかに及ばない事が明白となる。
また0.5勝式では勝率0.9対0.91でYより成績が下回るとされたXは、0.9対0.85で、Yの成績をかなり上回ることになる。
すなわち引き分けを引き分けという結果としてそのまま受け入れ、総ゲーム数に包含することによって、勝ち星が多いほうが勝率も上回るという、全く当然のことが当然に数字に反映される。ゲーム・スポーツにおける引き分けは、以上のように評価され、計算されるべきと思う次第。
−完−
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