アマゴ発眼卵放流
2010年11月7日 三重県 安濃川

動画公開中


失 敗・・・・。






 なかなか更新しねーなー、と思われた方も多かったことでしょう。
 2010年のアマゴ発眼卵放流は、残念ながら「失敗」と判断せざるを得ない結果となりそうです。

テンションが上がらず、なかなか記事を書く気が起きませんでしたが、反省点も含め、次にこの経験を活かせるよう書き留めたいと思います。




11/7 発眼卵放流の実施日。
今年も大学の研究室との合同放流で、発眼卵には生存率調査のためALC標識が施されています。

学生(院生)さん達と手分けして準備をすすめ、私は支流2カ所、学生さんたちは本流3カ所に手分けしての放流です。

この日は例年になく暖かい日で、水も平気で手を入れられる温度でした。紅葉も殆ど見られず、初冬とは思えない状況。作業をする上では楽な気候です。

流れは減水気味でしたが、20世紀末に荒廃した流れは徐々に復活傾向で、上流域はここ数年でかなり渓相が回復してきました(ただし、砂の堆積は酷い)。

ボックスを沈め、ロープで固定し、本当にあっという間に放流終了。
色々な話をしていたので時間は掛かっていますが、黙々と作業すれば、大人2〜3人で1万粒程度の放流は2時間あれば可能です。
もちろん、一人でも全く問題なく放流できますので、人員不足・資金難で放流が難しい漁協では、積極的に発眼卵放流を取り入れて頂きたいものです。


何のトラブルもなく、放流は終了。この時、後に起こる問題など想像さえしていなかった。


11/21 放流から2週間。途中経過観察。

各ボックスで十数粒の死卵が見られたが許容範囲内。稚魚も下段に落ちており、例年通りの孵化状況に安心する。


12/3〜4、津市内で夕方〜深夜にかけて突風とパチンコ玉のような雨が断続的に降る。

まとまった雨ではなかったので、特に気にしていなかったのだが、これが悲劇の始まりだった。 


12/8 学生さんからメールが届く。

「boxが流失していました。被害状況としまして・・・●●区間のbox一つが流失、もう一つもほとんど死んでいました。・・・●●地点 一つ流失、もう一つは死魚もいますが生きている個体もいます・・・・●●合流点 二つとも無くなってます・・・●●下流 一つは回収しましたが空っぽでした。以上が被害状況の速報になります。この前の爆弾低気圧による雨が原因かと思われます。」


ボックスが埋まって卵や稚魚が死んだ年はあったが(台風並みの大雨が降った年)、石が詰め込まれた数十kgのカゴが、簡単にひっくり返るか??

にわかには信じられず、何度かメールをやり取りする。

「カゴに入れる方法は、増水に弱いのではないか」との話にもなったが、学生さんから送られてきた、近くの山の降水量のデータでは1時間に11〜18mmの降雨があったようで、その日の累加雨量は21〜28mm。

観測地点が山ひとつ離れているので、この川の増水状況には直結しない気もしたが、比較的強い雨が降ったのは確か。
しかし、それでも相当重いカゴが流されるとは考えにくい。

現地で、状況を確認することにした。


12/11 流失したボックス回収のため、安濃川へ向かう。
学生さんらがいくつか回収していたが、見つかっていないボックスもあるのでかなり下流から見て回る。

途中、川の近くに住んでいる顔見知りのオジサンに、1週間前の増水がどうだったか聞いてみたが、「確かに、それなりに雨が降って増水はしたぞ。俺が見た限りでは、いつもより30cm位は水量が増えたかな? ま、大した雨ではなかったわ。」とのこと。


30cm増水なんてのはよくある話で、ますますカゴがひっくり返った理由がわからない。しかし、川を見て歩くと、気になる痕跡がある。

例えばここ。水面から50cm以上高い岩場に、新しい小石が積もり、ゴミが多数引っかかっている。
つい最近、この岩が水没したのは間違いないようだが、オジサンの言う状況とは異なる・・・。

ボックス1個発見。学生さんが2回目に追加放流したものだった。

もう一個発見。春になったら一番下から釣り上がって、もう一度回収作業を行いたい。

そして、上流まで来て異変に気が付いた。
上の写真の流れには、流木で堰き止められた2m×4mぐらいのプールがあったのだが、無くなっている。

おそらく、上流で局地的な大雨が降ったか、同じような堰き止めが決壊して、下流のプールもろとも押し流されたのではないかと。
普段水が流れない高さで水が流れた形跡が見られたにも関わらず、増水は普通だったという話から予測すると、カゴをひっくり返した増水は鉄砲水で、瞬間的に一気に水位が増した可能性がある。

実際、この支流より上流の本流では、ボックスに被害がなかった。


これが、今回の放流の顛末です。


そして、今回の惨事ですが、猛省せねばなりません。

 大量の稚魚を(おそらく)死なせてしまった事、最終的に自然、生物のための活動のはずが、ゴミを出してしまった事です。 ここ数年、安定して90%以上の孵化を実現していたことで、油断していたのかもしれません。

流失防止ロープは、当初は2点でビチッと固定していましたが、最近は緩みがあっても「ま、いいか」位で済ませていました。
カゴに入れるにせよ埋めるにせよ、流失防止は来年以降、しっかりやりたいところです。



なかなかハッキリした放流効果をお伝えできないのが残念ですが、発眼卵放流の効果、より有効な放流方法、新しい手法。
色々なことを検討しています。技術的なもの以外に、関連法規など文系のアプローチも含め、今は数字(データ)の積み上げが重要な時期であると考えています。

 今年の失敗は、放流がうまくいかなかった年のデータとして、来年以降、野生魚の比率がどう変わるかの参考データとしては利用できるものと考えています。


トップメニュー発眼卵放流活動>発眼卵放流 2010/11〜12月