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     (30)百雀荘綺談2

 
 百雀荘、ウイークデイは午後3時、土曜、日曜は午後1時開店。今日は土曜で時間はまだ午後の12時半、玉娘さんも開店準備に余念が無い。そこへSさんがひょっこり顔を出した。

「あら、今日は早いんですね」
「ウン、もうすぐみんな来るよ」
「ここでお待ちになりますか」
「ウン、まあ、そのー」

 なんだか煮えきらないSさんの口調に首をかしげた玉娘さん。それに促されるようにSさんが口を開く。

「前から聞こうと思っていたんだけど・・、陳さんて中国大陸から日本へきて、そのまま名古屋へ来たの?」
「ええ、そうですけど・・」
「それにしては玉娘さんも陳爺さんも随分日本語がうまいねぇ 」

「ああ...でも大陸から直接日本に来たのではないんですよ。お爺ちゃんはもともと上海に住んでいたんですけど、第2次大戦が終ったときに香港へ移ったんです。それで私も香港で生れましたが、お爺ちゃんはもともと日本語が話せたし、私も香港で勉強しましたから」
「フ〜ン、でもどうして日本へ来ることになったの?」
「まぁ 、いろいろあって」
「名古屋に知り合いでも?」

「えぇ、Aさんという人。それでAさんが『名古屋は日本で一番麻雀が盛んなところだから是非お越しください』って。それで名古屋に来ることがきまったの」
「名古屋が一番麻雀が盛ん?・・。まさか」

「Aさんの話によれば、日本広しといえど区の名前で麻雀の字牌が揃うのは名古屋だけなんですって」
「?」
「だってほら、名古屋は東南西北と中区、緑区、天白区って字牌が全部あるじゃない」
「アッ、そう言われてみれば!」

「それもAさんの話ですと、最初は東南西北と中までしかなかったんですって。でもあとで緑区が出来たとき、そのときの市長さんが『發と中があって白がないのでは大三元が出来んではないか』って言い出して、むりやり或る区を分割して天白区というのを作ったんですって」

「本当か、それ?」
「さあどうかしら。でも天白区を作るときだって、『天白区では舌を噛みそうだから、いっそのこと白板区にしたらどうか』などという話が出たっていうから意外と本当かもよ」

そんな話しをしているところへお待ちかねのメンバーがぞろぞろと入ってきた。先頭で入ってきたYさん、Sさんの顔を見るなり、

「おい、どう言うこっちゃ。ちょっと早すぎるんじゃないの」
「いや、いま来たばっか」
「いま来たばっかにしては嬉しそうな顔をしているな。彼女へのアタック、抜け駆けは約束違反でねえの」
「抜け駆けなんてとんでもない。字牌が一つでも抜けたら名古屋に住めんよ」
「?....」

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