名前は英語の「ドラゴン」からきている。日本麻雀特有のルールであるが、近年は宝牌(パオパイ)という名前で中国麻雀などでも使用されているという。さまざまな傍証から、ドラの発生は第二次大戦終了直後、関西のブー麻雀に始まったというのが定説になっている。ただし発生の由来には2説ある。
一つは「ブー雀荘のお客さんに満州帰りの人がおり、その人の提案で行われるようになった」というもの。また一つは「ブー雀荘そのものが射幸心を煽るために考案した」いうものである。現時点で、どちらが真実か判然としていない。しかし今日(こんにち)、満州ルールと呼ばれる同地方のルールに似たようなルールが存在したようである。*戦前 盛んにプレーされた二十二麻雀(アルシーアル)は中国伝来のルールが日本的に変化したものであるが、戦後 流行しているリーチ麻雀はドラを含め満州ルールの影響を強く受けていると考えられる。
このドラ、最初はアガッてから嶺上牌をめくっていた。槓で嶺上牌が取得されてしまうと、その次の嶺上牌に該当する牌をめくっていた。当初はネッキスト(次位牌)ではなく現物(げんぶつ)。そして1枚一翻ではなく、栄和百符加算(ツモアガリは100符オール)であった。当時は二千点持ちの麻雀。そこで100符オール(300符)は現在のリーチ麻雀に換算すると 4000点ぐらいの価値であった。
そのうちにドラの価値が上がり、早くも昭和22,3年頃には100符加算ではなく1枚一翻となった。そしてその頃のドラは、サイコロの目で決めていたという。たとえばサイコロの目が9であった場合、親の壁牌の右から数えて9枚目の上段牌をめくっていた。
次にもう一度 サイコロを振り、それが5であれば親の壁牌の右から数えて5枚目のところを開門(カイメン)して配牌をはじめる。すると この場合、めくられたドラは南家の配牌の中に入る。そこでドラを取得したプレーヤーは、その牌を相手側に向けてプレーした。当然
ドラはネッキストではなく現物なので3枚しかない。
しかし手牌を開いて側に向けてプレーするのはいかにも不便。そこで槓があったときのことも考え、現在の位置に移動した。この時点でも、まだ現物であった。 しかしドラが現物では3枚しかない。そこでドラが現在の位置に定着した頃 ドラはネッキスト(次位牌)となった。とはいえ この移行は全国一斉に行われたわけではない。そこでしばらくの間、現物ルールとネッキストルールは混在した。そこでゲームを始めるとき、「ドラは現物か、ネッキストか」などという打ち合わせが行われた。しかしやがてネッキストで定着した。
それはいいが、プレーしているうちにドラがすべて捨てられてしまう状況が間々生じる。そこでやがて、そのような場合に現在の槓ドラの位置の牌を新ドラとしてめくるようになった。最初は元ドラが4枚切れになったときだけめくっていたが、やがて「ドラが出切れじゃなくて、槓で無くなった場合はどうするんだ?」という話が出てきた。当然 返事は「おお、そういう場合もめくろう」、そのうちに「ええい、めんどうだ。槓があったらめくる事にしよう」、そんなわけで槓ドラが誕生した。
裏ドラがどういう経緯で発生したのかハッキリしない。単純に言えばさらに刺激を求めただけなのか、あるいは「リーチは危険牌でも打たなければならないのに、一翻では割が合わん」というので採用されだしたぐらいなのかと思われる。
裏ドラも発生当初は現物であった。しかし元ドラと同じく、ネッキスト方式が台頭してきた。そこで発生過程では、やはりゲーム前に「現物か、ネッキストか」という打ち合わせが行われた。現在はすべてのドラはネッキストが当然となっている。そこで「ネッキスト」という用語もほとんど死語になっている。
ところでドラには芸者という通称もある。これは芸者のように華やかで美しい、という意味ではない。芸者は左褄(ひだりづま)をとる(左手で着物の裾を軽くめくる)。そこでドラ=めくる=芸者、という連想で、芸者とも呼ばれるようになった。
※芸者がお座敷で披露する踊りの中に「浅い川」という踊りがある。女性が着物の裾を軽くめくって浅い川を渡ろうとする。ところが渡りはじめてみると、だんだん深くなる。そこで濡れないで渡るためには、裾を高くめくらなければならない。すると
だんだん上の方まで見えてくる....という踊りらしい。もしそうだとすると、これがドラ=めくる=芸者のホントの理由かも。う〜ん、麻雀研究のために一度ぜひ見たい...(_ _;
20年ほど前、「アリス」というルールがはやった(いまでもやっているかも)。これはリーチ者がアガったとき、ドラの横(槓ドラの場所)の牌をめくるというもの(すでに槓ドラがめくられていれば、その横の牌)。手牌に同じ牌があれば、「アリス!」と宣言して、さらに次の牌をめくる。そして同じ牌が無くなるまで めくり続ける。このアリス、1枚でチップ1枚の権利。アリス牌が暗刻なら、いっぺんに3枚の権利となる。そしてロンアガリなら放銃者から、ツモアガリなら3人から受け取る。
「アリス」は、「有る」という意味に決まっているが、扱いは発生当初のドラと同じである。おまけにむかしの花魁(おいらん)言葉、「何々でありんす」という表現にも関係があるという。花魁といえば昔の芸者。どうもドラと芸者は、切っても切れない縁があるようだ。
#むかし師匠が江利チエミさんと新聞対局したとき、師匠が快勝した。すると江利チエミさんが悔しがって、「よしっ、先生、アリス麻雀やりましょう」と言い出した(σ(-_-)は記録を担当してた)。そして余興に1ゲームだけアリス麻雀が行われたという思い出がある。残念ながら結果は覚えていない。師匠もアリス麻雀は、それが最初で最後だったろうな。
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