数年前、「“ 発 ”の旧字体は“ 發 ”と思います。しかし麻雀では、なかが“弓矢 ”になっています。これはどうしてでしょう」という質問を受けたことがある。
そこで「“ 弓矢発 ”は“ 發 ”の異体字です。こういう異体字が用いられたことに、特に深い意味はないと思います」という主旨の回答をした。
いまでもそう思っているので改めて書くほどのことはないのだけれど、今月の「プロ麻雀」の「白発中の謎」というコラムに「“ 発 ”は“ 發 ”が正字。清朝の高級牌では“ 發 ”になっている。しかしそれ以外の牌では“
弓矢発 ”になっているものが多い。調べてみると、“ 弓矢発 ”は金文の中に一例見られるが、それ以外は“
發 ”。 “ 發 ”という字があるのに、なぜそんな“ 弓矢発 ”をわざわざ使ったのか。麻雀は太平天国の乱の時代に出来たと云われる。この乱は、当時の民衆の反満意識もあって、かなり一般の支持も受けた。そこで清朝への抵抗を表す意味で“
弓矢発 ”が用いられたのではないか」という主旨の記述があった。
面白い話だと思った。しかし正直言って思いつきの域を脱していないとも思う。第一、「“
弓矢発 ”は金文の中に一例見られるが、それ以外は“ 發 ”」というのは、どうもチェック不足のようだ。
新潮社の校正担当の仕事をしているという小駒勝美という人の「漢字こぼれ話」というHP(いまはNotFound)の「麻雀牌の發」というコラムに、「“ 弓矢発 ”は宋(そう)の時代の本に使われているし、元(げん)の時代、明(みん)の時代の本にもあちこちで使われている」とある。
「ながしま」という姓は、普通「長島」と表記するが、ミスタージャイアンツの場合は「長嶋」と表記する。「嶋」は「島」の異体字で、「島」より使用例は少ない。しかし決して特殊な文字でもない。“
弓矢発 ”もそれと同様で、“ 發 ”よりマイナーな存在だったかも知れないが、特別の意味を持ったレアな文字というわけではない。
#「川崎」の「崎」にも、「嵜」、「碕」などの異体字がある。珍しいところでは「秋」の異体字、なんと左右が逆→「火禾」。
そこでσ(-_-)が思っていること。
世界に麻雀ブームが起きたとき、麻雀牌は中国で盛んに作られ輸出された。そのとき彫られた「発」は、基本的には“
發 ”であったが、“ 弓矢発 ”も清朝への抵抗を表すなんてこととは関係なく、それなりに彫られた。
たまたま日本へは“ 弓矢発 ”が多く流入した。そこで日本で麻雀牌が製造されるようになったとき、そのまま“
弓矢発 ”が彫られた。あるいは最初に日本の職人が手本にしたのが、たまたま“
弓矢発 ”であった。そこで日本では“ 弓矢発 ”が普及することになった、というところ。
なお現在の中国製麻雀牌は、圧倒的に正字の“ 發 ”が用いられている。アメリカでは、リューファ/ホンチュンではなく、Green
Dragon/Red Dragonと呼んでいたが、いまでは彫りまで、そのまま緑と赤の龍の絵になっている。そこで“
弓矢発 ”は、いまでは日本製麻雀牌の特色ともなっている。
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