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    (169)感心した


 愛知県の岡崎市というところに、一畑山(いちはたさん)薬師寺(やくしじ)という新興宗教のお寺がある。話によると、山陰地方の一畑山というところに薬師如来を祀ってあるところがあり、戦争中、20才の青年がその辺りに疎開していた。青年が薬師如来に参拝していると、薬師如来が体の中に入り、神通力を得た。戦後、名古屋に帰省し、そこで占いや身の上相談をしているうちに信者が増え、ついには岡崎に7万坪の土地を買って、薬師寺を建立したのだという。

 σ(-_-)は信仰心はあんまりないけど、神社や仏閣など大きくて古い建物を見るのは好き。しかし一畑山薬師寺は、新興宗教なので、建物はでっかくて立派でもコンクリート建築。それではあんまり興味が湧かない。

 しかし東海地方では、テレビでばんばんコマーシャルを流している。近頃は境内の一角からお告げによって温泉もでたということで、かなり評判。そこで前から(どんなとこだろう)と興味があった。

 すると先日、友人夫婦がそこへに新車のお祓いをしてもらいに行くという。ちょうどいい機会だからとσ(-_-)も女房と同行した。

行ってみると、ウワサに違わぬ立派な造作。(ふん、なるほろ)と思いながら、建物の中に入ってゆくと、大きなカウンターに並んだ受付の人たちが口々に「ようこそ、お参りくださいました」と声をかける。

 (ふむ、感じがいいではないか)と思いながら、ご祈祷の受付をする。事前に聞いた友人の話によると、たとえば10人でいった場合、1人だけお金を払えば、ご祈祷とかお払いは一緒にやってくれるという。ただし残った9人は、ご祈祷のとき名前を呼んで貰えないし、帰りにお守り札を頂くことができないという。

 そんなもん、華族、じゃなかった家族代表でσ(-_-)だけ名前を呼んで貰えれば充分。お守り札だって、我が家に1枚あれば充分。そこで最初はσ(-_-)の分だけ、手続きすることにしていた。

 ご祈祷の値段は1千5百円から1万円まで5段階くらいある。何が違うのか友人に聞くと(友人はすでに何回も来ている)、「最後に頂くお守りの大きさが違うだけで、ご祈祷とかお払いとかは全部一緒」だという。

 (ふむ、お守りの大きさが違っても御利益は同じだろう)と思って1千5百円にした。そしたら、ご祈祷の受付札とともに、温泉入浴券と呈茶券(抹茶)までくれた。(おお、これはサービスがいい)と思ったが、とうぜんσ(-_-)の分しかない。

 そこで温泉入浴券だけ女房の分を買おうと思い、受付に聞いた。すると入浴券単独は販売していないという。女房は「外で待っていてもいい」といったが、それでは可哀想なので、結局二人ともご祈祷して貰うことにした。

 控え室で順番を待っていると、やがて呼び出しが。
 大勢の人たちと薬師如来が祀ってある本堂に入って行く。それぞれが着席してからご祈祷が始まったのだが、そのご祈祷がまことに丁寧。お経とか願い事を読み上げる職員(新興宗教のせいか、僧侶でもなければ神職でもない服装。あえて言えば、神社なんかの職員の出で立ち)は、お経の前やあとに参拝者に礼をする。その礼が180度、文字通り身体を二つ折りにする。その姿勢で10秒ほど。

 お経があがっている最中にお祓いがあるが、その係りの人も同じ。(おお、なんて丁寧なんだ)と思っていると、しばらくしてご祈祷が終わる。すると今度は、「お不動様のほうへどうぞ」

 (ん?、ご祈祷は終わったんじゃないのか)と思いながら、ぞぞろぞと別の建物に移動する。するとそこでもまたご祈祷が始まった。(う〜ん、こんな丁寧なご祈祷をしてもらって温泉まで入れるなら千5百円は安い)とつくづく思った。

 自分達夫婦のご祈祷はこれで終わりだが、友人夫婦はまだ車のご祈祷が残っている。車のあるところまで行くと、車のすべてのドア、トランク、エンジンルームなど、開くところは全部開けるように言われた。その全開放した箇所で職員がいちいち立ち止まって、丁寧にご祈祷しながらお祓いをする。

 お祓いやご祈祷の仕草などをみていると、まさに神仏混交のなんでもアリ。お薬師様といっても、神道なのか密教なのか判然としない。なんだか、“ありがたそうなら何でもいいのか”と言う気がしないでもなかった。

 しかし出掛ける前は、なんだかんだと言っても新興宗教だから)と軽く考えていた。しかし見ていて、(いや、大したもんだ。こんなけ丁寧にご祈祷すれば、リピーターが増えるのも当然だ)どといたく感心した。

ご祈祷がすんだあと温泉に入ったが、これがまたよかった。まるで新築のゴルフ場の浴室なみの設備。泉質も、(おお、これこそ温泉)という感じで肌触りが最高。風呂から出たあとは、呈茶券など女房にやって、食堂で湯上がりのビールをぐいぐい。まことに充実した一日であった。

 

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