KM Q&A 難問奇問 

         (03)食い下がり
 (月刊近代麻雀・昭和60年10月号)
.

 いわゆるツモリ三暗刻の手で出アガリした場合、三暗刻役はつかないのに、三色同順の場合はどうして役になるのですか。

たとえば345のサンシキで嵌 四索マチであった場合、四索 を出アガリしても門前であれば二翻になります。しかしツモリ三暗刻の場合は、出アガリすると食い下がり?になって三暗刻役はつきません。同じ出アガリなのに、どうして三色同順の場合は食い下がりにならないのでしょうか。(横浜・S)


 Sさんの質問をもう少しくわしく述べると、「出アガリ牌によってできた刻子は明刻子となる。したがってツモリ三暗刻の手も出アガリでは三暗刻にならない。順子の場合でも出アガリメンツは明順子になる。ならばこの場合も一翻下り(食い下り)になる筈ではないか」ということと思います。

 結論から言えば、現在の一般的な日本麻雀では、門前であれば出アガリでもサンシキは食い下がりになりません。なぜなら、たしかに麻雀には「出アガリ、ツモアガリ」という二つのアガリ方がありますが、この「出アガリ、ツモアガリ」と「食い下がり」とはまったく関係のないことだからです。

 たとえば、現在の一般的な日本麻雀では食いピンフを認めていません。しかし次のようなピンフ手の場合、六筒 九筒で出アガリして筒子が明順子となっても、ピンフの一翻は認められています。これが食い下がりになるなら、ピンフはいっさい出アガリできないことになってしまいます。

 二萬三萬四萬三索四索五索七筒八筒七索八索九索九索九索

 では食い下がりのポイントが出アガリ、ツモアガリにないのであれば、いったいどこにあるのでしょうか。実は食い下がりのポイントは、もう一つのアガリ方の分類である門前アガリ・副露(フーロ)アガリというところにあります。そして食い下がりの問題は、副露アガリのときにだけ生じる問題なのです。

 するとここで、「副露アガリは明メンツを含んだアガリ。門前手でも出アガリなら、そのメンツは明メンツになるので食い下がりになるのではないか」という堂々巡りのような意見が出てきそうです。しかしこれは、「副露アガリは明メンツを含んだアガリ」というところに誤解があります。

 たしかに出アガリ牌を加えたメンツは明メンツ、すなわち刻子(コーツ)なら明刻ですし、順子なら明順子です。しかし副露(フーロ)アガリは、「明メンツを含んだアガリ」ではありません。副露アガリとは「チイ、ポン、ミンカンをしてからのアガリ」をいいます。

したがってチイ、ボン、ミンカンをしないでアガったものは、明刻があろうが明順があろうがすべて門前アガリであり、食い下りの対象にならないのです。そしてツモリ三暗刻の手が門前アガリであるのに出アガリ無翻となるのは、「暗刻が三つ」という規定に該当しないからであって、「副露アガリだから食い下りになる」というのではないのです。

 ではどうして食い下りのポイントは、門前アガリ、副露アガリにあるのでしょうか。現在の136枚の牌を使用する麻雀は19世紀半ばに中国で成立しました。その頃から暗刻・明刻という区別はありましたが、暗順子・明順子という区別はありませんでした。

 この古典麻雀でのルールは、「規定された形になっているか」どうかが問題であって、出アガリ、ツモアガリはもちろん、門前アガリ、副露アガリも翻数には関係ありませんでした。ところが第二次大戦後になって三色同順が登場しだしたころ、門前アガリの手役を一翻アップとするようになりました。現在でも門前手の混一色(ホンイーソー)を「メンホン」とか「立てホン」と呼ぶことがあります。これは当時、門前手の混一(ホンイツ)をそのように特別扱いして呼んでいたころの名残りです。

 現在“門前清”は単にロンアガリしたときに10符プラスされる、あるいはツモアガリしたときツモの一翻が加算されるための条件程度の存在になっています。しかし第二次大戦前、二十二麻雀の時代の日本では、出アガリ・ツモアガリに関係なく、門前清そのものが一翻という時代がありました。このルールは短期間でなくなりましたが、この門前清を重視する発想が近代にも受けつがれ、戦後、門前アガリの手役を一翻アップで計算するようになったのです。

 この「門前はアップ」という発想は、やがて「副露はダウン」というように、発想が逆転しました。発想が逆転しても得点結果は変わりません。しかし門前アガリと副露アガリで翻数に差が出来ると、いきおいその区別を云々するようになります。そういう風潮の中で、順子にたいして今まではなかった暗順、明順という概念が誕生しました。

 ところが刻子は、他家の牌を加えた面子が「」です。そこでこれをそのまま順子に当てはめると、出アガリ順子はたしかに明順子ということになります。そこで S さんのような疑問が生じる事となったわけです。

 しかしたとえ出アガリ面子が明面子となっても、あくまで食い下りのポイントは門前アガリ、副露アガリというところにあります。そこで出アガリ三色同順でも門前アガリなら食い下りにならないのです。

以前へ  以降へ  目次へ