(15)麻雀点数論 6
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第 3 章 小副(サイド)
和了があれば当然、得点が授受される。しかし日本へ麻雀が伝来した当時、アガらない者同士もその手牌の組み合わせによって点数を授受する「サイド」というルールがあった。このサイド点が場合によってはかなり大きな点数になり、和了者の得点を上回る事さえあった。
サイドは榛原茂樹の名著「麻雀精通」にも記述されているルールであり、従来は中国起源のルールと想定されていた。しかしσ(-_-)は、アメリカ起源の可能性があると考えている。
それは一つには中国麻雀に、サイドの専用の固有名詞が存在しないからである。すなわちサイドは日本語では「横(よこ)」、中国語では「小副(シャオフー)」と呼称されていた。しかし中国語の「小副」は、サイドの固有名詞ではなく、符底や賀符以外の細かい点数の総称である。また固有名詞は別にしても、中国にサイドに明確に触れた文献が(現時点では)見つからないことも、アメリカ起源を疑わせる。
麻雀は日本へは太平洋/南方(中支・上海)/北方(北支)の3ルートで伝播した。この当時、サイドは上海租界でも行われていた。しかし当時、アメリカと上海は太平洋ルートを通じて密接なつながりがあった。
そこでアメリカ起源のサイドが太平洋ルートで上海に逆上陸し、それが日本へ伝播した可能性も大いにある。この辺りの史実については、1920年頃のアメリカ麻雀の歴史を精査する必要がある。
いずれにせよ、このサイドは、日本では「横(よこ)」とも呼ばれ(「サイド」の直訳)、大正10年前後の伝来初期から昭和5年くらいまで、盛んに行われていた。当時、サイド計算はすべて中国流で行われた。しかしあまりに面倒なので、昭和10年代の終わりには、まったく行われなくなった。
#当時から麻雀をしていたσ(-_-)の師匠は、「当時はそれがルールだと思っていたが、いま思い返すと面倒くさくてたまらんルールだった」と話していたことを思い出す。
たとえば次のような状況の時、
東家 ポン 放銃
南家 ポン ロン
西家 チー
北家 ポン
東家が南家に放銃したが、古典麻雀の計算法では自摸和、栄和に関係なく、常に3人払い。そこで和了者である南家は西家/北家より28点、東家より56点の合計112点を受け取る。
和了者はサイドの精算に参加しないので、このあと東家/西家/北家の間だけでサイドの精算を行う。またサイド計算の対象になるのは刻子と槓子だけで、対子と順子は計算対象にならない。
ただし の形のときの は刻子(門前であれば暗刻)として計算された。その計算は次のようになる。
表9 サイド計算
東家のサイド点 |
(10+8+8+2=28)×2×2=112点 |
西家のサイド点 |
10符(符底) =10点 |
北家のサイド点 |
(10+8+4+4=26) ×2 =52点 |
※アガらない手であっても、一翻あれば2倍に、二翻あれば4倍にする。
見たとおり東家と西家の差は102点。この差額を西家は東家に払うのであるが、東家は親。そこで西家はこの102点の倍額、204点を東家に支払う。また東家と北家の差は60点なので、北家は60点の倍額、120点を東家に支払う。よって東家のサイド収入は324点となる。そして西家と北家の差額は42点なので、西家は北家に42点を支払う。以上の結果、収支は次のようになる。
表10 サイド計算の結果
東家 |
(サイド収入)324−(アガリ支払い負担)56 =+268 |
南家 |
(アガリ収入)112 =+112 |
西家 |
(サイド支出)274+(支払い負担)28 =▲302 |
北家 |
(サイド収入) 42−(サイド支出)148-(支払い負担)28=▲134 |
東家は放銃した上、親であるから西家/北家の倍額を南家に払った。しかし結果的にアガった南家より大きな収入を得る。西家は何もしないのに大失点となる。
※アガらない方が得するというので、むかしこういうケースを吉原麻雀(登楼せず(上がらず)儲けた=無駄使いしないで済んだ)とか、「振られて帰る果報者(女郎に振られて帰ることになったが、考えてみれば無駄使いせずよかった)」と称したという。[日s4/5]
実際にこのような状況になったら、東家は自分がアガってもアガらなくても高得点が約束される。この東家に対する支払いを免れるためには、子は荒牌(流局)にもちこむか、アガリにかけるより仕方がなかった(自分がアガればサイドに関係しない)。
この例題のサイドは幺二式(ヤオアルシー)に従って精算したが、もしこのゲームが幺半式(ヤオパンシー)で行われていれば幺半式、二四式(アルスーシー)であれば二四式で精算した。
※幺二式等=親と子の得点生産の比率。
ただしいずれの比率法であっても、満貫点を上限としていた。また満貫の和了が発生したときは、サイドの精算は行わなかった。これは満貫点の授受があったときまでサイドの精算をすると、授受額が大きくなり過ぎるためである。得点計算はこの後、四捨六入法・切り捨て法・繰上法と変化していったが、サイドの精算も各計算法に従って行われていった。
やがて得点が精算法から四捨六入法へ移行すると、サイドもこれに従って計算された。昭和5〜6年頃、栄和が一人払いになった事によりサイド計算は次の様に変化した。
(1)摸和のときはサイド精算を行わない。
(2)栄和のときでもノー聴者はサイドに関係しない。
(3)放銃者はサイド料取得権なし。支払い義務のみあり(片サイドという)。また自分の手牌との差額計算はできない。
しかしこのサイドは計算が面倒な事もあり、昭和10年頃には完全に消滅した。
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あさみ 2004/06/07(Mon)
>しかしこのサイドは計算が面倒な事もあり、昭和10年頃には完全に消滅した。
と書いたが、オドロキの書き込みを頂いた。
[101] サイド計算 投稿者:パイプ喫いの中川
投稿日:2004/06/07(Mon)
お久しぶりです(覚えておられないかな?)。パイプ喫いの中川です。
麻雀概史(後編) を読んで、麻雀点数論 6 (サイド計算)
に飛びました。
既出/ご存知かもしれませんが、兵庫県赤穂市辺りで行なわれている清麻雀(チンマアジャン
= 場ゾロなし、2,000点の浮きor 沈みでゲームが終了するブーに似た麻雀)
では、いまだにサイドを計算しています。
1990年ごろに直接確認して、最近も赤穂出身の人間に、「まだ清麻雀は行なわれているの?」と確認しました。ご参考までに。
パイプ喫いさんは、以前、某bbsでよくお会いしていた人(....って、ホントに会ったことはないけど。(^-^;
それにしても、サイド計算がまだ行われているとは、オドロキ
桃の木 山椒の木。シーラカンス発見にも劣らない大発見。いや、パイプ喫いさん、貴重な情報をありがとう。
それにしても、あのような面倒な計算を今もやってるとは、それにもおどろき。(^-^;
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あさみ 2009/07/29(Wed)
先日、千田俊太郎さんという方から、サイド計算に関するメールをいただいた。
英語ではこの符は for winning とか for going out, for going mahjong などと表現し、私はこれは「勝者への報酬」といふことと理解してをりました。また浅見 さんの「アガリ賃」といふのも、そのやうに理解しました。すると、サイドでやり取りする際の敗者の點計算には符底がつかないのが本來であるやう に見えます。また英語のページでは敗者に符底がつかないことが實際に例示されてゐたりするのです。
これはまったく ご指摘の通り。m(_ _)m
したがって上記論考の表9と表10を下記のように訂正します。
表9 サイド計算
東家のサイド点 |
(8+8+2=18)×2×2=72点 |
西家のサイド点 |
=0点 |
北家のサイド点 |
(8+4+4=26) ×2 =32点 |
見たとおり東家と西家の差は72点。この差額を西家は東家に払うのであるが、東家は親。そこで西家は72点の倍額、144点を東家に支払う。また東家と北家の差は40点なので、北家は40点の倍額、80点を東家に支払う。よって東家のサイド収入は合計224点となる。そして西家と北家の差額は32点なので、西家は北家に32点を支払う。以上の結果、収支は次のようになる。 表10 サイド計算の結果 東家 | (サイド収入)224−(アガリ支払い負担)56 =+168 | 南家 | (アガリ収入)112 =+112 | 西家 | (サイド支出)176+(支払い負担)28 =▲204 | 北家 | (サイド収入) 32−(サイド支出)80-(支払い負担)28=▲76 |
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