Laboratory  研究室

    (2)牌式


 麻雀の数学的側面の研究は、中国ではほとんど行われていなかった。しかし日本では伝来すると同時に、すごく高密度なレベルで始まった。これはやはり国民性の違いなのであろうか。
ということでいきなり次の手。

(1)

(2)

(3)

 (1)(2)(3)はみんな構成が異なるが、みんな同じような形。そこでチラッと見ただけではノーテンなのかテンパイなのか、テンパイだとしても何待ちか分かりにくい。もちろん時間をかけてじっくり見れば誰でも分かる。たとえば(1)は、え〜と、え〜と....ま、あとにしよう...

 いずれにしても手牌13枚での清一色の組み合わせはゴマンとある。もちろん似たような形はものすごく多い。そこですべての清一型を分類しようとしても、このままの形で始めたのではすぐに悩乱してしまう。

 現在であればコンピュータのお陰で、すべての組み合わせも簡単に検出できる。しかし昔はそんな便利なものはない。そこで当時の先人、草鹿三郎(くさかさぶろう=林茂光麻雀研究所同人)という人物が名案を考えた。

 (1)は4が1枚、2・6・7・8が各2枚、3が3枚ある。(2)が347が1枚、3・6が2枚、2・8が3枚だ。そこでこれをそのまま数字に置き換えてみる。すると(1)(2)(3)はそれぞれ下記のような式で表される。これを牌式(パイしき)という。

   牌式       牌姿
  (1)2311222 

  (2)3211213 

  (3)2221222 


  (1)(2)(3) が似たような形であっても、こうして数字に置き換えてみると構成要素がまったく異なることがよくわかる。これだけでも大した発明であるが、草鹿氏はさらに、この牌式のアガリ牌がある場所の数字の上部に黒点を付した。この黒点のある場所を和牌門(ホーパイメン=アガリ牌のある場所)という。
    ..  . .
 (1)2311222
     . .  .
 (2)3211213
    .  .  .
 (3)2221222
#ブラウザの都合で、黒点の位置がズレていたら勘弁。

 こうすると(1)(2)(3) 、それぞれが何門張で、何がアガリ牌であるかが一目瞭然となる。これはまさに大発明で、当時この牌式を元に清一色の分類が盛んに行われた。しかし実はこの素晴らしい牌式も、この段階では少しウイークポイントがあった。
           
 それは、たとえば(1)の 2311222 という牌式の場合、これを見ただけでは牌型が下記のいずれの型なのか判然としなかったからである。

  (1)2311222   
            
           

 そこで昭和50年、筆者は「牌型が1以外の数字で始まる場合、および9以外の数字で終わる場合、その牌が存在しない分ところにもゼロを記す」という改良を加えた。これによって各式は下記のようになり、牌式によって牌型を特定できるようになった。また和牌門の存在がより明確になった。
     ..  .  .
 (1)023112220 2233345667788
     .  .  .
 (2)032112130 2223345667888
    .  .    .
 (3)022212220 2233445667788


 さて清一色の手牌10枚、あるいは13枚において、聴牌型は全部でいくつであろうか。これは日本に麻雀が伝来してから、研究者の一番知りたいところであった。そこで昭和50年、牌式が完全な形になった段階で手作業による清一色全聴牌型の解明を試みた。その第1段階は、手牌10枚・13枚を牌式によって分類することであった。

 (1)(2)(3)各式のうち、たとえば(1)023112220 の牌式でいうと、単子(タンツ=1枚の牌)を2種、対子を3種、刻子を1種とした組み合わせはいくつでもある。

  例  2231212 2123122 1322221

 そこで(1)(2)(3)の式を数字の小さい順番に並べ替えると下記のようになる。

 (1)の並べ替え型 1122223
 (2)の並べ替え型 1112233
 (3)の並べ替え型 1222222

 (1)(2)(3)はすべてこの型の変化形である。そこで牌式の数字がもっとも小さい順で表されている式をマザー型とし、それに付属する式をチャイルド型とする。従って(1)(2)(3)はすべてチャイルド型となる。

  13M:1122223   (1) 13C:2311222
  13M:1112233   (2) 13C:3211213
  13M:1222222   (3) 13C:2221222


 そこでまずマザー型を検索した結果、手牌10枚では22型、手牌13枚の清一色では32型のマザー型があることがわかった。ま、これくらいの作業なら人間様でも間違うことはない。

 次にこのマザー型を単子や対子の数によって[M1]から[M32]までに分類した。そののちM1から順番に、そのチルド型(Children)を片っ端から検出する作業を行った。

 これはむかしの手さぐり分類と異なり、系統的に行われたのでかなりの成果が上がった。しかしあとで分かった話であるが(-_-)、手牌10枚でも12,500、手牌13枚となると40,196の聴牌型があり、数年間努力を続けても25%ほどしか解明できなかった。そして結局、この全解明は、コンピュータの登場を待つしかなかった。

 しかしこの牌式が清一色の解明に果たした役割は、その時代で非常に大きかった。また相対性理論が登場したからと云ってニュートン力学が無用になったわけではない。それと同様で、牌式による分類は現在も数種類の清一色型をてっとり早く比較検討するときなどに、必要不可欠な存在となっている。

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