若年寄日記

負けるな、一茶 !!
 みなさんは長野県出身者というと誰を思い浮かべるだろうか。最近で言えば、田中康夫知事が有名だが、彼が長野県出身かどうかは定かではない。長野県出身者ということになると、少なくとも私の記憶の中では誰も見当たらない。ただ1人を除いては。 
 小学校の時だっただろうか、私はある人の伝記のようなものを読んだ。その本の中に、彼が信濃、現在の長野県出身だということが書いてあった記憶がある。その人とは、江戸の代表的俳人、「小林一茶」である。彼は代表作、「雀の子 そこのけそこのけ お馬がとおる」などで知られているが、私が思うにその時代では最も有名な俳人の1人なのではなかろうか。
 さて、その一茶であるが、残念ながら現在では長野県内でも、彼が長野県出身であるということを知る人は少ない。先日、役場で「一茶まんじゅう」などというものが置いてあったので、お茶の時間にいただいた。近くにいる人に「やっぱり、長野県ですね」と言ってみたところ、反応が芳しくない。そこで、「いやいや、このまんじゅうのことですよ」と言ってみたところ、返ってきたこたえは、

「このいっちゃまんじゅうがどうかしたの?」

である。私は何も言えなかった。
 話は変わるが、長野県ではどんな新聞が読まれているかご存知だろうか。長野市・松本市といった都市部での状況は少し異なるかもしれないが、ここ飯山市など農村部ではほとんどの世帯で「信濃毎日新聞」(略して、しんまい)という新聞が購読されている。ほぼ独占状態と言っても過言ではない。このような状況なので、長野県では「信毎」に出た記事はものすごい影響力を持っているのである。
 さて、その「信毎」の話なのだが、毎週月曜日の朝刊にコラムを持っている人物がいる。それも毎回半ページものスペースが与えられていて、なんとも大々的なものなのである。さてはて、そのコラムを寄せる人物とは、なんと長野県が生んだスーパーアイドル、「乙葉」(おとは)その人なのである。彼女を知らない人のために少し説明を加えておくと、彼女は現在、男性誌を中心に表紙やグラビアを飾り、テレビでも「どっちの料理ショー」などで活躍している超売れっ子アイドルなのである。さて、その彼女、毎週「乙葉のオトハチックに」と銘打ったコラムで、自身の体験談についていろいろと語っている。例えば、はじめてのグラビア撮影で水着を着たときの苦労話や、芸能界で行き詰ったときに友達から受けたアドバイスのことなど、自身の体験について飾りたてることなくありのままの姿を表現しているのである。この飾り気のない表現がウケたのだろうか、「信毎」を読んでいる人、つまり長野県民の中では彼女は相当な知名度を得ているのである。役場の人はもちろん、農家のおばあちゃんだって「乙葉」と言えばそれなりの反応が返ってくるのだ。
 よそ者である私には、このような長野県の状況がショックだった。江戸の偉大な俳人が「いっちゃ」と呼ばれ、1人の小娘が農家のおばあちゃんをして「乙葉ちゃんもいろいろ苦労してるんだねぇ」と言わしめる、この状況が。だが、一番ショックを受けているのは、当の小林一茶なのではないだろうか。もしかしたら、彼は数百年後の自らの処遇を憂いて、この俳句を作ったのかも知れない。

「やせ蛙 負けるな一茶 これにあり」


2002年05月24日



トップへ
戻る
前へ
次へ