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     (29)百雀荘綺談(1)

 
  名古屋の錦三丁目、通称「錦三(きんさん)」と呼ばれる繁華街。その繁華街の一角にイレブンハウスという4F建てのソシアルビルがある。そのビルの地下に近頃評判の雀荘が。明るくスマートな作りであったが、なぜか名前は百雀荘と古めかしい。

 オーナーはさんという中国人。しかしどうもコレはおふざけで、本当はさんと言うらしい。かなり流行っていたが、店が感じがいいからというだけではない。実際に店を切り盛りしている孫娘の玉娘ぎょくじょう)さんの魅力が大きい。粋なチャイナドレスに身を包み、ニッコリすればクレオパトラか楊貴妃か。お陰で店は若い男性でいつも満員だった。

 おまけにこの玉娘さん、誰に教わったのか麻雀の腕もなかなかのもの。百雀荘の月例会でも、いつも好位置をキープしている。でもなんだか手加減しているんじゃないかともっぱらのウワサ。

 その日も早めの時間から、某社の若手社員が一番奥のテーブルで熱戦中。半荘3回終わったところで、なんとTさんが3連トップ。毎回、いいところまではゆくものの、後一歩で差しきれないYさん、思わず「ツキには勝てん」とグチった。

聞きとがめたTさん、「ツキじゃない、腕だよ。腕で打っているんだから....」

 すると毎回ラス争いを演じ、カリカリしているHさん。
  「腕で打つなど珍しくもない。俺なんか足で打つぞっ!」 というなり靴を脱ぎ、テーブルの上に片足を乗っけた。

 あまりのマナーの悪さに丁度お茶を運んできた玉娘さんもビックリ。なにせこの百雀荘、マナーには結構うるさい。いくら常連さんでも、こんな事する人は初めて。
慌てた先輩格のEさん、 「おい、行き過ぎだぞ。だいたいお前達は腕で打つとか足で打つとか、まるで肉体派じゃないか。麻雀は身体じゃなくて頭で打つんだよ、頭で」

 これには一本参ったと白けかけたムードもなごみ、Hさんも照れ隠しに頭をかきながら足を降ろした。玉娘さんもヤレヤレと胸をなで下ろしながらお茶を配り始める。
するとEさん、 「なぁ、頭で打つなんて頭脳派は言うことが違うだろ。今度こういうエリート雀士とデートしないかい?」
 ニッコリ笑った玉娘さん、「私は心で打つ人とデートしたいわ」

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