アマゴ発眼卵放流記
2005年11月23日 三重県 安濃川
-後編-


前編の続き。

川に到着し、まずは自作バイバートボックスへ卵を入れる作業に取り掛からなければならない。

発眼卵は直射日光厳禁なので、橋の下の川原に陣取ることにした。
必要な道具を詰め込んだ袋とウェーダー、発眼卵、机の代わりになるのでクーラーボックスを3人で手分けして持ち、川原に下りれる場所を探す。

「あれ?おかしいな。この辺から下に行けるはずなんやけど・・・」
男3人、林の中を右往左往。

ようやく川原に下りて、橋の下に来てから気が付いた。
「ゴメン。そういえば橋の横に下に行く道があったわ。えへ☆」

20秒で行ける場所に5分かけて遠回り。
「なめんな」「わざとやってるだろ」「もう疲れたから帰る」「この川に本当に来たことあるの?」

二人ともアウトドアを十分に満喫してるようで嬉しい限りだ。

橋の下に到着。
フタを開け、袋を開ける。小指の立ちっぷりが緊張感を醸し出してますね。
発眼卵は想像していたより遥かに硬く、小さなゴムの粒のような感じ。袋を持つとサラサラって音がするほどだ。普段見にしてるイクラとは大違い。


さて、まず最初に何をしたらいいんだ?器具を消毒して、えーと、とりあえずボックス全部出してくれる?それと、死卵除去用の割り箸とボックスが開かないように縛るロープ。あ!それ切るハサミが車の中だ!

自分でも笑えてくる程の手際の悪さ。料理が得意と彼氏に言ってしまい、生まれて初めて包丁を握って台所に立ってしまった女子高生のような気分。ママン助けて!

器具を消毒し、お玉いっぱいすくってみる。時々”クルッ”と中身が回転する。生きている証拠。

「へー。これがアマゴの卵?醤油かけて食えそうやん消防士のAが興味深げに見つめる。

うんうん。食えなくはないでしょう。でもね、食ったらお前ぶっ●すからな。(本気)

 

さーて、どれぐらい入れたらいいんだ?なるべく少ない方がいいと聞いているので、とりあえず上の写真ぐらいの量を入れてみた。温度の変化によるショックを避けるため、少しずつ水をかけて徐々に水温に慣らす。

次に取り掛かったのは死卵除去の作業。出荷の段階で除去されているとはいえ、大きな養殖場の場合は検卵器と呼ばれる機械を通し、その検査から漏れた死卵を手作業で除去していると聞いたことがある。

それでも死卵や無精卵は混じるので、これをいかに取り除くかが重要ポイント。死んでしまった卵はカビが発生し、近くの健康な卵にも伝染してしまう。

「いいか〜。白くなってる卵、目や血管が出来ていない卵、色が変な卵を一粒残らずつまみ出せよ〜!」

「変な色ってどんな色のこと?」

「食ったらまずそうな色デ〜ス(←適当)」

3人並んで卵をじっと見つめる。注意深く見つめる。ウ〜ンとうなる。

「とっさん、あのさ、どれも健康そうに見えるけど・・・?」
「色が少し濃かったり薄かったりはあるけど、白くなってるのとかは一個もなさそうやで??」

「ですよねー」

色の濃い・薄いは親魚の違いによるものなので気にしなくていい。しかし・・・確かに異常がありそうな卵は一粒も無い。アマゴセンターのオバチャンが完璧にチェックしてくれたらしい。
いい仕事してますな。

 

フタが開かないようにヒモで縛り(コンビニ店長の日常業務です)、第1放流ポイントで沈めるボックス以外はクーラーボックスに詰め込んだ。

100均で買った水きり用のケースにバイバート・ボックスを入れ、周囲を石で固定。第1ポイントに沈めるのは豆腐保存用容器改良型ボックスと、1個しか作っていない虫かご改良型ボックス。
虫かご改良型は、孵化後に下段に落ちる穴の部分にやや不安が残るが、ご覧のように透明な窓が付いており、中の様子を確認することが出来る。
ボックスの回収のタイミングは、このバイバート・ボックスを見て決める算段だ。

ボックスを設置するポイントは、水深40cm前後・流速が毎秒20cm程度で、砂やシルトが堆積していないところ、直射日光がなるべく当たらない所、が望ましいらしい。
しかし、水深・流速・日光はどうにかなっても、安濃川で小石が川床を埋めてるポイントって無いんですよね。

「泥や砂が底に溜まってなくて、流れが緩やかな場所を探して」と、手下二人に指示を出す。
3分後
「ないない。そんな場所ない」お前らコーヒー1本分ぐらいは働けよ。


仕方ないので、流速などで条件の良いポイントに小石を沈め、その上にボックスを設置することにした。
ここで問題になったのは設置場所。
近くの足場から手の届く範囲にするか、2〜3mほど離してウェーダーを使わなければ近寄れないようにするか。

このボックスは孵化の状態を観察するためのモノなので、なるべく近いほうがいい。しかし、知らない人が何じゃこれ?とボックスを開けてしまったりするのは困る。
3人で協議した結果、次のとおりとなった。

@見たい人は、手が届く場所でも水の中でも、最終的には無理にでも見てしまうだろう。

A下手に場所を離すと、固定用のロープを引っ張って手繰り寄せたり、石を投げられたりするのではないか。

B箱がひっくり返ったり、卵が外に漏れたら元も子もない。

Cそれならば、注意書きを見やすい位置に取り付け、手を伸ばせば見れる状態の方の方が、最悪の事態は回避できる。盗む人もいないだろう・


という結論。早速設置に取り掛かる。

あまり登場しない管理人・俊の御姿。ハゲでもデブでもないのでそこんとこよろしく。
慎重に、ボックスを水に沈める・・・・。

んギャーーーー!冷たい!手が取れそう!ゴム手袋使えばよかった(泣)

 

放流中のプレートと固定用のロープを取り付け、第1ポイント設置完了。石をどかせば中が見えるように、少し浅い場所に設置した。渇水が心配。


第2ポイントからは人目につかない場所を選んで設置するので、下見をしておいた薮の奥のポイントに移動する。しかし、手ぶらだった下見の段階と違い、今回は荷物が多い。入川ポイントを探すべく、3人手分けして薮に突入。
10分ほど彷徨ったが、川に簡単に降りれそうな場所が見つからない。

「撤収ーー!ここはちょっと無理!」と叫ぶ。コンビニ店長が戻ってきて、消防士Aを待つ。

しかし、消防士のヤローが戻ってこない。

「オーイ!戻るぞ!どこや!」

返事が無い。


二人で探すが、どこにもいない。


やばい。こんな安全そうな川で遭難でもしたのか?心配だ。


車に戻り、二人揃ってタバコを一服(←全然心配してない)


しかし、タバコを吸い終わっても帰って来ないので、これはもしかして何かあったのか、という話になり、捜索隊を編成して出撃。(隊員二名)
「一番遭難したらあかん人がどこ行ってんのや!」「嫌だなぁ、岩場でこけて頭から血流してたりしたら・・」

程なく、向こう岸で動く人影を発見。

「オーイ!戻るぞ。ここは無理っぽい」

「ヨーシ。何とか渡れた。あ!そこからこっちまで来れるで!」

アホか。お前一人だけ渡って何するんや!荷物を降ろせる場所探さな意味無いでしょうが!!!」

素で「あ」という顔をして、消防士も帰還。大丈夫かお前。

再度手分けしてポイントを探し、良さそうな場所を発見。

 

第2ポイント設置完了。コンビニ店長が足を滑らして水没するが、誰も気にしてない。

このポイントは川底の状態は申し分ないが、西日がかなり差し込む。大量の石を乗せてガッチリガードしたが、帰って来て写真を見るを、ボックスが潰れてないか心配になってきた。

コツコツとまめに作業をこなすコンビに店長と、なんか無駄に元気で余計な行動が多い消防士。普段の仕事ぶりが垣間見れる。

3箇所目となると慣れたもの。手際良く石を集め、ロープで固定して無事放流は終了した。

放流を終えた率直な感想としては、想像以上に大変で、恐らく、一人でやってたら日が暮れてたかも知れない。
しかし、今回は全てが初めてだったので仕方無い面もあり、作業の流れが分かったので、次からは一人で何とかできそうとも感じた。

でも、数人でやるとバカな事も色々やらかしてくれるが、中々楽しいものだ。放流の効果を見て、もし次回があればバーベキューがてら放流活動ってのも面白いかと思う。

第1ポイントに戻り、3人でおにぎりをほうばる。やたら旨い。石をどけて、卵を水中撮影。

「どれぐらいで卵から孵るん?何年したらでかくなるの?」全く興味の無かった二人が色々聞いてくる。川や魚に全く興味が無かった人間が、こうも変わるものなのか。

英語や方程式を教えるのもいいけど、課外授業の一環として学生に体験してもらいたい活動だなぁ・・と、ぼんやり考えてみるが、今の自分に出来ることはこれが限界。
自分も娘が生まれたばかりで、新たな活動に打って出るのは難しいが、第2回放流活動も含めてじっくり計画していこうと思う。



この子達が、逞しく成長してくれる事を切に願います。


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