洗 牌
対局者が着席した後、最初に行うのが洗牌(シーパイ)。自動卓の普及で過去の作業となっているが、すべてのゲームが自動卓で行われるわけではない。
洗牌はトランプなどで言えば、シャッフルに当たる。シャッフルを行うのに、1枚でもカードが表を向いたまま行うことはあり得ない。ところが麻雀では牌が表向きになった状態で洗牌が行われていた。これが積み込みなどのイカサマの温床となった。そこで自動卓など無い昔は、洗牌で牌が表向かないように、次のような手順で行った。
1)まず自分の手牌を、そのまま手前に倒して裏向きにする。
2)自分の前の壁牌の上段を手前側にズリ落とす。
3)自分の捨て牌を裏返す(点棒の授受などで動作が遅れている人があれば手伝う)。
4)東家と南家が掌を上向き加減に開いて盤上をすべらす様にかき回す(両手に牌を1枚づつ持ち、盤上をすべらす様にしても良い)。西家と北家はそれでも表向きになった牌を裏返す。
砌 牌
砌牌(チーパイ)とは牌を積み上げて壁牌を作ること。現在は複牌式砌牌法、俗に十七幢井桁式(じゅうななトンいげたしき)と呼ばれる方法が統一的に行われている。しかし昔は単牌式(タンパイしき)、または十三張法(じゅうさんチャンほう)と呼ばれる方式が行われていた(一時期、 日本でも行われたこともある)。
単牌式は牌を2段重ねせず横一列にベタ並べする方式で、中国の古文献「麻雀指南」に、寧波地方(清麻雀発祥の地)での砌牌法として記載があるもので、もっとも初期の方式と思われる。
まず136枚を洗牌したあと各自が13枚を取り、自分の前に横1列に並べる。この13枚は、まず7枚を取って横1列にした後、次の6枚を同じく横1列にして前の7枚の上側に並べる(別法として、6枚づつ2回取り、最後の1枚をこの6枚2列並べの上にチョコンと載せる方法もあった)。そして残った84枚を各自が21枚づつ取り、河に横1列、全体として正方形に並べ完了とする。
(図1) 全体を上から見た図
西家
□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□ □ □ □
北□ □ □ □南
家□ □ □ □家
□ □ □ □
□ □ □ □
□ □ □ □
□ □ □ □
□ □ □ □
□ □ □ □
□ □ □ □
□ □ □ □
□ □ □ □
□ □ □ □
□ □
□ □
□ □
□ □
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□
東家
しかしこのまま自分が取得した13枚を自分の手牌としたのでは互いに釈然としない。そこで振りサイにより開門個所が、例えば南家の山となった場合、東家は南家前の手牌を取り、自分の手牌は北家に回す。開門個所が北家の山であればこの逆を行う。開門個所が対門であれば、手牌をヨイショ、ヨイショと左回りに2回送った。
また配牌を最初に取らず、全体を4分割して平積みする方式も行われていた。
図2 全体を上から見た図
西家
□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□ □□
北□□ □□南
家□□ □□家
□□ □□
□□ □□
□□ □□
□□ □□
□□ □□
□□ □□
□□ □□
□□ □□
□□ □□
□□ □□
□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□
東家
そこで開門箇所が仮に右から9枚目だとすると、次のようになる。
(図3) 全体を上から見た図
西家
□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□ □□
北□□ □□南
家□□ □□家
□□ □□
□□ □□
□□ □□
□□ □□
□□ □□
□□ □□
□□ □□
□□ □□
□□ □□
□□ □□
↓第2嶺上牌
□□□□□□□□ □□□□□□□ □□
□□□□□□□□ □□□□□□□ □□
東家 ↑第1嶺上牌 ↑海底牌
この積みかたの場合でも、取得した配牌をヨイショ、ヨイショと左回りに2回送ることは同じであった。配牌を他家に送るとなれば、たしかに積み込みなどのイカサマはしにくい。しかしベタに並べるのは、それなりに面倒である。そこでしばらくして現在の複牌式(上下2段重ね)が行われるようになった。
余談であるが、大日本麻雀連盟(戦前結成された麻雀団体)の元理事長、溝口進氏によれば、昭和13年ころ、道場破りにきた自称イカサマ師が、この単牌式でゲームを行うと聞かされ、しっぽを巻いて退散したことがあるという(月刊近代麻雀昭49年5月号)。
開 門
一般麻雀では、開門箇所はすべて振りサイによって決められる。振りサイは現在の136枚の麻雀が生まれた1860年ころは、2個一度振りのみが行われていた。しかし1度振りではサイの組み合わせは2から12までの11通りしかなく、開門個所が限定される。これでは積み込みなどのイカサマが介入しやすいとして、後に2個2度振り、あるいは3個一度振りが考案された。
※2個2度振りは日本の競技麻雀で行われ(日雀連)、3個一度振りは中国麻将で広く行われている。
しかし真の問題は、「どのような振りサイ法がベストなのか」ではない。
たしかにバクチに振りサイはつきもであるし、麻雀は中国においてバクチゲームでもあった。そこで振りサイという行為が取り入れられていても不思議ではない。
しかし麻雀は日本伝来後、先人の努力により、ギャンブル性より競技性を求めたゲームに変化してきた。にもかかわらず振りサイについては何の疑問も抱かれず、今日も行われている。
これは一つには開門箇所を偶然性に委ねる事によって、ゲームの人為性を排除できると思われていること。二つには振りサイという行為にバクチ性を感じていない為である。しかし麻雀において、振りサイは不要かつ時間のロスというだけでなく麻雀のバクチ性の象徴となっている。
麻雀をバクとして考えるなら、その象徴として、あるいはイカサマ防止のためにも振りサイは必要不可欠かも知れない。しかし競技性豊かなゲームとして育てたいのであれば、バクチの象徴である振りサイなどまっさきに廃止すべきと思われる。
※もちろん純麻雀では振りサイを行わない。常に東家の壁牌右端が開門個所である。
牌 順 位
牌順位とは、壁牌を1枚づつツモする順序を言う。
壁牌は開門箇所が決定すると同時に、ツモ牌の対象となる壁牌と、残存しなければならない王牌に別れる。
壁牌の牌順位は、開門個所より右回りに最初の一段の上段牌を1、下段牌を2、次段上段牌を3、下段牌を4という順で数える。そして開槓さえなければ70枚目が海底牌となる。壁牌の牌順位はこれで良いが、問題は王牌である。
本来の王牌の牌順位は、壁牌末尾の段(海底牌を含んだ一段)に面した段が第一段で、開門個所に面した側が王牌末尾段であった。したがって王牌第1段上段牌より1、2、3、4と数えてゆけば、14は王牌第7段下段牌となる。
東家の壁牌を横からみた図
第2嶺上牌 ドラ 王牌第1段
↓ ↓ ↓
(上段) □□■□□□□ □□□□□□□
(下段) □□□□□□□ □□□□□□□←壁牌
↑第1嶺上牌 ↑海底牌
*古典麻雀ではドラは存在しないが、位置関係を明確にするため表示した。
この王牌、普段は使用されないが、開槓があったときは王牌末尾の牌が嶺上牌として取得される。そして王牌末尾の牌とはもちろん牌順位14、すなわち王牌第7段下段牌である。ところが複牌式では末尾牌は第7段の下段なので、簡単に取得しにくい。
これがむかしの単牌式であれば横1列に平たく並んでいるので、何の支障もなく末尾牌を取得できた。
(図4)東家の壁牌を上からみた図
↓第2嶺上牌
□□□□□□□□ □□□□□□□ □□
□□□□□□□□ □□□□□□□ □□
東家の山 ↑第1嶺上牌 ↑海底牌
このため中国古典麻雀では、開門箇所が決まった後、王牌第7段の上段牌を他の王牌の上に置き直していた。こうしておけば開槓があった時、末尾牌を簡単に取得できたからである。
(図5)中国古典麻雀式
第1嶺上牌 第2嶺上牌
↓ ↓
□ □ 壁牌
(上段) □□□□□□ □□□□□□□
(下段) □□□□□□ □□□□□□□
↑海底牌
こうして見ると、何か王牌の上にしっぽができたような感じがする。そこでこれを尾(ウェイ)と 称した。また積み上げた牌が、高山の嶺を彷彿とさせるので、これを嶺の上の牌、すなわち嶺上牌と称した(英語では LOOSE TILEと呼ばれる)。
#最初に壁牌が作られた状態を、中国では回龍(ホイロン)とも言った(「とぐろを巻いた龍」というような意)。すると王牌は龍のしっぽ部分にあたる。「尾(ウェイ)」には、「龍のしっぽ」という意味もあるかもしれない。
日本へも、このようなやり方でに伝来した。しかし中国式では第1嶺上牌と第2嶺上牌が接近しすぎている。ややもすると、間違えて第2嶺上牌をツモってゆくプレーヤーも現れる。そこで日本では両者をグイと離して尾を作るようになった。
(図6)日本古典麻雀式
第1嶺上牌 第2嶺上牌
↓ ↓
□ □ 壁牌
(上段) □□□□□□ □□□□□□□
(下段) □□□□□□ □□□□□□□
↑海底牌
しかしよく考えて見ると、第2嶺上牌□は第1嶺上牌□をツモるときに邪魔になりさえしなければいい。そこで移動させるのは第2嶺上牌だけとし、尾は次の形となった。
(図7)日本麻雀改良式
第2嶺上牌
↓
□ 壁牌
(上段) □□□□□□ □□□□□□□
(下段) □□□□□□□ □□□□□□□
↑ ↑海底牌
第1嶺上牌
たしかにこれであれば手間も少なくなるので、この方法が普及した。ところが尾を作るために第2嶺上牌を移動させているうちに、いつの間にか第2嶺上牌を第1嶺上牌として取得するようになった。当然、第2嶺上牌はこれ迄の第1嶺上牌となった。
そうこうしているうちに、第2嶺上牌を移動させることも面倒くさくなった。そこでやたらにルール・規則にやかましい日本人にしては珍しく(-_-)、王牌末尾敦の上段牌、つまりこれまでの第2嶺上牌を第1嶺上牌としてツモってゆくようになった。すなわち嶺上牌取得順を逆転させてしまったのである(面倒というより、麻雀団体関係のプレーヤーはともかく、一般レベルではなんのために尾を作らなければならないのか、よく分からなかったと思われる)。
(図8)嶺上牌逆転式(現状式)
第1嶺上牌
↓ 壁牌
(上段) □□□□□□□ □□□□□□□
(下段) □□□□□□□ □□□□□□□
↑ ↑海底牌
第2嶺上牌
もともと尾は、第1嶺上牌を取得するのに第2嶺上牌が邪魔になるために行われていたこと。第1と第2が逆転し、上段牌から取得するのであれば尾を作る必要はない。そこで尾は自然に消滅し、王牌は長方形のまま残されるようになった。
※現在は中国麻将でも日本と同じやり方がなされている。どのような経過をたどってそうなったのか不明であるが、“人間の考えることは同じようなもの”と言うところにあるのかも知れない。
ところがこのように王牌末尾段上段牌が第1嶺上牌、下段牌が第2嶺上牌と方式が定着すると、牌順位について疑問が生じた。
多くの麻雀団体では、第1嶺上牌は単に王牌末尾の牌と規定している。末尾の牌であれば牌順位14(第7段下段牌)の牌となる。ところが実際には牌順位13(第7段上段牌)の牌を第1嶺上牌として取得している。
このような混同を避けるため、王牌末尾段の上段牌と表記する団体もある。この表現であれば現実とは一致するが、嶺上牌の取得順序は牌順位13、14、11、12となり、ルールとの整合性を欠く。
このギャップを合致させるには、王牌の第1段を今までと逆に壁牌第1段に面した側とし、末尾段は壁牌末尾段側(海底牌を含んだ段)とするしかない。そこで東京に本部を持つ日本牌棋院は、かなり以前からこの点を明記している。
このようにしていったん消滅した尾であるが、昭和40年代後半になって、新たな尾が作られるようになった。それは牌順位13、即ち新第1嶺上牌を新第2嶺上牌の横にズリ落として作るものである。
(図8)現在の方式
第1嶺上牌 壁牌
(上段) ↓ □□□□□□ □□□□□□□
(下段) □□□□□□□□ □□□□□□□
↑ ↑海底牌
第2嶺上牌
嶺上牌で和了すれば一翻アップする。和了しなくても手牌として使用するとなれば、牌種が事前に知られたのではよろしくない。ところがこの嶺上牌、王牌が長方形のままであると、よく落ちることがある(それもご丁寧に上向きで....)。
普通の壁牌が見えてしまうのも不都合だが、嶺上牌ではなおさら不都合。槓をするかしないか、するとしたらどの時点でするかなど何かとゲームに影響する。そこでポロリを防ぐために、このような新たな尾が作られるようになった。現在、この方式がかなり広く行われてもいる。
−壁牌論−
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